ある街ある昼ある男たちが食事に連れ立つ
ある街ある昼ある男たちが食事に連れ立つ




「やあ世捨て人」
「おや御曹司」

「街で会うなんて珍しいね」
「そうかな?」
「そうとも。たいていは山か事件の場だろう」
「そう言われると……」
「まあいいや。どうだい、ここで会ったのも何かの縁。昼食でも?もちろんご馳走するよ」
「なんでもちろんなのか分からないけど…そうだね。丁度いい頃合いだ。」
「そうと決まったらさあ行こう。近くにサラダバーの美味しいステーキ屋があるんだ。」
「昼からステーキかい?」
「どうせ君はチョコレートと缶詰ばかり食べているんだろう、見れば分かるよ」
「私のことは置いておいて。私に付き合って粗食をしているルカリオに精の付くものをあげたいな。」
「だからそこで置いといちゃうのが問題なんでしょってこと。大丈夫、ポケモン用のブュッフェがある」
「(ぶゅっふぇ?)うん、君が言うなら間違いないんだろうね」
「さ、行こう。こっちだよ。」



「最近どうだい?」
「ん?」
「いや、だからほら。最近…」
「最近…いや別に。変わりないよ。鋼鉄島に滞在して、たまにトウガンさんの手伝いをして、気が向いたらしょうぶどころに行って…」
「悠々自適の自由人、ってわけかい。良いなあ羨ましいなあ」
「いや待ってくれ君にそう言われるとちょっと得心いかないぞ私は。」
「そうかな?はは、言ってる意味がよく分からないなあ?」
「おやおや、しっかりしてくれホウエン地方"元"チャンピオンのデボンコーポレーション"次期"社長殿?」
「ふふふ君のそういう辛辣なところ好きだなあゲン。」(にこにこ)
「ありがとう私は君のそういう無責任なところ嫌いだよダイゴ君。」(にこにこ)

「…あ、チャンピオンと言えばさァ、思い出した」
「?」
「僕、復帰しようかと思ってるんだよね」
「それは…チャンピオンに」
「チャンピオンに。」
「ほう。何でまた?」
「いやあ僕は正直面倒で嫌なんだけどね。ミクリがさ」
「ああ、押し付けられた哀れなご友人が」
「『忙しくてやってられない』って。『ポケモン達を磨く暇も、コンテストに出掛ける暇もない』ってさ。両立できないって泣きついてきてね」
「成る程。…ちなみに、これはただの好奇心なんだけど」
「うん?」
「実際に泣きついたりはされてないんだよね?」
「うん。腕組みで仁王立ちしながらトゲトゲした口調で、でもにっこり笑顔でそう言われただけ。」
「だよね。まさかいい歳した大人がと…ダイゴ君あまり脚色して喧伝しない方が良いよ、友達なくすよ」
「大丈夫!ミクリは本当に僕のこと解ってくれてるから」
「なら良いんだけど。…あ、料理きたね」
「きたきた。美味しそうだろう?」
「ああ美味しそうだ…ねえこれ、私は普段こう言った類の店を利用しないから寡聞にして知らないのだけど、もしかしてとても高くて良い肉なんじゃないかい?」
「さあどうだろう。悪くはないけど、別に騒ぐほど良くもないんじゃないかな」
「そう?凄い分厚いんだけど…」
「切るの大変だよねーさあさあ食べよう!」
「いただきます。…あ、美味しい」
「でしょ?ここのはさ、ソースが良いんだよね。さっぱりしてるでしょ」
「してるしてる。何の味だろう?タマネギ?」
「知らない。料理とかしないし」

「………」(もぐもぐ)
「………」(ぱくぱく)

「…それで?ダイゴ君、話の続き」
「ん?何だっけ?ああチャンピオンの」
「そうチャンピオンの。ミクリさんに忙しいと訴えられて、それで君が復帰しようと想ったんだったね」
「そうそう。まあ僕もね、いい加減父の目が冷たくなってきたし」
「そういう理由かい」
「あと僕のポケモン達も、歯応えのないバトルばかりさせられてつまらないだろうから」
「それは大事だね」
「大事さ。どう?あとで一戦」
「私が?うーん…ルカリオが良いと言ったら。」
「まーったく君はいつだってルカリオルカリオ…。ナイトに従順な君主なんて、本末転倒だ」
「そうかなぁ。従順ではなく信愛のつもりだけど。」
「はいはい。あ、このドレッシングウマい」
「本当だ美味しいね。梅とじゃこ」
「そうなの?へー、よく判るねー」


「…ダイゴ君、肉もう食べないの?というか、全部食べなよ」
「えー……」
「笑ったって駄目。ほらほら、まだ半分以上もあるじゃないか」
「多かったみたい。僕の繊細な胃が驚いちゃって」
「…………」
「…ちょっと、そのトンでもなく脆弱な生き物を見るような眼をするのはよしてくれ!言っておくけど僕は、特別小食というわけじゃないんだよ」
「そうかなあ…なら偏食?それはそれで良くないと思う」
「違う、違うって。…ほら僕は見てのと降り細身だから。入らないの。自分で注文しておいてなんだけど、じゃあ何かい!?小柄な男子はガッツリしたステーキ食べちゃいけないっていうのかい!?」
「いや怒らなくても。ね、責めてるわけじゃないから。落ち着きなさい」
「…本気でそういうこと嫌いそうだから…」
「食べきれないんじゃ仕方ないけど、残すのは頂けないなあ」

「…………」
「…………」

「…ゲン、よかったら、半分食べる?」
「いいのかい?」(にこっ)

「……おっかしいよなあ…僕に負けず劣らずほっそいナリして、どうしてそんなに食べられるの?」
「変かな」(もぐもぐもぐ)
「変だって。一日二食主義…」
「ではないよ。」
「むしろゲン、僕より少し背が高いし、それでこの細さだもんなあ。どこに入っていくんだろう。大丈夫?過食症とかじゃない?」
「心配は有り難いけど、問題ないと思うよ。私は波導使いだから」
「…あぁ〜…」
「たぶんだけど、波導の力を使うために常人より多くのエネルギーを必要とするんじゃないかな――野菜、食べなさい」
「はーい。…そんなものかなあ。でもまあつくづく意外というか、君がそう威勢よくタンパク質摂ってるのは新鮮だ」
「…あの、私も勘違いしないで欲しいんだけど」
「ん?」
「たくさん食べられるというだけで、何というか、食欲旺盛というわけじゃない…と想う。実際普段はチョコと缶詰めだし…君の言うとおり」
「なんでその変な食事でその美貌を保っていられるのか、それも不思議。やっぱ波導の力?」
「びぼ……さあ、それは解らないけど…」
「まあいいや。うん、今日はたまたま目の前にデッカイ肉があるから食べられるだけ食べておこうっていう、そういうことなんだよね?いいよいいよ僕のことは気にしなくて。」
「悪いね。…やはり一人でがつがつと食べるのは意地汚い気がしてしまって」
「とんでもない!よく食べる子って好きだよ。見ていて気持ちいいじゃないか」
「うん、それは私も本当にそう思う」
「ミクリなんかはさ、一緒に食事をしてても、ちまちましててどうもねえ。磨き上げたポケモンに見劣りしないように彼自身もいろいろと気を遣ってるんだけど、逐一コラーゲンがどうのカロリーがどうのと言われてごらん、正直ちょっとウルサイよ」
「そう?しっかりしていて有り難い事じゃないか。君が言われるわけではないんだろう?」
「まあそうだけど…」


「…あぁ、ミクリと言えば、」
「うん。」
「チャンピオン復帰しようかな、って言ったよね、ミクリがネをあげたって。」
「うん。」
「あれさあ――僕がチャンピオンやってたとき、全然忙しくなかったんだよね」
「……?」
「ミクリは『引きも切らない挑戦者たちで、ポケモンをコンテスト用に訓練する暇もない』って言うんだけど、」
「引きも切らない、とは?」
「一週間に2,3人って言ってた。これ、ないから。ふつう。」
「そうなのかい?私は相場を知らないけど、確かにシロナさんなんかはよくフィールドワークに出ていて、リーグの方は大丈夫かと気になったことはあるが…」
「そう!僕の経験則では――少なくともホウエンでは、チャンピオンロードを抜けてリーグまで辿り着くのは一週間にせいぜいが2,3人。そして大抵は四天王で敗退するから、チャンピオンまで勝ち抜くトレーナーって、ひと月に1人いるかいないかだよ。」
「へえ…」
「だから基本的に、チャンピオンは拘束されない。呼ばれて1日以内に帰ってこられる場所であれば、必ずしもリーグにいる必要はない。だってお呼びがかからないから。…まあうちの四天王は普段から割と自由だけど…」
「いや初耳だ。まさかそんなに少ないとは」
「あくまでウチはだけどね。カントー・ジョウトのリーグはもっとトレーナー自体が多そうだし、ホウエンは水路が多いぶんジム巡りが他所より過酷らしいし。分からないけど」
「うん、でもまあ大体ひと月に一人と。」
「そう。それでミクリだよ。彼がチャンピオンやってる期間、さっきも言ったとおり、一週間に2、3人だよ!?凄いでしょう」
「確かにそう聞くと…、四天王の皆さんに変わりはないんだよね?」
「ないない。だから挑戦者自体がすっごい増えてるってわけ。増えればその分実力のあるトレーナーも増えるし、四天王の疲労は溜まるよ」
「それで僅かなりとも、突破しやすくなった…と?」
「おそらく。」
「それはなんというか… …お疲れさま?」
「うん、本当にお疲れさま、だよね。で、で、気になるのが『どうしていきなり挑戦者が増えたか』でしょう。」
「ああ、そこは確かに気にかかるところだ。」
「みんなに文句言われて以降、各ジムリーダーに聞き取り調査をしたんだけど」
「そーいうことをしてるから……」
「傾向としては、だ。僕がチャンピオンを退いてから半年ほど経って、急激にジム挑戦者が増えたらしい。イチからジムをまわり出す初心者トレーナーじゃなく、ぱらぱらとジムバッジを獲得していたトレーナーが、一気に残りを集めようと動き出した感じね」
「………。」
「また、チャンピオンロードにもえらく人が増えた。――これまでジムを制覇はしたけど、リーグには挑まなかった人たちが意を決したように」
「ははあ…うん。読めた」
「話が早いねえ。ついでに言うと、…女性トレーナーも、目に見えて増えたとか。」
「ははは!それはいい、随分と華やいだだろうね」
「仰るとおり。――さて、導き出される結論は?はい、ゲンくん。」
「はいダイゴ先生。『これまで挑戦を躊躇っていたトレーナーたちが、今のチャンピオンは元ルネジムのミクリだと聞いて、それなら勝てるかもと揃って考えた、そしてもともとの女性ファンが、チャンピオンミクリ様とぜひ勝負をと、これも一斉にリーグを目指しだした』、ですか?」
「うん、完璧。満点をあげよう。」
「ありがとうございます。――と、本当にそうなのかなあ?」
「だと、思うけどねえ。ファンの子はともかく、僕は倒せなくてもミクリなら、と思った連中は何て愚かなんだろう。本当に馬鹿馬鹿しい…」
「ジムリーダーが四天王やチャンピオンより明らかに劣るなんて、言い切れたものではないのにね。」
「うん。ジムリーダーにだって何だってそれぞれの事情があり、経緯があるのだから」
「まあ、一般のトレーナーには、リーグに住まうものはある意味雲上人のようなものらしいから。…ダイゴ君、怒っているの?」
「…ん?別に?」
「そう、なら良いけど。…まあ、そんなひっきりなしに訪れる挑戦者を軒並み下したミクリさんの強さはもうホウエン中のトレーナーに知れただろうね。」
「そうそう。だから彼に『もういいよ、ジム戻ったら?』って言ったら、バトルは休憩だって。しばらくコンテスト中心に活動したいらしい。」
「はは、それはそうなるだろうね。何て真っ当な人だろう…一度会ってみたいな」
「そうだよ、紹介するから会いに来なよ。ミクリも喜ぶから。そもそも何で会ったことないの?よし決定、今から行こう今から。」
「え。え…今から?」
「今から。リーグ行って君を紹介して、ついでに内輪でバトル大会でもして、僕がビシッとミクリを負かせばその場でチャンピオン交代だ。そうしよう!君も参加しなよ、ゲンが勝ったらそのままホウエンのチャンピオンになったって良いからさ」
「いや私はチャンピオンはならないよ?」
「えーと、ゲン、予定あるの?ないよね?ていうかこっち優先させて!」
「はい、はい。まあ良いけどね…ルカリオが良いって言ったら。」
「またルカリオ!ほんとーに君はルカリオが好きだねえ…」
「それ言うなら君は本当にミクリさんが好きだよね。」
「そうかなあ…じゃあま、そういうことで。会計してる間にポケモンたちを迎えに行ってきてよ」
「そうしよう。…あ、割り勘だよ、払うからね」



「「ごちそうさまでした。」」



(ルカリオ、美味しかったかい?)
(はい。ごちそうさまでした。ゲン様も、ダイゴ様との会食はいかがでしたか?)
(楽しかったし、美味しかったし、満腹だよ)
(それはなにより。――では、シンオウへ?)
(うん、そのことなんだけどね、ルカリオ。ちょっとホウエンリーグへ、お邪魔しに行こうじゃないか)
(!!??)

(ゲンー、行こー!)



おわり。





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・ダイゴさんが子供っぽすぎ?
・坊ちゃんだからかなり贅沢なダイゴさん。
・気が付いたらミクリさんの話してるダイゴさん。
・ミクさんを大いに認めてるけど結局一番つよくてすごいのはボクなダイゴさん。
・ゲンさんは意外と良く食べる子だとかっわいいと思うんですがいかがでしょうか。波導はかなりエネルギー使いそう。

・ちなみにポケモンリーグは、アニメみたいになんかTV中継?とかされない、一人でずんずん勝ち進んでしめやかに行われるゲーム版を意識してます。そこらへんのトレーナーにとってポケモンリーグはかなり聖地であり、四天王やチャンピオンっつったらとてもとても手の届かない存在であって、よっぽどの通でないと顔も知らない、といいなあ。という妄想でした。

実際はどうか知らんが、少なくともゲームではダイゴさんとかワタルさんとか、チャンピオン!って気づかれてる描写ほとんどなかったと思うし。うん、そうだといいなあ。

クッソ長くて読みづらい事おびただしかったと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございましたー!








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