小説置き場 | ナノ
  ポケモンと人間、相容れる事がないもの同士の解放をボクは願った。それが正しいと思っていた、思わされていた。

「あ、見つけた」

「……また来たんだね」

「この子が会いたがってたから」

  もう1人の英雄、名前。彼女はポケモンリーグを制覇しボクに挑んできた、ボクは彼女と彼女のポケモンとの絆に負けて彼女が持つ伝説のポケモンの対となるレシラムと共に飛び立ったはずなのに──
彼女はこうして僕に会いにくる、いや正確にはボクのレシラムをゼクロムと会わせるためにやってくるのだ。

「ほら、お行き」

  ボクには見せなかったひどく穏やかな表情をしながら彼女はゼクロムにそう言った、じゃれるように擦り寄るゼクロムとレシラム。彼らが喜んでいるのが聞こえる。

「隣、良い?」

「どうぞ」

  彼女のポケモンから聞いた彼女の生い立ちはとても普通だった。普通の町で生まれ、友達と出会い、幸せに生きながらパートナーと出会ってこうしてここにいる。

「街には行かないの?」

「ここが良いんだ、沢山のポケモン達の声が聞こえる」

「そう…体調崩さないようにね」

  大好きなポケモンの声を聞いたボクとポケモンの声は聞けないけれど心を通わせる君

  似ているけれど全く違う、僕はポケモンの人間からの解放を願ったけれど彼女はポケモンと人間が共に歩んで行ける道を願い、そして叶えた。

「もうこんな時間か…」

「ちゃんと自炊してるなんて意外だな」

「意外で悪かったわね」

  少し不貞腐れたように頬を膨らまして自分で持ってきていた弁当を食べ始める、それをじっと見つめるボクに気付いたのかおにぎりを食べながら首を傾げた。

「もしかして、いる?」

「……もらって良いかな」

「はい!」

  彼女は他人に食べてもらえるのが少しだけ嬉しいのかクスクスと笑い不恰好なおにぎりを差し出してくる。おにぎりを受け取った時に手が触れ合った、吃驚して直ぐ様引っ込めた手だけれどどうやら彼女は気にしていないらしい。

「これ、何? ヤブクロン?」

「チョロネコよ」

「ぶっ」

「ちょっと、笑わないで!」

「ははっ、全然そう見えないね」

  だってあまりにも違う形何だから。ボクがそうやってずっと笑っていると彼女はさすがに怒ったのかそっぽを向いていた。

「ふふ」

「まだ笑う?」

「いや、美味しいよ」

  形は悪いけど味は悪くない、そう続けたけれど彼女は「どうせ不器用よ!」とつんけんする。どうやらボクはポケモンの扱いに馴れていても女の子の扱いは苦手らしかった。

「ふぅ、ごちそうさま」

「お粗末様でした」

  彼女が弁当を食べ終わると他のポケモンもお腹が空いたのか擦り寄ってくる、彼女は嫌な顔1つしないで手持ち以外のポケモン達にもフーズを分け与えていた。

「帰らないの」

「今からこの山降りたって仕方ないから、それに野宿なら何度もした事あるわ」

  彼女はちゃっかりブランケットを用意していた。いつの間にかは知らないけどどこか彼女らしくてつい笑ってしまう。

「寒くない?」

「平気さ、それより君の方こそ寒そうじゃないか」

「少しだけよ…」

  肩が触れ合っているからボクでもわかる、彼女の身体は震えていた。強がる素振りを見せるものだからボクは放っておけなくて彼女の手持ちであるバオップと会話をする。

「バオップを抱いてごらん?」

「え?」

「ほら」

  ボクが催促すると躊躇いながらバオップを抱き上げる、やはり炎ポケモンだからか暖かいらしく彼女の表情はふにゃりとした笑顔に変わる。

「暖かい…」

  その言葉が呟かれてしばらくは静かだった、でもボクの肩に彼女の頭が乗せられ彼女が眠りについた事を初めて知る。

「………」

  ボクよりも幼くあどけないその寝顔はボクと同じ英雄だとは感じさせない。寧ろ普通の子供で思わずその頬に手を触れた。

「名前…」

  人を惹き付けてしまう不思議な存在、ボクとは違った英雄。

「君はどうして──」

  どうしてそんなにも誰かの、ポケモンの光で居られたのだろう。ボクも君の光に触れていたいよ。




  朝日が眩しくて目覚めたら名前…じゃなくて彼女は既に起きていた、結構早起きらしい。まだボーッとする頭で長い髪を結び直すとゼクロムを含めた彼女のポケモンがいない事に気付く。

「もう行くんだ」

「うん」

「次はどこに行くんだい?」

「うーん、取り敢えず行きたいように!」

  結構アバウトだった。そんな彼女に思わず笑ってしまったけれどもう行ってしまうのかと思うと寂しいものだ。

「出発!」

「名前」

「ああ…もう、何よー」

  出鼻を挫かれたようで少し眉を寄せる彼女、名前にクスクスと笑い手を掴んだ。

「また来てくれるよね」

「え?」

「来なよ、名前…楽しませてあげる」

  きょとんとする名前の帽子を取り髪を撫でる、名前はしばらく動かなかったけれど不意に俺に満面の笑みを見せてくれた。

「うん、また来るよ!」

  名前の色とボクの色、混ざって消えかかって、それでも消えないその証。ボクらはモノクロに繋がっている、白にも黒にも染まる色。


モノクロモノグラム


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あの人かっこ良かったですね。

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