伸ばしかけた手


気付けば夜でもすっかり暑い季節になった。
纏わりつく暑さの中、こっそりと家を抜け出す。
行く場所は決まっている。

桜は既に葉桜になっていた。
桜の時期が過ぎているため夜を照らす灯りはほとんどない。
少し怖くもあるが、何度か来ているせいか少し慣れてきていた。

風が吹くと葉は音を立てて揺れる。
その中に砂利を踏む音が混じっていることに気づいた。
振り返ると朱色の髪が目に飛び込む。

「本当に居るとは思わなかったよ」

笑いながら彼は言った。
自分の鼓動がはやくなり、音が聞こえてしまうのではないだろうかと思う程だった。

「でも、危ないよ?こんな灯りの少ない所に女の子1人。攫ってくれと言わんばかりだ」
「この近くに悪い人がいるなんて聞いた事がないもの。平気よ。」

桜の木を見上げ、もう花は咲いてないんだねと彼は言った。

「桜はすぐ散っちゃうから…。でも、また来年の春にはまた見られるわ」
「随分待たされるね。もっと長く咲いていればいいのに」

やはり神楽ちゃんが言うような人には思えなかった。
少なくとも、自分がイメージしていた海賊とは異なっている。

「神威さんは…またすぐに遠い星へ行ってしまうの?」
「どうしてそう思う?」
「…ごめんなさい、聞いてしまったの。貴方の事を知っている人から」

宇宙海賊春雨の幹部である事を。
残忍な人である事を。

「うん、その人が誰か想像はつくし間違ってないよ。
それと謝る必要は無い。俺も君の事を調べたから」

この周辺一帯の地主の娘である事。
1人で外出する事は滅多にない事。
それらを知った上で手を出すつもりはない事。

「目の前に悪党がいるのにしぐれは怖くないの?」
「怖くないって言えば嘘になるけど、それ以上に貴方に会いたかった。
もっと色々なお話がしたい…貴方の…」

隣に居たい
その言葉は声にはならなかった。

彼はただ悪党とは思えないほど優しく綺麗な微笑みを浮かべていた。
そして、もうこの時間に一人でここに来てはいけないと告げた。


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