空は快晴、太陽はぽかぽかと暖かい。こんな中でたこ焼きを食べたら美味しいだろうな、とそう思った。
「金太郎!」
背中に抱きついてきたのは幼馴染み、とは言っても金太郎にとっては昔から一緒にいたからあまり幼馴染みという事については気にしていない。
年頃の幼馴染みと言えば互いに互いを意識して上手く付き合えないものだがこの2人はそんな事もなく今でも手を繋いだりしていた。
「相変わらず仲ええなぁ、お2人さんは」
「そうなの、かな?」
「よくわからへんなー」
そして2人揃って天然であった。テニス部の部長であり金太郎の世話をしている白石は苦笑いを見せる。
2人揃って今でも手を繋いでいるなんて、とても可愛らしいじゃないか。
「ねぇ、金太郎、今日はパフェ食べに行こう!」
「ええよ! 今日はパフェ日和や!」
2人のそんな会話に微笑ましくなってしまいまた笑いを見せる。しかしそれを静観していた周りの人間は違うらしかった。
「あかんなー、金ちゃん達自覚あらへんわ!」
「金太郎はん、そのままちゅー、した方がええ経験になると思うわ」
「ま、所詮子供の恋愛っすから」
煽るんやない、思わずそう突っ込んでしまう白石。しかし2人はわかっていないようでとても不思議そうにしていた。
「何の話なん?」
「何の話なのかな?」
「はぁ…」
一斉に溜め息を吐かれても全くわからないらしい。それがこの2人が子供っぽいと言われる由縁なのだろう。
「パフェ、美味しかったね!」
「そやな、わい腹いっぱいや!」
再び手を繋いでレジに向かう、金太郎と分けあってお金を出していると店員さんがクスクスと笑っているのに気付いた。
「…?」
「良い兄妹ですね」
「兄妹…?」
そうじゃないのに、そう思い口に出そうとするが金太郎が探していた十円玉を見つけ声を上げたため結局何も言えなくなってしまった。
「ありがとうございます」
「………」
「また来よな!」
「う……ん」
笑顔の金太郎とは違いその表情はどこか暗い、店から出て夕焼けに染められる町を歩いていると不意にある店が目に止まる。
その店のウィンドウには女の子らしい指輪やネックレスなどが飾られていた。急に立ち止まってしまったため金太郎は引っ張られる形になる。
「どないしたん?」
「あ、ごめん、ね?」
「これ、何なん?」
金太郎に自分には似合わない可愛いものを見ていたと知られると頬が熱くなる。クラスの子にも子供っぽいとか言われているのにこういうのを見ているなんて、自分でも情けない。
「これ欲しいん?」
「え? あ、えっと、そういうわけじゃ、なくて……」
「そうなんや」
ふーん、とあまり興味がなさそうに言う金太郎。追及されずにホッとするが金太郎の目にそんな自分がどう映っているのか、そう考えると身体がカッと熱くなり繋いでいた手を離してしまう。
「…? 手…」
「ご、めんね、私、こういうの、似合わない、でしょ?」
目尻が熱くなって涙が流れそうだった。でも泣いたら情けなくて金太郎に顔向け出来ない、逃げようにも足が動いてくれない、金太郎の困惑した顔が涙のせいで歪んだ。
──結局、何も言えないまま、金太郎に連れられて家路についた。
「………」
今日は休日、金太郎の顔を見なくて済む。あのあと、家についた途端泣き出してしまって家族を心配させてしまったし、そう思い溜め息を漏らした。目の前に広げてあるのは流行りのファッション雑誌、可愛いけれど自分にはやっぱり似合わない。
「(子供っぽいって、言われたくない)」
言われる度に傷ついて、馬鹿みたい。そう思っていると涙が溢れてきて慌ててそれを拭った。でも、止まらない、ポタポタポタポタ、流れてくる涙。
「泣いとるん?」
「っ! きん、た…」
「泣かんで」
金太郎の苦しそうな顔、意外と大きな手が涙を止めた。それでも涙は止まってくれない、素直になれない自分が嫌いで、金太郎にすがってしまう自分も──大嫌い。
「…? 金太郎?」
「あんな、何で泣いとるかわいわからんのや、せやけど泣いて欲しくあらへん。これで泣き止んでくれへん?」
「これ…」
それはチェーンに通された指輪、昨日店にあった指輪ではないけれどキラキラと輝いて綺麗だ。
「これ、どこで?」
「んー、家探したらあった」
「家、って、駄目だよ! おばちゃんのだよね!?」
「平気やって、うちのおかんには似合わへんし、ちゃんともらってもええって聞いたんやから」
「で、も…私にはやっぱり……」
そう言い掛けると金太郎に不意に手を引かれ左手の薬指に指輪を通される、サイズが合わないのかかなりぶかぶかで手を動かしたら落ちてしまいそうだ。
「似合わへん事あらへん、だってわいが知っとるなかで一番可愛い子やもん!」
「っ…」
可愛いって言われた、それだけで金太郎を真っ直ぐ見れなくなる。くっついてみれば身体は小さいけれどやっぱり自分とは違う、男の人。
「左手の薬指、意味、知ってる?」
「結婚の証やろ?」
「知ってて、ここに嵌めてくれたの?」
「当たり前やん!」
金太郎は、最近よくわからない。自分と同じで子供っぽくて、無邪気なのに、時々凄く大人。自分も、よくわからない。どうしてこんなにも金太郎が──
「ね、この前の誕生日プレゼント」
「何でもする券が何なん?」
「あれ、取り消してもいい?」
金太郎は抗議の声を上げた。小学生までは2人の間で必ずそれが誕生日プレゼントだったから。
「金太郎の、金太郎の…お嫁さんになりたい」
きょとんとした顔の金太郎。でも、それ以上に騒がしい心臓や火照った身体とか、この金太郎に押し倒された体勢とか、どうにかしたい。
「ええよ」
「…良いの?」
「結婚は、わいもしたい」
無邪気で、明るい金太郎の笑顔。今まで、好きとかそういう感情で金太郎を見た事なかったから恥ずかしい。
「それって、私の事…す、すす好きって事?」
「当たり前や!」
やっぱり、最近の金太郎はわからない。そうやって無邪気な言葉で私を翻弄する。まるで、私の事知り尽くしてるみたいに。
そんなわからない金太郎が私は大好き。
君の取扱説明書
実はあの子わかってるんじゃないかって思うくらい無邪気な金ちゃん
0406
豹柄様提出