エリートチャラリーマン | ナノ
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「…あ、」
「岩泉さん、お久しぶりです」

どうも、とお互い頭を下げた。及川はご丁寧に自宅まで迎えに来た。場所はなんとなくわかっていたし、自分で行きますよ、と提案したが即却下。

「また女連れてきたと思ったらなまえちゃんか」
「ちょっと岩ちゃん、またってなに?それとなまえちゃんのことなまえちゃんって呼ぶの止めてくれる?馴れ馴れしいから」
「よくこんな奴の誘いに乗ったな」
「今更ながら後悔しています」
「ちょっと?2人とも当たり強くない?」

おいかわー、と彼を呼ぶ声。どうやらミーティングがあるらしい。岩ちゃんよろしく、と言い残し離れていく。

「先日はありがとうございました」
「…先日?」
「あの、及川さんと2人でお店に来てくださった時」
「あー…はいはい。いやこっちの台詞でしょ。ありがとうね、気ぃ遣ってくれて」

岩泉さんは及川とは違い、あまり笑うタイプではなかった。目もほとんど合わない。でも言葉の端々に温かさが滲むような話し方をする。

「どう?及川」
「どうって…」
「気がなかったらこんなところ来ないでしょ」
「…そうなんですよね」
「まぁ、悪りぃ奴ではないから」

あっちで見てるといいよ。
岩泉さんはそう言って2階のギャラリーを指差す。

「下だとボール飛んでくるから。階段向こうね」
「はい、ありがとうございます」
「…及川のこと、よろしくね」
「えっ、あ…はぁ、」
「じゃ、俺もアップ行くから。階段気を付けて」

ぺこり、と腰を折って彼の言う通り階段を上がりギャラリーへ。観客は私だけ。体育館の隅では平均して背の高い男が十数人。その中でも及川はやはり独特のオーラを纏っていた。つい、彼を追ってしまう。

試合が始まると、それは勢いを増した。詳しいことは全くわからないので何も言えないのだが、それでもわかることが一つだけ。
及川は誰よりも華があった。
誰よりも高く飛ぶ。誰よりもボールに執着する。誰よりも真剣な目をしている。
なのに、試合が終われば彼はいつものヘラリとした表情。こちらを見上げ、大きく手を振った。口パクで彼に伝える。
すごい、と。
それを理解したのかどうなのか、少し照れたような顔をしてコートから出た。なまえちゃん!と私の名前を呼ぶ声がする。どうやらこちらに上がってきたようだ。私の隣に掛ける。

「なまえちゃん!見てた?!」
「…見てました」
「かっこよかった?」
「すごかったです」
「もう一声…」
「…とっても、かっこよかったです」

目を合わせてそう言うと、彼は一瞬固まって、その後ボッと顔を赤くした。そんな風にされたら、こちらまで恥ずかしくて仕方がない。

「言わせた癖に照れないでください…!」
「ちょ、ごめん。思ってたよりやばかった」
「何でバカなんですか…」
「及川!使用時間過ぎる!クールダウンまだだろ!」
「…岩ちゃんごめーん、いま降りる」

いつもお母ちゃんみたいなんだよねぇ、と笑った。私も精一杯平然を装って彼に言う。

「早く行ってくださいよ」
「もうボール使わないからなまえちゃんも行こう」
「先、行っててください。追いかけますから」
「でも、」
「恥ずかしくて隣歩けないので先に降りてほしいです」

手のひらで顔を覆ってそう告げた。すると及川はまた数秒固まって立ち上がり、私の髪をぐしゃりと撫でて降りていった。ますます顔が熱くなる。恥ずかしくて仕方がない。
女に慣れているくせに、なんであんなに顔を赤くするんだ。かっこいい、って言っただけなのに。言われ慣れているくせに。
乱れた心を落ち着かせて、体育館へ。及川はこちらに気付いて駆け寄ってくる。岩泉さんは彼をゆっくり追ってきた。

「なまえちゃん、ご飯行かない?」
「えっ」
「岩ちゃんが奢ってくれるって」
「なんで俺も参加なんだよ」
「いつも試合終わりは2人で行くじゃん」
「なまえちゃんいるなら2人で行けよ」
「岩泉さんがいらっしゃるなら行きます」

相変わらず岩ちゃん贔屓だね、と及川は拗ねる。岩泉さんは少し面倒くさそうに了承してくれた。すみません、と謝ってみる。

「俺必要?」
「及川さん、私一人じゃ対応致しかねるので」
「…そーゆーこと」

岩泉さんはケラリと笑って帰り支度を始める。

「すげぇ子見つけたな」
「でしょ?」
「目の前で悪口言うのやめていただけます?」
「悪口じゃないって、褒めてるよ」
「ちょっと岩ちゃん。なまえちゃんのこと好きにならないでよね」
「及川さん、静かに」
「静かにしろ及川」
「…酷くない?さすがにへこむんだけど」
「へこまねぇよ、お前は」

仲の良さそうな2人。そんなやり取りを見て、私は楽しくなって笑った。
なに笑ってるの?!と彼に問われたが答えは必要なさそうだった。

2016/01/23