小説置き場 | ナノ
「はぁ!? 一緒に!?」

  思わず口からは素っ頓狂な声が漏れた。目の前で小さく頷く後輩兼幼馴染みは自分を真剣な表情で見つめてくる。

「どうしてだよ」

「赤也ちゃん最近一緒に帰ってくれないから」

「友達と帰れば良いじゃねーか」

「やだ、赤也ちゃんが良い」

  小さな子供のように自分の幼馴染みは手をパタパタとさせる。家が近所だったおかげか彼女は赤也に小学生の頃までベッタリなのだ。
しかし赤也が中学生になり周りの目を気にしたりテニス部の事で忙しくなると遊ぶ事もパッタリと無くなった。中学生になったばかりの彼女は赤也を振り向かせようといっぱいいっぱいだ。

「だいたい俺部活あるっての」

「じゃあ待ってるもん」

  待ってるって言ったってテニス部の練習が終わるは7時過ぎ、そんな時間まで彼女を残してはおけない。だがそんなもんで引き下がればこんなに苦労はしないのだ。

「遅くなってもぜってー文句言うなよ?」

「言わないよ」

「それが心配だから言ってんだよ…」

  我が儘で、自由で、自分を困らせてばかりの幼馴染み。それでもそんな彼女を放っておく事は出来ない。

「ね? だから良いでしょ!」

「わかったっての、俺部活行くから」

「はーい、行ってらっしゃい!」

  笑顔で自分に手を振ってくるため思わず片手を上げてしまう、何だかんだ言って自分は彼女に甘かったのだ。

「赤也、遅刻ギリギリだ!」

「す、すんません!」

「相変わらずじゃのう」

  真田に怒られかけたが早速部活動が始まる、先程の約束は取り敢えず頭の片隅に置きウォーミングアップをするために身体を曲げた。

「ん、水?」

「雨…だね、皆練習を止めて! 体育館に移動して基礎体力をつけるように」

「はい!」

  幸村に従い移動していく部員達、レギュラーもそれに従った。今後の打ち合わせをしていた幸村、柳、真田も体育館に入ろうとするが赤也が空を見上げ動かない事に気付き足を止める。

「赤也、どうした」

「あ、いや…何でもないっす(あいつ、濡れてなきゃいいけど)」

  いつもより静かな赤也に首を傾げた3人だったが赤也が体育館に入っていくのを見てその後を追った。











「赤也、今日ゲーセン行かねぇか?」

  無事部活が終わり着替えてから帰りの準備をしていた赤也に先輩である丸井がそう声をかけてくる。その隣にはジャッカルや仁王もいてきっと一緒にいるのだろう。

「あー…今日はちょっと、用事があって」

「何だよ用事って」

「おい、無理に誘うな」

「何じゃ、女か?」

  仁王が的確にそう言い当てると赤也は仁王をバッと見た。その反応で全てがバレてしまい丸井とジャッカルは赤也を見つめ仁王は喉を鳴らす。

「図星か」

「うっ、ち、違いますよ! ただの幼馴染みすから!」

「でも女なんだろ?」

  それ以上詮索されるのを避けたくて挨拶をしてから走り出した赤也、その反応が明らかに可笑しいのを感じてジャッカルは溜め息を吐き後の2人は笑う。

「はぁ…もうほんと勘弁だっての」

  校舎内を全力で走ったため若干息が乱れる、息を整え外を見ると雨が降っていたのを思い出す。それと同時にあまり遅くなると文句言われると判断しまた走り出した。

「お、いたいた……って、何してんだよ、あいつ」

  昇降口に来たは良いが彼女は外に出て曇った鈍色の空を見上げながら雨に打たれていた、その姿がいつも見ている彼女とは違っていて思わず足を止める。

「あれ、赤也ちゃん」

「あ、ああ…そんなとこで何やってんだよ」

  今気付いたように取り繕い近付いていく、取り敢えず彼女を校舎内に入れると彼女は満面の笑みを見せてくれた。

「空をずっと見てたの」

「空って、曇ってるだろ…」

  全く意味のわからない彼女に呆れながら頭を掻くと制服が透けているのがわかり慌てて顔を背けた、しかしどうも気になってしまいチラチラと彼女の身体を見る。

「…?」

「あー! もう! ほら」

「タオ…ルー?」

  首を傾げる彼女に「早く拭け」と言うが彼女はタオルを持ったまま拭こうとはせずその代わりに鼻を近付けた。

「別に使ってねーから汗臭くねー」

「そっか、良かった」

  とことん失礼である、赤也は彼女の身体を見ないように顔を背けて拭き終わるまで待つ。いくら幼馴染みだと言っても自分の身体をじろじろ見られるなんて嫌だろう。

「赤也ちゃん」

「終わったのかよ」

「うん」

  赤也と背中合わせになるように座る、するとコツンと頭が当たり赤也はちょっと眉を寄せた。

「傘、持ってないよね」

「ああ」

「私も」

  つまり止むまで待つしかないのだろう、止みそうにない空を見上げて溜め息を漏らす。置き傘くらい持ってきてれば、とも思ったがそれでは逆にいらない時荷物になる。

「赤也ちゃんってさ」

「あ?」

「テニス好き?」

  また突拍子もない事を聞いてくる、自分が昔からテニスをしていてテニスが好きなのは知っているではないか。

「好きだっての」

「じゃあ一緒の部活の人は? 好き? あ、友達とか先輩としてね」

「それくらいわかるっつーの………ま、まあここまで育ててくれたのは感謝してる」

  恥ずかしそうに唇を尖らせながら言った赤也だったが質問した本人は「ふーん」と微妙な反応を示す。

「私は?」

「は?」

「私の事は、好き?」

  幼馴染みであるはずの彼女が言った言葉に思わず頓狂な声を出してしまう、しばらくしてその言葉の意味を理解してしまい──

「はぁ!?」

「い、いったーい! ちょっと赤也ちゃん!」

「誰が誰を! つか、何でんな事! す…っ、すすす、好きって」

  赤也が身体を動かしたせいで彼女の身体は赤也に倒れかかってしまい膝に寝転ぶような体勢になってしまう。しかしそこから退こうとはせず顔を真っ赤にしている赤也をじっと見つめた。

「私は、赤也ちゃんの事…」

「…っー……ま、待てって! どこからんな話になったんだよ!」

「赤也ちゃん、デリカシーなーい」

  自分から離れて真っ赤になっている顔を隠す赤也にそう呟く、これじゃあどうにも出来ないと立ち上がり赤也に近付いていった。

「何をしている、赤也」

「や、柳先輩! 真田副部長! 幸村部長」

「………」

  ナイスかバッドか、あまり空気が読めていない3人の登場に赤也は助けが来たと笑顔を見せ正反対に彼女はムスッとする。

「傘がないのだろう」

「そうっす!」

「やはりな、これは俺の置き傘だ、使うと良い」

  嬉々として置き傘を受け取る赤也を不思議に思ったがその背に隠れて隙間から自分達を窺っている彼女を見て柳と幸村は何かを察したようだ。

「蓮二、彼女の分の置き傘も必要なのではないか?」

「それは必要ないだろう」

「む? どういう…」

  柳に指差されその方を見る真田、例の2人は既に傘を開いており彼女は自分達に頭を下げてから強引に赤也を引っ張って帰っていった。

「もう少し察するべきだ、弦一郎」

「た、たるんどる…」

「……にしてもずいぶんと不器用だね」

「この場合、どちらも…だな」

  相合い傘をしていると言うのに言い争いが聞こえてくる。幸村はそれにふふ、と柔らかくわらった。

「だから! お前が持つとお前の身長が足りねーせいで傘に髪が引っ掛かるんだよ!」

「私だって赤也ちゃんが持つと濡れちゃうの! 赤也ちゃんがしゃがんで歩けば良いじゃん!」

「するか! そんなダセー歩き方!」

  不器用な恋愛だから不器用にしか気持ちを伝えられない。
そんな夏の一時──

不器用な夏の雨足

1114 純愛協奏曲様へ提出

- ナノ -