エリートチャラリーマン | ナノ
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及川が置いていった紙袋にはクロワッサンやクロックムッシュ、キッシュなんかが入っていて。どう考えたってかなり多い量だった。頭悪いのかな。クロックムッシュをいただく。
それと合わせて、申し訳ないと思いながら冷蔵庫を開けて牛乳を取り出し、申し訳ないと思いながらマグカップに注いだ。既にシーツは洗濯機に突っ込んでいたので、機械の音が僅かに聞こえるが、他に音はなく、とても静かだった。もそもそと食事を胃におさめ、さっと食器を洗ってしまう。

寝室もそうだが、リビングもとてもシンプルで余計なものがない印象だ。彼は本当にここで生活をしているのだろうか、と疑ってしまうほどだ。キッチンも少し覗いたが、使ってないんだろうなぁという様子。冷蔵庫には飲み物しか入ってない。

まぁ私も料理なんてほとんどしない。自分一人のために凝った料理を作るなんてバカバカしいし、職場が飲食店ということもあって賄いも出る。
ただ彼の帰りを待つのも退屈なので、2人分の晩御飯を作ろうと目論んでいるが、及川の好き嫌いも知らないし、もっと言えばキッチンを勝手に使っていいのかすらわからない。
何故か無駄に調理器具と食器は揃っていた。調味料はほとんどない。近くにスーパーがあることを検索し終えると、今度は献立を決める為にインターネットで“和食 彼氏 献立”なんて調べてみる。なんて便利な世の中だ。ブリの照り焼きにかぼちゃの煮物、出し巻き卵。お味噌汁は鉄板らしい。このくらいなら作れるだろうか。
そんな風に考えていると洗濯機の動きが止まったのでそれをベランダに干し、施錠をして外に出た。

「おかえりなさい、お疲れ様」
「…ただいま」
「ごめんね、すぐ出来るから」
「…ちょっと待って」
「ん?なに?」
「すぐ出来るって、なに?」
「…ご飯」
「えっ、」

携帯のディスプレイと睨めっこしながら、キッチンに立った。何がどこにあるのか把握していないため、予想よりも手こずり時間がかかる。あと10分ほどで完成、というところでインターホンが鳴った。玄関で彼を出迎えると、目をまぁるくして、鼻をくんくんとさせて私に問う。何してんの、って。やっぱり迷惑だったろうか。

「…作ったの?」
「ごめん、勝手に」
「いやそうじゃなくて」
「…なに?」
「なんで?」
「なんでって…ただ待ってるのもおかしいし、朝なにもできなかったから」

どん、と床に何かが落下した音。多分及川の鞄。彼は急に私をぎゅうと抱き寄せた。及川の胸に顔が埋まって声も出せない。

「すっごい嬉しい…なんなのなまえちゃん…」

ふわりとした声で彼はそう言って私の頭をわしゃわしゃと撫でた。大袈裟ではないだろうか。今までだっていろんな人から作ってもらっただろうに。

「そんなに期待されても」
「ほんとありがとう」
「レシピ見てそのまま作っただけですから」
「そんなのいいの。なまえちゃんが俺の為に作ってくれたのが嬉しい」
「…よくそんな月9みたいな台詞言えますね」
「演技力はともかくルックスは月9の主演男優にも負けないと思うけど」
「もういいです。すぐできるんでちょっと待っててください」
「うん、着替えてくるね」

そんなに喜ばれるとは思ってもみなかったので正直驚いた。なんでだろう、と思いつつ準備を続ける。食事を盛り付けていると及川が楽しそうにこちらにやってきた。

「えっなに。すごくない?」

ゆるっとしたシルエットの部屋着に着替えた彼は、出来上がったそれを見て大きな声をあげる。やっぱり喜びすぎではないだろうか。

「すごくないよ」
「女の子が彼氏に作る料理ってカレーとか肉じゃがとかオムライスだと思ってた」
「今まで作ってもらったメニューがそうだったんじゃないですか」
「え?作ってもらったことなんてないよ」

これ向こうに持って行っていい?
そう私に問い掛けながら彼はそう言った。訳が分からずこちらも質問を繰り返してしまう。

「嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ。そもそも女の子家に連れてきたことない」
「なんで」
「怖いじゃん、ストーカーとかされちゃうよ。及川さんかっこいいから」

彼の言葉の後半は意味がよくわからない。こちらは真剣に聞いているのだから真面目に答えていただけないだろうか。

「ちょっと、真面目に聞いてるんだけど」
「だって外で会ってたもん。家なんて連れてこなかったし俺もほとんどいなかったよ」

だから妙に生活感がないのか、と納得する。つまりほとんど毎日ほっつき歩いてたってことか。まぁ納得できる内容だった。

「1回くらい連れてきたでしょ」
「1回もないって。母親が来たことはあるけど」

この男は嘘をついたりするタイプじゃない。そうわかっているが、信じ難かった。

「前も言ったけどなまえちゃんに嘘はつかないから」
「はいはい、そうでしたね」
「ちょっと、信じてないでしょ」
「食べましょっか」

喧しい彼を遮って着席し、手を合わせた。及川は何故かパシャパシャと携帯で写真を撮っている。パンケーキを食す時の女子大生か、と指摘しようかと思ったがやめた。なんとなく、愛おしく思えたからだ。

2016/02/06