オムライスとか、食べるんだ。
学生からスーツのサラリーマン、ジャージ姿のカップルに髪の根元が黒い母親と小さい子ども。様々な年代と性別の人間がそこには集っている。
「本当、すみません」
「いいって」
彼は意外にも可愛らしいものを注文して、席に着いてからも食事を開始してからも必死に謝った。律儀だなぁと感心さえする。待たせたから、と会計まで彼が済ませた。サクッと食事を終えて帰り道。送ります、と望んでいた言葉を彼はくれたので、こちらは上機嫌。待たされたことなんてすっかり忘れていた。
「こっちこそごめんね。私がお礼するはずだったのに、ご馳走してもらって送ってもらって」
「俺のせいで用意してもらったお店も台無しにしてしまったし、遅くなってしまったので」
少しずつ気温が上がる。夜になっても冷えることは少なくなり、夏が近付いていることがなんとなくわかる。
「ねぇ、いいよ?そんな気遣わなくて」
「…何がですか」
「敬語」
職場で1番歳近いんだし、と続けて伝える。赤葦くんは少し考えたが、気を緩めることはなかった。
「だめですよ。みょうじさんは先輩ですから」
「その先輩がいいって言ってるんだからよくない?」
「よくないですよ」
「じゃあ2人の時だけ。それならよくない?」
そう強請ると、彼はしつこいなぁという顔でこちらをちらりと見る。
「粘るよね、ほんと」
そう言って赤葦くんはくつりと笑って。言葉遣いだけでなく声色まで変えてくるこの男はタチが悪いというかなんというか。
「満足?」
「…ビックリしてる」
「だろうね。もうやめるよ」
「いいよ、やめなくて。面白いし」
その場の勢いで、彼の手を握ってみた。振り払われるだろうかって、ちょっと考えたけどそうなったらそれだ、と行動に移してみる。
彼はまたこちらの様子を伺い、小馬鹿にしたように笑って、手を一度解くと指を絡める繋ぎ方に変えてくる。触れ合う肌が、じくりと熱い。
「どうしたの?」
「…どうしたのじゃないよ」
「顔、赤くない?」
「うるっさい」
「あはは、ほんと面白い」
くだけた彼は、普段に比べれば年相応に見えた。20代前半の明るくて愉快な雰囲気と、大人になる間の微妙な様子。
「そっちの方がいい」
「え?」
「赤葦くん、そっちの方がいいよ」
「そうですか」
「ちょっと、戻さないでってば」
「戻しますよ。なんでみょうじさんの好みに合わせなくちゃならないんですか」
確かに、と思いけたりと笑った。赤葦くんもなぜかけたけたと笑って、ぎゅうと手を強く繋いだ。なんだこれ、恋人みたいじゃないか。
2016/02/14