「なぁイヅル、ちゅうして?」



穏やかな昼下がり、心地良い日差しについうとうとしてしまいそうになる意識を払い除け執務を再開しかけた途端掛けられた唐突な声。


あー…見なかった事にしよう、まさか隊長格たる人物が僕の机の端に両肘ついて至極の笑み浮かべながら執務妨害なんてする筈が……。


「なぁ、ちゅうって言っとるやん」


聞こえてへんの?とか言いながら不服げに唇尖らせないで下さい。
何寝ぼけた事言ってるんですか。


「……今は執務中ですよ?というか接吻は恋人同士のする行為であって…」


「…イヅル、ボクん事嫌いなん?」


嗚呼、小首傾げて上目遣いで…何ですかその可愛いの。でも騙されませんよ?そうやって眉下げて唇への字にして寂しそうな顔して、物欲しげな視線送ったって駄目です。
なんせこの書類の期限今日なんですよ?しかも隊長が滞納した分なんですからね?


「好きとか嫌いとかじゃないです、この書類早く終わらせて総隊長に提出しないと…」


「…イヅルはボクより書類が好きなんやね…」


まったく、あぁ言えばこう言う…悄げたように俯いたって駄目です。
あ、隊長羽織の裾握ったりなんかして…皺になったら誰が綺麗にし直すかわかってるんですか?





「…………ボクはイヅルん事大好きなんに…」





「……ッ………はぁ…」





そもそも目障りなんですよ、そんな所にしゃがみ込んで今にも泣きそうな顔隠すように膝に埋めて…挙げ句の果てに『大好き』だなんて呟いて。
「ちゅうして」って言われてからずっと、僕の思考の全てを貴方が支配してるって知ってますか?
お陰で書類整理が捗らない…どころか一向に進んでないんですよ?


それに何より…僕の気持ちを知っててそういう態度をとってるというのが腑に落ちません。


仕方無さげに溜め息を漏らして筆を置いて、重い腰上げて寂しそうに小さくなった貴方を抱き締めて。
「一回だけ、ですからね?」って言った時のあの膝から上げられた満足げな笑み。


ほら、僕がこうするって解ってたみたいなその態度が気に食わない…。



それでも。



こっちに顔上げて、瞼閉じて、ぎゅうっと抱き付きながらせがむように唇尖らせて。
可愛らしく上手におねだり出来たんで、今日だけはご褒美にキスしてあげます。


決して僕が貴方の可愛らしい姿にキスしたくなったからじゃなく、あくまで貴方が上手におねだり出来たからするんですからね…?







君依存症

柔らかく重なった唇に思いの外長い接吻を贈って。

解放した時の貴方の笑みにまた一歩堕ちていく。


(症状…動悸、胸の痛み、急な体温上昇。処方箋…君と少量の糖分。)




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