短編小説 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
菅原先輩は、天使だ。

日差しは強いものの、ひんやりとした風が吹き、秋らしくなった校庭をぼんやりと眺めたのは現代文の授業中だ。
2階の窓からでもわかる。柔らかく暖かく笑う菅原先輩は、もはや美しさえ纏っている。何であんなに輝いているのだろうか。悔しさを覚える程だ、こちらは女だというのに。

委員会で偶然一緒になった彼は、想像以上の人だった。空気に微睡むような、温和な人。眩しすぎて、話しかけられやしない。至近距離で5秒以上凝視するのさえ不可能。

「なまえ、また3年生の体育見てたでしょ、菅原先輩」
「み、見てないよ」
「いいよ、強がんなくて」

菅原先輩が好きだ、ということは友人にはただ漏れ。見ていればわかると呆れたように言われる。連絡先くらい聞きなさいよ、と苛立った様に言われ、私は委員会終わり、深呼吸をした後に彼に話しかけた。はじめて、業務連絡以外の会話を持ち掛けたのは初夏だった。

「す、がわら先輩」
「んー?どーしたー?」

にこり、天使が私に微笑む。あぁ、どうしよう、このまま時間が止まればいい。ずっとこの笑顔を独占していたい。私はなんて図々しい女なんだろう。

「…?どーした?」
「っ、あ、あの、すみません、私、みょうじなまえです、2年の、5組の」
「今更どうしたの?知ってるよー、面白いね、なまえちゃん」

彼が私の名前を呼ぶだけで、心臓がどくんと跳ねる。確かに春先に委員会のメンバーの名簿は配られたが、菅原先輩が私の存在を認知していることに驚いたし、同時に喜びを隠せなかった。勢いに任せて言う。

「あ、あの、えっと、れ、んら、く先」
「んー?」
「菅原先輩の、連絡先、教えて頂けませんかっ?!」

空気を切り裂くようなスピードで頭を下げる。周りの学生はきょとん、としているせいか、一瞬周囲の音が無くなる。あぁやってしまった…と思い頭を上げられずにいると、彼はゲラゲラと笑いだした。思わず私は彼を見上げる。

「いいよいいよ、はい、携帯出して」
「…!ありがとうございますっ」

また頭を下げる。菅原先輩はもういいから!とまた笑って、アッサリと連絡先を交換してくれた。今となってはその間の記憶はほとんど無い。ただ…。

「そいじゃーね、なまえちゃん。ばいばい」
「お、お疲れさまでした」

菅原先輩が私と目を合わせて手を振ってくれたことはよく覚えている。そしてまた腰を90度に折る私を見て眉を下げ、楽しそうに笑っていた。見惚れずになんていられなかった。

「で?連絡とってんの?」
「…とってない」
「はぁ?何の為に連絡先聞いたのよ?!」
「…だって、菅原先輩忙しそうだし、私なんかが連絡したら迷惑だろうし」
「…あんたって結構面倒くさいよね」

別に付き合いたいとか彼女になりたいとか、そんな事は言わない。このくらいの距離でちょうどいいのだ。バレー部の試合前に応援の連絡をしたり、廊下ですれ違う時に彼がニコリと微笑んでくれたり、今みたいに教室から校庭にいる彼を目で追ってみたり。それで、十分。

「いいの、これで」
「はいはい、余計なお世話でしたね〜」

これでいい。
そう言い聞かせないと、私は図々しい女だから。もっともっと近くにいたいと望んでしまうから。

「これで、いいの」

2015/10/14