黙っていたかった。そんなことはなまえちゃんの自由だし。なのに、無駄に煽られるし、本人には自覚なしだし、いい加減にしろと言ってしまった。
「岩泉がもっと公表したら誰も近付かないんじゃない?」
「わかる〜、誰も岩ちゃんに喧嘩売らないよ」
「確かにな」
独占欲だな、と3人。可愛い不満だねぇとまで続けられる。
「何でこそこそやってんの」
「こそこそはやってねぇよ」
「だってこのこと知ってるの俺らくらいじゃない?」
「そりゃお前らがしつこく聞いてきたから知ってるだけだろ」
「しつこく聞くだろ。岩泉の彼女だぞ」
8月も終わりそうだった。暑さが緩むことは一切ない。またいつものあの3人とあの子の話だ。
「デートとかすんの」
「岩ちゃんデートの意味知ってるの」
「だから及川は岩泉のこと何だとおもってるんだよ」
「あれじゃん、来週お祭りあるよ。一緒に行けば?」
浴衣いいよねぇ、と3人が楽しそうに話していた。そういえば2人でどこかに出かけたことなんてないな、とぼおっと考える。
「花火大会もあるし」
「早く誘ってよ」
「…人のことに首突っ込んでないでお前らも彼女つくれよ」
その一言が3人の逆鱗に触れたようで、その話はもうなくなった。そう思ったのに及川と自宅に向かっている時、やたらでかい声で言うから。
「いないの?!あの子!」
「はぁ?」
「コンビニに!!」
何で語尾にビックリマークがつくんだ、ってうざったくて。関係ねぇだろって言ってやる。
「誘ってくる」
「はぁ?」
「岩ちゃんが誘わないなら俺が誘う。マッキーとまっつんと俺とあの子とで行く」
なぜ突然そんな話になるのか不思議でならない。おい、とでかい男の腕を掴んで引き止める。
「ざけんな、なんでそうなんだよ」
「俺だって女の子とデートしたい」
「なんであいつ誘うんだよ。てめぇのファン誘えや」
「いやだ」
「つーかあいつはてめぇらなんかと行かねぇよ。心底怖がってるわ」
「言っとくけど岩ちゃんが1番目付き悪いからね」
帰れや、と取っ組み合いながらコンビニに入店。レジにあいつはいなくて、ほっとしたのも束の間だった。
「いらっしゃいま、せ…」
「ほら、いた」
「ほらいた、じゃねぇよクソ」
こんにちは、と勢いよく頭を下げるなまえちゃんは及川がいるせいかいつも以上にきょどっていた。殴り倒したい気持ちを抑えてでかい声でバッと言う。
「祭行くぞ」
「…え?」
「岩ちゃん抜け駆け…!」
「来週の祭り、2人で一緒に行くから空けとけ」
「え、あの、」
「じゃあな、悪りぃ忙しいとこ。また連絡する」
及川を引きずって店内から出る。出入り口付近で、負け犬の遠吠え。
「なまえちゃん、浴衣でね!!」
「…てめぇ、蹴るぞ」
深く頭を下げるあいつの真意はなんだろうか。しかも及川はしっかり名前覚えてんじゃねぇよ。
2016/03/09