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かわいいね、と告げる。飛雄は不可解な表情を浮かべる。

「……かわいい、ってなんですか」
「ん?とびお、可愛いなぁと思って」
「どこがですか」
「どこがって……顔?」

ベッドの上、行為を終えてへとへとの私は、ぼおっとした頭で彼の問いに答えた。勿論彼は不満そうだ。

「顔ですか」
「うん、お顔。可愛い」
「なまえさんの方が可愛いですよ」
「……知ってるじゃん、可愛いの定義」

可愛いって言われたの、初めてかも。思ってもみない言葉に、私はぱちくりと、目を丸くした。ていうか飛雄、そういうの言ってくれるんだねと、ちょっかいをかけるように照れ隠しで付け足す。今まで彼が、自発的にそんなことを声に出したことはあったろうか。今日のワンピース新しいんだ、可愛い?と問えば「はい」と答えてくれたような気がするし、髪切ったの、どう?と問えば「良いと思います」と返してくれていたが、自らそういった類の言葉を伝えてくることはなかった筈だ。

「赤いです、顔」
「赤くないよ」
「赤いですよ」
「あのね、飛雄のせいだからね」
「俺のせいなんですか」
「だって飛雄、可愛いなんて言ってくれないじゃん」
「……なまえさん、可愛いですよ」

いつも、ずっと可愛いです。可愛くないことがないので、常に可愛いから、言うまでもないというか、と。飛雄はそんなことをスッと伝えてくれたのでずっと聞いていたかったが、彼もそこまでバカじゃないようだ。私のポカンとした表情と視線に気付いたのかもしれない。ハッとして、ごにょごにょと吃る。普段はシャンプーしかしない彼の髪を撫でる。昨晩は私が洗い流さなくてよいトリートメントを勝手に塗布してやったので、いつもよりとツヤツヤと綺麗だった。指を滑らかに滑る。

「かわいい、とびお」
「……俺は可愛くないですよ」
「ううん、可愛い、大好き」

ぎゅうっと彼に抱きついてみる。びくっと反応する彼がやっぱり可愛い。さっき、まぐわったというのに、こんなことで。いつものことだから言ってやる。ねえ、ぎゅっとしてよと。私からおねだりをしないと彼は私を抱き締めてこない。そろそろ痺れを切らして言ってしまいそうだ。飛雄の好きにして良いんだよと、言ってやりたくて仕方なかった。

2022/01/16