エリートチャラリーマン | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
及川は毎日連絡を寄越した。よくそんなに話題あるなぁ。遊んでいた頃の賜物だろうか。
でも、会う時間は多くはなかった。及川は大企業の若手ホープ(らしい)。私は接客業で不規則なシフトに対応しなければならない。どう考えたって生活のリズムが違っていた。
ありえない提案をしたのは、及川だった。付き合って少しした頃だ。なまえちゃんの仕事が終わったら迎えに行く、と。迎えに来てどうするんですか、と聞いたら当たり前のように返事をした。
家に送っていくよ、って。

一応、私の勤めている会社も、賃金はさして高くないが大きな会社だ。交通費は会社から支給されている。さして時間もかからないし、不便に感じることはなかったから、断ったのに、だ。

「時間遅いし、何かあったら困る」
「…何もないですよ」
「あったら困る」
「ないで「あったら困るの。なまえちゃんが痴漢にでもあったら、及川さん犯人に酷いことしちゃうかも」

綺麗な笑顔とは不釣り合いの言葉だった。しちゃうかも、じゃないでしょ…と呆れたが、こうまで言う彼を止められるはずもない。

「お疲れさま」
「ごめんね、いつも」

それがすっかり習慣になっていた。少しずつ冬が近付いてきて、私も及川も厚手のアウターを羽織るように。
付き合ってから、1ヶ月くらい経っただろうか。敬語禁止!!と及川が唱え、私は嫌々その意見を飲んだ。徹って呼んでよ、ともねだられたが断固拒否をした。結局敬語だって止められずに混じり混じりで話す。もう彼も諦めているようだ。

「今日も変なお客さんいなかった?」
「いないよ」
「本当に?」
「そもそも今時店員に声掛ける男なんていません」
「ここにいますよ」
「だから及川さんは絶滅危惧種なの。自覚してください」

彼はいつ会っても明るく朗らかだ。面倒なお客さんがいてイライラしても、店長の機嫌が悪くて仕事の指示をもらえなくても、及川に会ってバカみたいなやり取りをすると全部どうでもよくなる。
今日だっていつもと変わらないと思っていたんだ。なのに、全然違っていた。

「明日なまえちゃんお休みでしょう?」
「はい、」
「泊まってけば?」
「え?」
「うち、おいでよ」

この人はいつも急だなぁと他人事のように思った。

「急じゃない?歯ブラシも着替えもクレンジングもないけど」
「1回なまえちゃんのお家寄るよ。だめ?」
「…だめって言ったら拒否できるの?」
「できませーん。及川さんの言うことは絶対です」

及川は楽しそうにそう言った。はじめからそうする気だったら言わずに連れ込めばいいのに、とも思ったが、そうしないところが彼のいじらしく可愛らしいところなので黙っておいた。

2016/01/29