アカアシモリフクロウ | ナノ
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インスタントの安っぽいアイスコーヒーを出して、キッチンのテーブルを挟んで着席。やたら苦いだけの黒い液体、静かな部屋。氷が溶け、カランと音がする。それが妙にクリアに聞こえて。

「すみませんでした。俺、軽率でした」

何だか私がいじめているみたいだった。厳密に言えばそうなのかもしれないが、そう思いたくはなかったし、そんな気もなかった。

「何も、ないんです。連絡先も交換していないし、人数合わせで呼ばれて」

頭の中がごちゃりとする。そもそも、なんで私は彼に嫉妬しているんだろう。会社の女に、私と赤葦くんは不釣り合いだって言われたから?彼が合コンに行ったことを黙っていたから?多分、それは具体例にしかすぎなくて。
漠然と、不安だったんだと思う。だって、お互いの好きなところを発表し合う機会はないし、好きという感情を測定する機械もない。あ、なんかいま私うまいこと言ったな。

「赤葦くんさ」
「はい、」
「私のことすき?」

バカバカしい質問だった。そんなことを聞いて、私は何を求めているんだろう。すきって言ってもらって、それで満足するのだろうか。わからないけど。

「…すきです、すごく」
「どこが?」
「どこが、ですか」

我ながら面倒なことを聞くよなぁって、こんな自分にがっかりした。
歳下の彼。合コンくらい行ってこいってドンと構えていたかったけど、無理みたいだ。彼の身体のどこかに、赤葦京治は自分のものだって書いてやりたいくらいに、独占欲にまみれている。重い女だよなぁ、っておかしくて。

「綺麗だって」
「え?」
「綺麗な名前だって、そう言ったの覚えてます?」
「…うん」
「あの時から、すきでしたよ。そんなこと言われたの初めてで。そんな風に言うみょうじさんが綺麗で」

一目惚れなんですかね、とボソリ。そんなの知らないよ。自分から聞いたくせに、自分で勝手に恥ずかしくなって。

「職場で心無いことも言われるのに、全然堪えてないから…あぁ強いんだろうなって思ったら意外と弱いし」

「大人で落ち着いていて、俺なんかとてもじゃないけど近付けなかったのに、酔っ払うと大胆で面白いところもすごくすきです」

「あと、みょうじさんの前だと自分を作らなくていいような気がして、すごく楽で」

「髪も、目も、口も、声も、全部すきですよ。離したくないと思うくらい」

彼はそう言い終えると顔を真っ赤にし、すみませんと謝った。こんなこと言うの初めてです、って。

「俺、初めてちゃんと人を好きになれたような気がして、」

だからみょうじさんのことが好きすぎてどうしたらいいかわからないから、とこちらを見て言う。

「…これは俺の我儘なんですけど」
「…なに?」
「みょうじさんにも、すきでいてほしいんです。俺のこと、俺と同じくらい」

まっすぐな瞳は、出会った頃と何も変わっていなかった。澄んだそれは、ぶれることなく言葉を続ける。

「みょうじさんが不安なら、なんでもします。俺、あんまり思ってることが顔に出ないから…心配ならレポート書きます。みょうじさんのどこが好きなのか」
「…いや、いいから。バカじゃないの」

ガタン、と椅子から立って、彼のそばに寄って。

「…私の方がすきだよ、赤葦くんのこと」

そう言って自分からキスをしてやった。むわりと熱いはずの外と、同じくらい熱い口内。私の後頭部に回る手は、やっぱりパソコンのキーボードを叩くのには勿体無い代物だ。

せっかくだし、レポートを提出してもらおうか。そうも思ったが、悪趣味だと思ってやめた。そんなことよりも、こうしてぬちゃりと舌を絡めている方が、よっぽど安心するからだ。

2016/02/24