和かな春風に銀髪を靡かせ桜舞う道を隊長である藍染に足並みを合わせ青年は歩みを進める。

天気も良く、日向ぼっこには最適な日和だ等と考えつつ笑みを浮かべぼんやり天を仰ぎ見ていればふと藍染が足を止めた事に気付き目の前の建物に視線をやった。


「……真央霊術院…此処来るん久しぶりやぁ」

「――…僕は講義に行ってくるけど…ギンも来るかい?」

「嫌ですわぁ、ボク暇やから付いて来ただけやし…何よりそんなん行ったらボク寝てまいますやろ?副隊長としてシメシつかんなりますもん」

威張ったように言い張る市丸に藍染は呆れたように溜め息を一つ漏らしたものの相手の性格上大体の返答は理解していた為に叱る事はせず穏和な表情のまま言葉を紡ぐ。

「講義は二時間程度だけど…一人でいい子に待ってられ「藍染はん、ボクもう子供ちゃいますよ?…まぁ院内でもウロウロしながら時間潰して待ってますわ」

子を心配する母のように言葉を掛けていればわざとらしく唇を尖らせる市丸に気付き苦笑しつつ宥めるよう軽く頭を撫でてやり、教材等軽い荷物を手にした藍染はそのまま先に一人真央霊術院へと足を進めた。


「――……此処は何十年経っても変わらんなぁ…」

ポツリと言葉を漏らしつつ藍染の消えた建物へとゆっくりした足取りで入っていった市丸は一人院内を特に宛てなどないままに歩いていたものの、流石に死神の…しかも副隊長という地位に立つ市丸が歩いていれば嫌でも人目を集め、その視線が次第に苛立ちに変わりだす…。

憧れ、尊敬…向けられる全てが下らない。

募る苛立ちから逃れるように足早にその場を去ろうとした瞬間――――。

「――――……あ、あのっ…もしかして貴方は…五番隊の市丸ギン副隊長、ですか?」

進みかけた道を遮るように現れた院生であろう少年は瞳を輝かせ辿々しい言葉を市丸に投げ掛けた。

「ぼ、僕っ…ずっと市丸副隊長に憧れててっ…あの、良かったら色々お話を伺いたいんですが―――」








「――…自分何謂うとん、ボクは君に話す事なんてあらへんわ………其れより目障りやねん、退きや」

鬱陶しい…。

ただそれだけ。


ドスの効いた低い声に一気にその場の空気は重みを増し先程まで輝いていた少年の表情は一変、真っ青な顔色となった。
その場から避けるどころか息苦しげに地に這いつくばる少年は今にも失神寸前の状態…。


(――…嗚呼あかん、霊圧上げてしもた)

地に這いつくばる姿に冷ややかな視線を向けていた市丸はハッとし霊圧を下げるも少年に手を差し伸べるつもりは皆目無く、踵をかえせばその場を後にした。


(…あーあ、エエ子にしとく謂うたんに…後で藍染はんに怒られるやろか…)

先程の行いを特に反省する様子無く人気の少ない廊下をぼんやり歩いていればふと視界に止まった文字…。


――第一書庫――


「――……こらぁまたえらい懐かしいとこに来てもぉたわ…」

陽当たりが良く、あまり活用されていないこの書庫は人気も殆ど無い為に当時市丸は授業をサボるといえばこの書庫に隠れ昼寝をしていた。
そんな思い出に口元を緩め静かに扉を開く…。

僅かに古い書物の香りがし、窓からは暖かな陽の光が射し込む。
整頓された書物、木製の机、色褪せたカーテン…。

「―――……なぁんも変わってへんなぁ…………ん?」

室内を見回しつつ中へ中へと足を進めていた市丸はふと視界に映る金色に足を止めた。

机に積まれた数冊の書物。
その影に隠れるように机に突っ伏す少年は静かな寝息を立てていた。

細く柔らかげな金髪。

血の気の薄い色白な肌。
長い睫毛に端麗な表情…。

一瞬女性とも思えるその美しさに息を止めまるで何かに吸い寄せられるかのように市丸はその少年の傍らへと赴く。

(ひゃあ、こらぁえらい…べっぴんさんやねぇ…)

腕を伸ばせば触れる事が可能な距離まで近付くも気付く気配もなく尚も眠り続ける少年に体を屈ませゆっくり顔を近付ける。

近くで見ればより整った表情に、無意識に"触れてみたい"という感情が芽生えた市丸は手を伸ばし先細く長い指先を柔らかな金髪へと触れさせた。

「―――…んん…」

その瞬間小さく漏れた声。
慌てて手を退くも起きる気配のない少年。

余程疲れているのであろうその様子に安心し一息漏らした市丸は丁度少年の向かいに当たる席に静かに腰掛け、機嫌良さそうに眠る少年を見つめ時間を潰した。
















……………。




「―――…ギン、何だかさっきから機嫌が良いみたいだけど…何かいい事でもあったのかい?」
2時間後、講義を終えた藍染と合流し共に帰路についていた市丸は相手の言葉に顔こそ向けはしなかったものの笑みを深めた。

「…今日古い書庫で、昔藍染はんが読んでくれはった"眠りの森の美女"に出てくる眠り姫に出逢おたんですわ」

「――………眠り姫…?…ギンのお眼鏡に敵う美女ならちょっと僕も逢ってみたいね」

「あきませんわぁっ…ボクが見つけたんやもん、藍染はんにはあげしません」

「…冗談だよ、だがそんなに気に入った子がいるのならまた次の講義にも付いてくるかい?――…今度はいい子にしている、という条件付きだけどね」

「――…ホンマですか?エエ子にしとくって約束しますわぁ」









恋のはじまりほどシンプル
(…眠る君に王子様のキスを送ったのはボクだけの秘密)




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長々意味不明作品←
イヅル出てきてるけど出てきてないに等しい感じ(笑)
また気が乗ればギンが院生イヅルに猛アタックしまくる日々を書けたらいいなぁ、的な…書けたらいいなぁ…←



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