アカアシモリフクロウ | ナノ
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様子がおかしいことにはわりとすぐに気付けた。が、明確になにがおかしいのかはわからなかった。自動ドアを擦り抜けて、エレベーターで目的の場所まで上昇する。彼と同じ部屋に住み始めてから、数週間ほど経った頃だと思う。季節は少しずつ変化を始め、朝晩には薄手の羽織が必要になっていたから。

「いつから付き合ってんだよ」

ぽかん、としてしまった。なんの話ですか、と顔色を変えることなく答えるのは私がうまく躾けられなかった男だ。この場では優等生を演じる彼は、すっかり部内ランキングの上位常連だった。

「みょうじと付き合ってんだろ?」

比較的大きな声だった。部屋によく響いたし、その言葉は私の身体にはよりズシリと乗りかかった。何が起こっているのか、冷静に考えれば幾つかの候補が思い浮かぶ。が、弁解をするにしてもどの言葉を選ぶのが正解なのかわからない。社会人にもなって言葉が出てこないなんて恥ずかしい。

「…なにか、問題があるんですか」

あの目つきはまずい、と彼を庇いそうになるが、それが正解なのかわからない。自分の知識がこんなに薄いなんて思ってもみなかった。若い男のギロリとした目つきに怯んだのか、今度はこちらに向かって言葉が飛んできた。

「みょうじ、お前知らねぇのかよ」

社内で噂になってるぞ、って。ちろりと自分を観察する人間が多い気がしたのは、その噂のせいだというのだろうか。聞きたいような聞きたくないような。なにも発せずに黙っていると、いつか赤葦くんに烏龍茶を浴びせた男が汚い声で言う。

「二股してたけど、最近赤葦に乗り換えたんだってな。そんなに若い男がいいかよ」

私よりも先に限界がきたのは彼だった。ガタンと席から立ち上がって眼光鋭く男を睨む。そして口を開きかけたから。

「違いますよ」

何をどう誤魔化すのか、目処も立っていないが取り敢えずそう声にする。何が違うのか、こちらが教えてもらいたかった。助けてほしいが誰に助けを求めればいいのかもわからないから。

「赤葦くんと私が付き合うはずないじゃないですか」
「インテリアショップでお前ら見たって奴いるけど」
「私が車持ってないから、彼に頼んだんです。友人も捕まらなくて」
「ダブルベッド買ってたらしいじゃん」
「そうです、前から付き合ってる人と同棲することになって。それで」

赤葦くんに無理やり頼んだんです、って笑って言ってみる。私はいま長年付き合っている彼氏とラブラブなんですって表情を乏しい想像力でつくってみる。これでいいのだろうか。これが正しいのかどうかわからない。とにかく、彼に影響がなければそれでいいのだ。私は二股女でもなんでもいいから、赤葦くんに悪い噂がつかなければそれでいい。

「赤葦可哀想だな〜、休みの日までこき使われて」

彼と一瞬目を合わせる。適当に話し合わせろよって目で訴えてみるが、多分それは彼に伝わっていない。
不服そうな表情のまま、ストンと腰をおろした彼。私の心臓はまだどくどくと喧しい。

2016/03/16