癒えぬ渇き


あの夜から数日が経った。
記憶の奥に仕舞い込んだはずのしぐれの存在が時折夢に出てくる。
花のように明るく笑う彼女の姿があまりにも眩しい夢だ。

「別師団相手に散々暴れまわったって聞いた割りに浮かねえ顔してやがる」
「なあ阿伏兎。忘れたい事忘れるにはどうすればいいかな」
「らしくねえ。そんな事で悩むようなタマか」

まあそう言われるだろうとは思っていた。
しかし聞かずにはいられなかった。

彼女はあの後どうなっただろうか。
無事だろうか。

「はー…何にご執心かわからんが、あの一件で住人の殆どは死んだらしい。
あくまで使用人だけで、そこの権利者家族は全員生きてるそうだが」
「…調べろって頼んだ覚えはないよ」
「団長がいつまで経ってもこの調子がこっちも困るんでな」
「はいはい、優秀な部下を持って嬉しいよ」

無事であるらしい事がわかっただけで内心、ほっと安堵する自分がいた。

しかし任務に対して気が乗らないことに変わりはない。
切り裂いても、撃ちぬいても、臓物をまき散らしても
最後にはあの日の事が頭を過った。

涙を浮かべた銀灰色の瞳。
ごめんと謝る消え入りそうな声。
最後に触れた彼女の温もり。
絡めた指の細さ。

どうしようもなく渇く。
この渇きはどうすればいい?

その答えは分かり切っている。
海賊なんだから、欲しいものは全て奪ってしまえばいい。
なのに躊躇してしまうのだから笑いものだ。

気持ちに蓋が出来ないなら、向き合って行くしかない。
いつかのように逃げ出さないように。
そして、ちゃんと向き合ってけじめがついた時
その時はもう一度彼女に会いに行こう。

そう心に決めて、戦地へと赴いた。


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