1.ひろう




ざあ、と波の寄せる音が静かに鳴る。トウガンが歩を進めると、柔らかい砂浜に大きな足跡が残っていく。

いつからか日課になっている早朝のランニング中には、色々なものを拾う。誰だって経験があるだろうが、例えば長靴が片一方だけだとか、打ち上げられたか弱い水ポケモンとか、砂浜に煌めくものがあると思えば何と真珠だったりとか。まさに玉石混合、その日の朝何を拾ったか(あるいは見たか)によって、一日の気分も変わろうというものだ。

そして哀しいかな、トウガンはこの浜辺を何百何千と行き来した中で、


――行き倒れを見るのは、初めてではなかった。


トウガンは一瞬立ち尽くした。波打ち際のぎりぎり水のかからない位置で、長々と横たわっている"もの"がある。
一瞬どざえもん、という言葉が脳裏をよぎったが、"それ"はさして濡れても、膨らんでもいないようだ。
「息があるかもしれん」
己に言い聞かせるようにそう呟き、トウガンは"それ"に駆け寄る。

男だった。全体的に蒼っぽい服に、黒いマントのようなものを風に曝している。人形、ではない。黄色い浜辺に細く散る黒い髪の毛も、投げ出された手の甲の透明感も、伏せられた睫の長い曲線も、作り物めいていたには違いないが、ここまで大きな人形はないだろう。


ざ、ざ、ざん。
波の音が激しくなった。――風が出てきたのだろう。


トウガンは"それ"改め"行き倒れの男"の傍らに膝を着いた。
「おい、おい!あんた、生きてるな!?」
ぺしぺしと白い顔を叩くと、うん、と鼻にかかった声。生きている。トウガンの胸に強い安堵が去来した。
「トリデプス!」
一緒にランニングをしていたトリデプスに目をやると、心得たとばかりに頷いて首を低くするので、その背に担ぎ上げた男を乗せる。男は信じられないほどに軽かった。
そうしてから軽く周囲を見渡したとき、男の片手が強く握りしめているベルトが目に入った。今はトリデプスの背からだらりと下がり地に這っているそれには、見慣れた、見慣れすぎた。
(モンスターボール!)
こいつ、トレーナーか。軽い驚きとともにその細面をまじまじと見ると、トリデプスが催促するように足踏みをするのに我に返る。

「ああ、…行こうトリデプス、なるべく揺らすなよ」

そう言いつけ角をひと撫でし、トウガンは自宅へ――ミオシティのジムに向け、走り出した。





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