「ひーかーるー、ちゃん!」
「はぁ…」
俺の腰にぶら下がっとるこの小さな物体、近所の餓鬼でこいつの親と俺の親が親しいらしく小さい頃から俺の家に遊びに来とるやつや。
小学5年生で俺とは3歳差、こいつは昔っから俺を「光ちゃん」と呼ぶんやけど俺はそれが気に入らへん。
「せやから光ちゃん呼ぶな言うてるやろ!」
「えー、何で? 良いじゃん」
「アホか、男がちゃん付けされとるなんて気持ち悪いわ」
その答えに簡単に納得するこいつやない、諦めきれへんのか俺の頭を軽く叩きながら抗議してくる。子供の力やし痛くはあらへんけど鬱陶しい。
「何でそんな冷たくなっちゃったの!? 昔は遊んでくれたのにー!」
「耳許で騒がんといてや…」
こいつの叫び声は公害級や…あかん、耳がキーン言うとるわ。俺が耳を押さえながら振り落とすと「あう」と奇声を発しながら絨毯がひいてある床に激突する。
「光ちゃん酷い…」
「うっさい」
「光ちゃんのアンポンタン、馬鹿ー、ピアスー、スミスー」
「誰やスミス」
ユウジ先輩やないけど子供はほんま理解出来ひん、そんな俺もまだ子供やけどこいつみたいにアホやないしこんなに餓鬼やない。
スカートについたゴミを払いながら立ち上がったあいつは頬を膨らましながらまた俺に抱きつこうする。
「その手には乗らへんで」
「うあ…」
首根っこを掴み止めると更に不満そうな表情を見せる、ほんま餓鬼や。せやけど拗ねたこいつは厄介であれから頬を膨らませて一言もしゃべらへん。
「機嫌直しなんかせぇへんで」
「………」
「……はぁ」
あかん、こいつが黙っとると余計気になるわ。思わず頭を撫でると身体をビクッと跳ねさせて俺を見上げてくる。
「光ちゃん!」
「せやから…」
「光ちゃん目閉じて!」
はぁ? ほんま何なんこいつ、人の好意無駄にしおってそのくせ目閉じてとか意味わからんわ。そう思ったものの泣かれても困るうえに俺が悪者扱いされるので俺は言われた通りに目を閉じた。
「光ちゃん、絶対に目開けちゃ駄目だからね」
「はいはい」
塞がれた視界の中で俺は何をされるか考えとった。デコピンか、鼻を塞がれるか、結局子供の悪戯なんやから大した事ないやろ。
そんな事を思っとった俺の唇には柔らかい感触、最初は何なのか全然わからへんけど後からすぐにわかる。
──甘くて柔らかい、あいつの唇やった。
「なっ…」
「えへへ、復活したよ!」
「おまっ、な…んで、キス……」
完全に言葉を失う俺を見てあいつは笑っとる、つか何気にファーストキスやったんやけど。
「だって光ちゃんが好きなんだもん」
「好きって…お前それ普通反対やん」
「何が?」
ああ、駄目や…完全に俺が押されとる、キスの意味さえわかっとらんあの馬鹿は呑気に「もう一回しようよ」とか言うとるし。
……もう一回してもええけど。
「俺、お前の事──」
「駄目駄目! 言っちゃ駄目だよ!」
「は?」
「私と光ちゃんはね、8:2が良いの。私が光ちゃんをたっくさん愛すの! でね、光ちゃんは私の愛を2で返すんだよ!」
2って何や、2って。俺が溜め息を漏らして真っ赤になった顔を隠しとるとあいつが身体を寄せてくる。
「光ちゃん大好き! 好き好き!」
「……あっそ」
まあ、こいつがそれでええならええけど。それはつまり…あれや、俺らの関係は8:2でええねん、こいつの気持ちを俺は全力で受け止めて2で返すんや。
その2に俺が100倍の気持ちを掛けてるのは言わへん方がええみたいやった。
「(そういや何でこいつは俺が好きなやつがお前やって知っとんねん…)」
トラップベイビー
ロリコン財前降臨。
The topの企画、「8:2がベストです」に提出させて頂きました。