雨の二次関数 |
ひどい雨だった。 バケツをひっくり返した、なんていう表現がよく似合う。そして、こんな日にはあいつがよくやって来るものだ。 「…お、」 思っている間にドアが開く音がした。あいつ――仁王はいつのまにか私の家の鍵を持っていた。どうも、ソレって犯罪じゃないかな。 「にーお」 「よぉ」 ぺったぺったと湿った足音と共に仁王が現れる。灰色のパーカーが色変わりするほど濡れていて、ぺったんこになった銀髪からは水滴が落ちていく。 「仁王、お風呂入ってきなよ。はい、これタオル」 「すまんの。じゃが、すまんついでにもう一個」 そう言うや否や、仁王は来ていたパーカーをぐいと脱ぎ始めた。 すると、中からなにか丸いものが三つこぼれ落ちてくる。 「え、なにこれ」 「俺のおっぱい」 「残念、三つもある」 「プリッ」 地面に落ちた塊がゆるゆると動き出すのに、私は仁王に渡したタオルをひったくった。 ちっちゃい子猫が、三匹。 「どしたの、これ」 「拾った」 「名前は」 すると仁王は右から順番に猫を指さして、 「こっちがプリ、真ん中がピヨ。んでこっちが」 「プピーナ」 「よぉわかったの。よし、タオルよこしんしゃい。風邪ひくぜよ」 半裸で話し込んでいてそれもないだろとは思ったけど、なぜか家にある彼の服を渡してやる。 「えーと、白いのがプリで、黒いのがピヨで、灰色がプピーナ…」 なんとなくプピーナが仁王によく似てる。色合いが、かもしれないけど。 「風呂、すまんかったの」 「あ、仁王」 「ん?」 「プピーナ頂戴」 「んぁ、ええよ。さすがに三匹も面倒見切れんけぇ」 にっと笑った仁王は片手で灰猫を掴むと、私の両手にポンと落とした。 「なあ、時々様子見に来て、ええ?」 「いっつも来てんじゃん」 「あー、したら言い方変える」 「言い方?」 バリバリと頭を掻く仁王がイタズラっぽく笑った。 「猫をネタにして会いに来たいから、俺と付き合ってくれん?」 「は、」 きっと反論なんて聞いていないのだろう。 押し当てられる唇を笑うようににゃあという鳴き声を聞いた。 雨の二次関数 ---------------------- 理系愛。様に提出しました! 素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました! |
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