小説置き場 | ナノ
「名前」

「チェレン!」

  今までステージに出ていた幼馴染みの名前に声をかける、とは言ってもステージに出てたのは名前じゃなくてポケモン何だけど。
名前は僕を見つけると笑顔を見せてかけ寄ってくる。

「チェレンも参加しに?」

「いや、名前のショーを見てたんだ。良かったよ」

「ありがと、チェレンは参加しないの?」

「いや、僕は…」

  ただ名前を見に来ただけとは言えずそのまま曖昧に返してしまう、僕とした事が情けない。
名前から目を離したすきに名前はファンに話し掛けられていた。

「私名前さんのファンです! あ、あの、良かったらこれもらって下さい!」

「あ、ありがとうございます」

「名前さん頑張って下さい!」

  沢山のファンに囲まれる名前、僕としては微妙な心境だったりするけど男として弱音は吐きたくないしそれにかっこ悪いじゃないか。

「ごめんね、チェレン…待たせて」

「いや、良いよ…外に出ようか」

  ここじゃあ静かに話が出来そうにない、それが伝わったのか名前は頷いて僕の隣を歩き始めた。……そう言えばずいぶん名前と並んで歩いていなかった気がする。
旅に出る前はベルもいれて3人でよく遊んだのに今は別々の道を歩んでいてこうして一緒に歩く事もあまりなくなった。

「カフェでも行こうか?」

「え?」

「奢るよ」

  名前はそれに良いよ、と断ったけど男としてそこは譲れない。譲りたくない。しばらく互いに譲れずに言い争った僕らだけど結局僕の力押しで僕が名前に奢る事になかった。

「本当に奢ってくれなくて良いのに」

「僕が奢りたいんだ」

  ポケモンをモンスターボールから出して良い店だからか僕のポケモンも名前のポケモンもモンスターボールから出ている。名前はキバゴにフーズを与えながらも未だ不満そうだ。

「あ、それよりどうして私に会いに来たの?」

「え、あ、ああ…」

「もしかして勝負しに?」

  勝ち気に笑う名前、そう言えば僕は名前に会う度に勝負を仕掛けて気がする。まあ、そう言われても仕方ないけれど。

「いや、今日は……」

「…?」

「名前と話したかった、から」

  恥ずかしいさに赤くなってしゃべれなくなった僕は眼鏡を上げたけど名前はそれに気付かず首を傾げていた。

「そっか」

「ああ」

「そう言えばこうしてしゃべるのも久しぶりだよね」

  気の抜けるような笑みが僕に向けられて僕もつい笑顔を返してしまう。それから僕と名前は他愛のない事を話し昔はこうだったとかポケモンの話しを沢山した。

「名前はこれからどうするの?」

「うーん、取り敢えず色んなポケモンに会いたいな」

「そっか、頑張って」

  その言葉が何だか嬉しくてついつい口許から笑みが零れた、名前の笑顔が何となく見たかったから近くで見れるのは得だ。

「そろそろ行くかな」

「僕もそうするよ」

  共に立ち宣言通りに僕がお金を払った、名前は最後まで渋っていたけど僕はそれを敢えて無視している。外に出るとすっかり夜になっていたけどライモンシティは結構都会だから夜でも明るいみたいだ。

「ねぇ、名前」

「ん?」

「その、これ…」

  名前に会う前に買っておいた髪留めを手渡す、買う時も恥ずかしかったけど今も十分恥ずかしかった。名前はきょとんとしていたけどすぐに嬉しそうに笑ってくれる。

「チェレンが買ってくれたの?」

「ああ、えっと、その…嫌だったらごめん」

「ううん、すっごく嬉しい!」

  無邪気に、本当に嬉しそうに笑う名前を見てやっと安心する事が出来た。名前は早速髪留めを髪に留めて「どう?」と僕に聞いてくる。

「す、凄く…似合ってる、よ」

「ふふ、ありがとチェレン!」

  黒の僕とどちらにも染まらない名前、時々遠く見えてしまう事もあるけれど僕らは幼馴染みという絆で繋がっているから。

インナモラントノワール

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チェレンさんまじぶっ飛び

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