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両手がハサミになったらどうしよう。
少し古くて有名な映画を観てそう考えた。実際にはそんなこと有り得ない。そうわかっているけれど、考えてみた。
美容師や庭師になる!なんて前向きな人間はきっといない。いや、いるのかもしれないけれど、加えて言えば私はそんなにポジティブでもない。なのでその選択肢は消去。
シャープペンシルを持つことも出来なければ、まともに食事をすることもできない。メイクをするのだって制服に着替えるのだって髪を結うのだって一苦労。可能なのかさえ検討がつかない。

「…なまえ、いまなんじ、」
「…旭、起きたの」

珍しく部活が休みなんだけど、久しぶりすぎてどうしたらいいかわからない。
アワアワしながらそう私に報告した彼。取り敢えずうちに来たのだが、日頃の疲れのせいか旭はあっという間に眠ってしまった。
久しぶりなのに彼女の前で寝やがって…!なんて苛立ちもあったが、疲れているんだろうなぁと心を寛大にし、1人でDVDを再生していたのだ。それが、両手がハサミになる内容のものだった。

「もう19時なるよ」
「…うそ、そんなに寝てた?」
「寝てたね」
「ごめん、久しぶりなのに」
「いいけど、また寝たら許さないよ」
「あはは、なまえまで怖い」
「まで、って何よ」
「大地、怖いんだよね」
「大地くんが怖いのは旭がへなちょこだからだよ」

酷いこと言うね、と旭は笑った。大地くんに怒られる時は凹むくせに、私が嫌味を言ってもニコニコ笑って受け流す。

「ねぇ旭」
「なに」
「私の手がハサミだったらどうする?」
「…なんの話?」
「いいから」

そんなこと言われても。
そう呟くと彼はのそりと上体を起こしてこちらをジッと見つめてくる。

「ハサミって、あのハサミ?」
「そう、あのハサミ」
「文房具の?」
「それ以外に何があんのよ」

ふーん、と少し考えるような素振りを見せた彼は、ポツリポツリと話し出す。

「なまえは、それ、嬉しいの?」
「なんでよ」
「だよね、嫌だよね。俺も嫌だ。バレー出来なくなりそうだし」
「…そうだね」
「なまえの手がハサミかぁ」

その言葉が私の耳に届いた時には、彼はすでに私の手を取り、まじまじとそれを眺めていた。こんなに凝視されたのは初めてのこと。加えて突然のことだったのでギクリとしてしまう。

「な、なにっ、」
「ちっちゃいね、手」
「旭が大きいんでしょ」
「嫌だね。手も繋げないし」

きゅ、と指と指を絡める。旭のゴツリとした5本と、自分の白い5本。なんだかひどくアンバランスで。

「…旭に触ったら、旭のこと傷付けちゃう」
「うん、だよねぇ。さすがにあちこち流血してたらおかしいし。でも大丈夫だよ」
「…なんで」

ずい、と瞳の距離を近付けて、合わせて。寝起きのせいだろうか、いつもより柔い声で言う。

「俺が触るし、抱き締めるし、守るから大丈夫」

ポカン、とした私。リアクションを取らない私に焦ったのか、顔を真っ赤にする旭。

「っ、お、俺、変なこと言った?!」
「…そうだね」
「え、えっ、ご、ごめん、!」
「旭、そんなこと言うんだね」

え?と今度は彼がポカンとしていた。
今はまだ、私の手はハサミじゃない。両手合わせて10本の指で彼の両頬を包み、触れるだけのキスをした。

「耳まで真っ赤だよ、旭」

恥ずかしさのせいか、俯く彼を愛おしいと思った。彼はやっぱり、何も言い返してこなかった。いつもの、旭だった。

2015/10/14