※侑士が四天宝寺生設定



苦しそうに嗚咽を漏らしながら涙を流す侑士クンは、不謹慎だがひどく扇情的やと思った。
普段むやみに感情をあらわにしない彼が俺の前だけでこんなに無様な姿を見せている。それだけで嬉しくて、ゾクゾクした快感が俺を貫く。
正直無茶苦茶興奮する。
せやけど俺の表情筋はいかんせん天邪鬼なようで、心中では緩みっぱなしの口元はピクリともせん。これじゃまるで彼を馬鹿にしているようや。
「泣くほど不毛な恋ならもういい加減やめや」
自分でも驚くくらい冷たい声に彼はようやっと顔をあげた。
涙でぐしゃぐしゃになった顔。ホンマ情けない。ホンマ不細工や。
こないな自分愛せるのは、やっぱし俺だけやて。
「白石…」
絞り出すようにつぶやいた声は枯れていた。
まるでこの手で枯れさせたような錯覚を覚え、ゾクリと背中が震えた。
もっと、もっと呼んで欲しい。その声で。
体中を包む熱を抑えて俺はあくまでも冷静に吐き捨てる。
「無駄やろ。どんなに愛したって泣いたって謙也は自分の事見いひん」
「そんなん分かってるねん!」
濡れた紫の瞳が俺に突き刺さる。

侑士クンは恋をしている。
俺の親友で彼の従兄弟でバリバリのノンケで彼女もちの忍足謙也という男に。
彼らはちっこい頃から一緒におってずっとお互いを意識し続けとった。
うざったいくらい口を開けば「謙也」「ユーシ」
でもそれはあくまでもガキの頃だけで。
年頃になった侑士クンは謙也に堕ちて依存した。
せやけど謙也はあっさりと女の子をとった。
そうして侑士クンは謙也が彼女と進展する度に、放課後の教室で何時間も泣く。涙がかれるまで何時間も。そんな姿をたまたま見つけてから、俺は彼が泣く姿を見にいくようになった。
今日だって、謙也が彼女と帰るのを目撃してから侑士クンはかれこれ二時間ほど泣いていた。
無駄は嫌いやのに、俺はその姿を見続けていた。

「謙也は俺のことなんとも思ってないて…分かってるねん…せやけど…一%の望みにかけたってもええやん…」
ガタガタと体を震わせながら侑士クンは呟く。
「なんの」
「一%…もしかしたら一%くらい、謙也が俺の気持ちに気づいて応えてくれる可能性があるかもしれへん…せやったら俺は…」
すがるように伸びた手が俺のシャツを掴み、ぎゅうと握った。
「信じたいねん…」
その目は強い意志を持っていて、まっすぐで、謙也しか見とらん。
「…ハハッ」
俺は嘲るように笑った。
目をきつく尖らせる侑士クンににこりと微笑む。
「なんやねん」
「夢見がちやな自分…そないなこと…天地がひっくり返るくらいありえへんことやろ」
ありえへん可能性に夢見て。信じて。恋焦がれて。
「そんなんは幻想や」
「白石には関係ないやろ!」
俺のシャツを握る手がブルブル震え、見たらとまりかけてた涙がまた溢れとった。
怒ったようにも見える侑士クンの顔。
ちゃうねん。
こんな顔させたいんとちゃうねん。
「俺がどうしょうもない夢見たって…白石には…」
「それが関係あるんやな」
驚いたように顔をあげた侑士クンの後頭部を掴んで引き寄せる。
ボスッと鈍い音を立てて彼の体はなんの抵抗もなく預けられる。
「しら…」
シャツに少し濡れたような感触を感じる。
俺は彼の顔を胸に押し付けてゆっくり囁いた。
「俺やってアホみたいな夢見とるねん。」
侑士クンが俺に振り向いてくれて、謙也の代わりの存在になれるっちゅーありえへん夢。
ほんでその夢は侑士クンの夢が壊れん限り永遠に叶わない。
「俺たち似てるねん」
「白石」
「アカン」
離れようとする彼を強く抱きしめ体を押し付ける。
聞こえるやろ。
尋常やない速さの俺の鼓動。
こうさせてるんは…自分や。忍足侑士。
彼がはっと息を呑んだのが分かった。
「な、俺にしときや」
拒絶するように首を振る侑士クンの耳元でそう呟くと、
俺は自分が泣いていることに気がついた。







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