「名前」
私の名前を呼ぶ低い声、私はこの声が大好きだ。この声を私だけの物にしたい、でも──彼は私を見てくれた事がなかった。
「はい、何でしょう、XANXUS様」
漆黒の髪に赤い瞳──イタリア人の平均からしても随分と高い背丈に整ったお顔。私はこの人の全てを愛しているわ、婚約者と名乗る煩い女達よりも、XANXUS様が毎日抱く女達よりも──
「(私は…この人を愛している)」
「今日、誰か女を連れてこい」
また、XANXUS様は私以外の女を抱く、私はそれが悔しくて堪らない……XANXUS様に触れていいのは私だけよ、私だけ……
「わかったか」
「はい、お任せ下さいませ」
「………」
XANXUS様は意味ありげな視線を私に向けると少しだけ目を細めすぐに去って行きました。
「?」
XANXUS様は、私の名前を呼んでも私を抱いてくれた事はありません。
私に触れても、身体は重なる事がなく、私はただあの人の温もりを感じていたい。
「愛しています、XANXUS様(誰よりも…)」
「お待たせ致しました」
「本当に、遅すぎるのよ! いつまで待たせるつもり!?
……ま、今度の相手はXANXUSって言うマフィアのボスの息子だから金ぶん取ってやるけどね」
煩い、煩い! XANXUS様に抱かれ捨てられるだけの女があの方を呼び捨てにするな!
「こちらになります」
「ふん」
XANXUS様はどうして他の女を抱くのかしら…私が、私がっ、いるのに……っ
「ゔお゙ぉい、XANXUSの野郎はどこに居やがる!」
「スクアーロ様」
大きい声と長い銀髪…私はこの声があまり好きではありません。
この人は──あまりにもXANXUS様に近すぎる……
「……ちっ、あいつに会ったら敵に動きがあったと伝えやがれ」
私の後ろにいる女を見て悟ったスクアーロ様はそういうと去って行きます。
「へぇ、今の人も良いじゃない」
「………」
「ねぇ、あの人何て言うの?」
「スクアーロ様です」
私が答えると女は名前を繰り返す、こういう女は嫌いだ。色目ばかり使って気持ち悪い…っ
「それより、まだなの?」
「この先になります」
そういうと女は厭らしく笑う、嫌な笑い……こんな、こんな女をXANXUS様に抱いてもらいたくない!
「ここからは私だけが行くわ」
「え?」
「せっかくの誘いにあんたのような奴がついてきたら台無しじゃない」
嫌よ…そんなの、XANXUS様は──
「何よ、その顔…ただのメイドが調子乗らないでよ!」
「っ!」
逆上した女に突き飛ばされ私は体制を崩しました、しかし私が床に身体を打ち付ける前に誰かが私の身体を支えてくれます。
「ぁ…」
「何をしている」
耳に残る低い声、淡麗な顔に無数の傷と色とりどりの羽根、黒い漆黒の髪に血のような赤い瞳──
「XANXUS…様」
「っ、XANXUS様! お待ちしておりました! さあ早く……あぎゃっ」
XANXUS様は手から光球の炎・憤怒の炎を出し女を焼ききってしまいます。
飛び散る血と何かが焦げるような匂いに耐えきれずXANXUS様の服に顔を伏せると甘い匂いが鼻を掠める。
「XANXUS様…」
「来い」
「きゃっ」
何が…どうなったのか、わからない……あの女が死んで私は…XANXUS様の寝室に居る。
「ザ、XANXUS…様?」
「あの女は死んだ」
「……はい」
私が返事を返すとXANXUS様は私の腰に腕を回してベッドに押し倒します。
XANXUS様の端麗な顔が近くて自然と熱が上がっていく……
「だから、お前が相手をするんだ」
「はい…んっ」
いきなり交わされる熱い口付けに自分が酔っていくのがわかる、XANXUS様…私は以前からあなたを──
「っ、いっ」
「………」
「たいっ、痛いですXANXUS様!」
腕にあてがわれている注射器、その中には何やら液体状の物が入っていて──XANXUS様はそれを持って針を私の中に入れていく……
「あ…」
視界が歪んで…胸が痛くなる、これは──
「な…に、っ?」
「デスヒーター、像も動けなくなる毒だ、本当はあの女で実験するつもりだったが……まあいいだろう」
ああ、そうか…XANXUS様は私を好き好んで誘った訳じゃない、ただこの毒を試したかっただけで私はただの実験台……
それでも──
「嬉しいっ」
「………」
「私っ、は…あなたを愛してる!」
愛してる、こうしてあなたに見つめられて殺される──なんて素敵な愛し方なのかしら…
「ふっ、良いぜ、お前を愛してやる」
「んっむ……っふぁ」
無理矢理捩じ込まれる舌に舌を絡めると髪を引っ張られる、苦しみに耐えきれずXANXUS様の胸を叩くと唇を噛まれてしまう。
「あ…っ」
「まだ弱いか…」
身体が動かない、身体全体が痺れてるように痙攣してまるで毒のように私を犯していく
……ああ、毒なんだっけ
「ま…さま」
「あ?」
「あ…っいして、ます!」
大好き、大好き、愛してる、お願いだから…あなたに求めて欲しい……
「っ、あ…」
ざらりとした獣のような舌が肌の上を踊る、まるで私はライオンに食べられる兎──
「……っ」
目の前がくらくらして、もう何も見えない…せめて最後にこの人の顔だけは──
「XANXUS!!」
「うるせぇ、カス」
ドアを蹴破り出てきた長い銀髪の男に行為後のXANXUSはグラスを投げつける。
「例の薬はどうだあ!」
「もう少し強くしろと伝えろ」
XANXUSがそっぽを向くとスクアーロは舌打ちをし、すぐに部屋を出ていく。
XANXUSがこれ以上話さないとわかってるのだろう。
「………」
XANXUSは背後で事切れた女の死体に目を移す。女の死体はあまりにも綺麗な死に顔だった。
「下らねぇ」
愛してる等と言った女はあまりにも愚かで汚らわしくXANXUSにとってはとても下らない人間だった。
「愛しています、XANXUS様」
「!」
もう死んでいる筈の女から聞こえた声──ハッとして振り向くもやはり呼吸音はしない。
「……愛してる、か」
そっと女の唇に温もりを残す、冷たい唇に熱を移し頬を撫でる。
「愛してる」
そっと呟いた愛はあまりにも人間的狂気に染まっていた。
野獣的な触れ合いと、人間的な愛し合い
濁葬様に提出した作品です。
参加させて頂きありがとうございました。