「バレンタインデーだよ、光君」
「だから何やねん」
俺の従姉妹は面倒な奴や、2つ歳違いで我が儘。どれくらい我が儘かと言うと金ちゃんと同じくらい言うたらわかると思う
「バレンタインデーだってば!」
「いや、だから何やねんって言うとるやろ」
普通反対やない? 外国は知らんけど少なからず日本はそうや。今まで寝てて不機嫌な俺を無理矢理起こしてキラキラした目で見つめてくる。
「バレンタインデーだからどこか行こうよ!」
「寒い、嫌や、1人で行けばええやん」
「光君がいないとつまらないもん!」
んなもん知らんわ。騒ぐあいつをしっしっと追い払い携帯で時間を確認する、12時過ぎ…ちょっと寝すぎたみたいや。
「光君冷たい…」
「はぁ…」
「私、冷たくされちゃうと死んじゃう」
「………」
うざい、鬱陶しい、年下やからって構ってもらえると思うんやない。本当にアホや。
「痛いっ、叩かないでよ!」
「叩かれたくないんやったらはよ支度しや」
「それって…」
「もう一回殴るで」
そう言うとあいつは嬉しそうに部屋を出ていった。ほんま、餓鬼。でも見てて飽きへんからおもろいわ。
「光君! 行こ行こ!」
「ああ、もう着替え終わったん? マフラーつけへんと風邪引くで」
「平気、今日は暖かいって言ってたもん!」
自分から手を繋いでくるこいつは無邪気に笑っとる、こういう事は彼氏とやれと言いたいがこいつに彼氏が出来ると思うと鼻で笑えるからあかんわ。
「光君はどこ行きたい?」
「どこでもええわ、あー…でも暖かいとこ、出来ればパソコンがあって暖房があって煩い奴がおらんとこ」
「わかんないよ、そんなとこ」
家や家。こいつ金ちゃんと同じくらいの頭なんやない? そう思ってただあいつに手を引かれているとカフェを見つけ迷いもなく入っていく。
「いらっしゃいませー、カップル様ですね!」
「は?」
ありえへんやろ! こいつと俺が恋人? 今すぐ否定したいわ!
「パフェ一個!」
「はい、畏まりました」
お前は否定せんのか! あかん、俺アホみたいに振り回されとる…こんなん謙也さんの仕事やん。
「お前ら、今日はチョコ祭りや!」
「………」
幻聴や、俺の耳はこいつのせいで聞きたくもない声再生しとるみたいやな。
「お、財前や! しかも女の子連れとるで!」
「何!? お前何や付き合い悪いおもたら抜け駆けか」
幻覚だ。幻覚であって欲しい。目の前の従姉妹は呑気にパフェを食っとるし、絡んでくる謙也さんは従姉妹以上に鬱陶しい。
「何や何や、年下か? お前そういう好みやったんやな!」
「謙也さん、うざいっすわ」
「クールなふりせんといてもええでー、キスはしたんか?」
するわけないやろ、何でこいつとキスせなあかんねん。溜め息を漏らしどうにかしろと従姉妹を見ても従姉妹はパフェに夢中、虐めたい…。
「口」
「ん?」
「チョコついとる」
どこまで餓鬼やねん、呆れて紙で拭いてやると嬉しそうにへらへらと笑った。その光景を謙也さんだけやなくて部長までも笑いながら見つめてきとるのがわかって顔が赤くなっていくのを感じる。
「っ、行くで!」
「えー、光君待ってよ!」
「待たへん」
手を引き無理矢理カフェを出る、金をし払ってから街を歩き始めた。火照った顔が冷たい風に冷まされる、先輩らがどないな表情してるかなんて考えたくもないわ。
「光君、痛いー」
「あ…」
従姉妹を引きずっていたんや、慌てて歩みを止めると不機嫌そうに俺を睨んでくる。まあ、俺が悪いんやけど…
「そういえば、私と光君ってカップルに見えるんだね!」
「嬉しくないわ」
「私は嬉しいよ! ドキドキして胸がキューってなるの!」
アホか、意味わからへ……ドキドキ? は? 今ん告白やあらへんよな? つか、こいつは意味わかっとるんか…
「好き…って」
「光君?」
「お前ん事、好きって今わかったんやけど」
きょとんとした顔がほんまに苛ついてしゃーない、せやけど途端に赤くなっていく姿見とったら笑えてくる。
「え、ええ?」
「俺の事好きやろ?」
「好き、だけど……だって光君だし…」
「ドキドキするんやったらええやん」
俺の笑顔が従えと言うてるとわかったらしくおとなしくなる。陽も落ちてきて寒くなってきた夕方、唐突に身体を震わせる。
「さむっ」
「……貸さへんで、マフラー」
「意地悪」
自分からいらない言うたんやろ、意地悪でもあらへんし絶対貸さへん。……まあ、一緒ならええけど。
「これ…」
「長いから少しあげるだけやで」
「うん!」
自然に手を繋いでいく、チョコはなくてもバレンタインデーってだけでええ気がしてきた。
「光君、チョコ買って一緒に食べよ!」
「キスしてくれるんやったらええよ」
「むー…」
キスまでの道のりは、遠い。
バレンタインとマフラーと
財前君がむっつり。
The topの企画に提出させて頂きました。