イケメン四天王 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
「あの子来てるの?」

試合が終わって、荷物を纏めていると松川が言った。こちらが聞きたかった。試合中は集中していてギャラリーを見ている暇なんてなかったから、彼女がいたのかどうかさえわからない。

試合が終わって、荷物を纏める。会場から出れば、いつもの見慣れた光景。ただ、何となく数は多いような気がする。俺もなぜか数人に声を掛けられるが、正直どうだってよかった。なんとなく相槌をうちながら、きょろきょろと周りを見渡すが彼女の姿はなく。もしかしたら来ていないかもしれない。もう帰ったかもしれない。そう思っていたのに。

「会えた?」
「はぁ?」
「え?」

きょとんとする松川。もうバスの中で荷物と腰を下ろした後だった。及川も花巻も耳を澄ましているのでなるべく余計なことは言わないでほしい、と念じるが無駄だってわかっていた。

「ねぇ、誰のこと?」
「みょうじちゃん」
「おい松川…」

話が拗れるのでやめていただけないだろうか。こいつの場合、わかってやっているからタチが悪い。

「…岩泉、気付かなかったの」
「お前ら最近何なんだよ。2人でこそこそと」
「来てたじゃん、後ろの方いたよ」

なんか思い詰めた顔してたけど、って付け足される。ガヤ2人の声なんてもう聞こえない。松川に勢いのいいスピードで質問を投げる。

「いねぇだろ」
「いたよ。なんか可愛かったよ、いつもより」
「なんで」
「知らないよ。制服じゃなかったからかな」

うんざりする。来ていいよって言って、楽しみにしてるって言って、それでこれだ。

「連絡しといてあげれば」
「言われなくてもするわ」

連絡を入れたって、彼女の反応は淡白で。こちらもなんとなくやりきれない。週末はアルバイトだって言っていたし、それをわざわざ休んで来てくれたんだ。もっとお礼が言いたかったし、気づけなくてごめんって直接謝りたかった。だから教室に勝手に押しかけてみたが、予想よりも恥ずかしいそれのせいで心臓がバクリと動くから。

「昨日、悪かった」

人気のない廊下。立ち止まって程々の距離で彼女にそう謝る。目の前の彼女は今にも泣き出しそうで。泣かれるのは困る。俺みたいな男は、女の子の涙に対応しきれないから。

「悪かったから、泣くな」
「…岩泉さん、ずるいです」

何がだ、と言い返しそうになってやめる。あんな奴らと同じ対応をしてはいけない。

女の子は柔らかくて脆い

“あんな奴ら”から教えられたことだった。

「せっかく来てくれたのに、悪かった」
「違くて、あの、岩泉さんかっこよかったです」

あまりにも予想していなかった角度からの言葉なので、やはりなんとも言い返せない。かっこいいと言われた時、なんと返すのが正解なのか、誰か教えてくれ。及川辺りに聞けば答えは返ってくるのだろうか。

「かっこよすぎて、なんか」

その言葉の後に泣くから。いったい俺が何をしたというのだろうか。彼女のそこらじゅうを隈なく観察して、何を言おうとしているのか捜索してみるが勿論わかりっこない。

「おい、泣くなって」
「だって、かっこよくて」
「なんだよ、泣くほどかっこよかったのかよ」

こくんと頷くから、はぁ?と声を出した。悪いがそんなに整った顔ではないしイケメン四天王とかいう狂った団体の中では1番身長は低い。頭も良くなければ女の子に優しくすることも出来ない。

「頭おかしいんじゃねーの。そんなにかっこよくねぇわ」
「そうやって、わかってないし」
「何がだよ」
「それが1番嫌なんです。何でわからないんですか」
「さっきからなんだよ。言いたいことあるなら言えよ」

彼女はこちらを潤んだ大きな瞳で見上げて。冷静になれば随分言葉遣いも乱暴だったし、声だって荒げた。そんな俺なのになまえちゃんは怯むこともなく言葉を発する。

「嫌なんです、岩泉さんがかっこいいのも、他の女の子と話してるのも…!」

勢いのある言葉。なるほど、と少し納得する。嫉妬か。ちょっと嬉しくて。

「なにニヤニヤしてるんですか…」
「ん?まぁ、ねぇ?」

親指で頬の涙を拭ってやる。なんと言うか、可愛い女だなぁと嬉しくなった。

2016/02/26