小説置き場 | ナノ
「蔵ちゃん」

「ん、おお、待たせたな」

「遅い」

  プクッと顔を膨らませたのは四天宝寺中の制服を着た女子。俺の2つ年下、バストはB、ちびっこ、貧乳、童顔、金ちゃんと同じクラス、そして何やかんやで俺の幼馴染み。年下やけど。
謙也曰く萌えの宝庫、ギャルゲーに出てきそう、らしいわ。出させる訳ないけどな。今日は家ん近くの公園で待ち合わせや。

「蔵ちゃんのお馬鹿」

「あーはいはい、座り込んどらんと立ちや…汚くなるで、ほら」

「………」

  手を差し伸べるも俺の手をチラリと見ただけで自分で立ち上がる。小学生の頃はこんなんやなかったんやけど…どないしてしまったんや?
俺がそんな心配をしとるうちにちっこい幼馴染みは俺の隣をすり抜けてブランコを漕ぎ始めとった。

「蔵ちゃん」

「ん?」

「蔵ちゃん女の子に興味ある?」

「ぶっ」

  おまっ、アホか! 思わず俺は転びそうになる、まさか幼馴染みからそんな言葉が出ると思わんかった。俺が危なくなっとるにも関わらず「蔵ちゃん、早く答えて」と催促するあいつ。

「な、何なん? いきなり」

「答えてよ」

「そ、そりゃ俺やって男やからな」

  そう答えてしまうとかなり鋭い視線が俺を刺しているのがわかる、何となく顔を背けて見るとブランコを漕ぐ音が止んだ。

「蔵ちゃん」

「ほんまにどないしたん? 中学入ってから可笑しいで?」

「原因は蔵ちゃんだよ」

「ん?」

  小さく呟かれた言葉を聞き返しても答えてくれへん、どうしたもんや…

「蔵ちゃん、女の子に興味あるんだよね?」

「女の子に興味あったらあかんか?」

「……じゃあ私には? 私には興味ある?」

  俺の腰に抱き付いて強くそう聞いてくるちっこい幼馴染み、珍しく無理強いしてくるんやな…アホ、何で泣きそうになっとんねん。

「取り敢えず落ち着きや、何か悩んどるんやったら聞くから」

「蔵ちゃん私の下着見たらはつじょーするの?」

「……お前それどこで習ったん?」

  泣きそうかと思ったら何を言い出すねん、この子は。んな純粋な目で見つめられたら我慢出来へんやろ…それにしてもどないしていきなりこんな事聞いてくんねん。

「………」

「幼馴染みの俺には話せん事か?」

「………」

「無理には言わんでええけど俺はお前の──」

  お前の、その先が続かへん。「幼馴染み」俺とお前はそういう関係なのに俺はそれ以上を望んどる、案の定この悩みの原因は俺を心配して顔を覗き込んできとるし。

「蔵ちゃんどうしたの?」

「幼馴染み、や」

「………」

「俺らは幼馴染みやから」

  俺が俺自身に言い聞かせるためにそう言う、せやけど自分を覗き込んどる幼馴染みの瞳が泣きたそうに潤んだ気がした。

「蔵ちゃん、私鬼ごっこしたい」

「は?」

「蔵ちゃん鬼ね、私が勝ったらお願い1つ聞いて、蔵ちゃんが勝ったら私がお願い聞くから」

  いきなりの鬼ごっこに反応を返せへんかった俺を置いて走り出した幼馴染み、身体が小さく小回りが聞いてテニス部の俺でも追い付けへん。

「おっしゃ、捕まえ…」

「残念、蔵ちゃん私の事わかってないね」

  滑り台の階段を登り俺が伸ばした手はいとも容易く避けられる、滑り台を滑り降りて次はシーソー。またもやそこで逃げられてあいつはまるで踊るように俺の手から逃れていく。こうなったら本気や!

「覚悟しときや!」

「うわっ、蔵ちゃん本気!」

「手加減はもうあらへんで!」

  本気で逃げる幼馴染みに本気で追い掛ける俺、謙也やったなら楽勝やったんやけど。あいつはジャングルジムをどんどん登っていきそして頂上に辿り着いた。

「蔵ちゃん! 聞いて欲しい事があるの!」

「何や?」

「蔵ちゃんね! すっごく人気なんだよ! クラスの子に蔵ちゃんの事が好きな子がいるの!」

  太陽のせいで見えへんあいつの表情、せやけど俺はその声を聞とった。あいつは俺の前では泣かへん、男子に苛められとった時も怪我した時も、絶対に。

「先輩達も蔵ちゃん見て騒いでる!」

  無理をして笑うあいつを守らなあかんと思った、俺の手で守っていくんや。小さい頃の俺はそう誓いを立てた、あいつを守れるくらい強うならんとあかん。

「でもっ、でも私皆より蔵ちゃんの事知ってるもん!」

「………」

「蔵ちゃんの事全部全部わかるもん! 何が好きかとかどこに触ったら笑ってくれるとか
……沢山、蔵ちゃんの事…知ってる、知ってるの私だけで良いもん」

  泣かんといてや、お前に泣かれたらお前の笑顔のためにいる俺はどないしたらええん? お前の言うとおりや、俺を知っとるんはお前だけでええ、お前を知っとるんも俺だけでええ。

「蔵ちゃん、好きだよぉっ!」

  俺におもいっきり飛び込んでくる幼馴染み、当たり前にジャングルジムの上からで俺は慌ててあいつを受け止めた。──そしたら転んでしもた、ダサっ!

「蔵ちゃん、蔵ちゃん!」

「はは、自分から捕まりに来てもうたな…」

「蔵ちゃんのお願いなら何でも聞く」

  そう言ってくれる幼馴染みの頭を撫でてそっと唇を重ねる。自分で言うのもあれやけどキザや。幼馴染みの唇は甘く俺が思っとったより女の子らしかった。

「蔵、ちゃん…」

「付き合ってや、それが俺からのお願い」

  そう言うと嬉しそうに笑う幼馴染み、この笑顔が見たかったんや。俺の愛する幼馴染み、今日から愛する彼女に格上げしたんでよろしくな。

「にしてもパンツ見えてたで」

「蔵ちゃんのえっち!」


プリーズキャッチミー

0919 君のとなり様に提出

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