短編小説 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
友だち、とか。恋人、とか。その辺の線引きはもっと明確にしてもらわないと困る。じゅうはっさいの俺には、難しすぎる。
高校三年、春休み。四月になればそれぞれ各々の進路へ。いつもより少し長い春休み。自由で、まとわりつくものなんて何もない、微睡んだ時間。ファミリーレストラン、彼女と二人きり。友だちなのか恋人…ではないんですけど、確実に。ただ、言われるのだ、周りに。ただの友だちは用事がなければ連絡取り合ったりしないよ。完全に下心ありきだろ、ソレ。いや、はい。僕は完全に下心しかないですけどね。そんな絶妙な関係の彼女と二人きり。上映時間までの時間潰し。いつ、どのやり取りでそんな話になったのか明確でないが、見たいと思っていた映画がいつの間にか公開されていて、なんならもう公開期間が終了してしまいそうで、時間はたっぷりあるし、じゃあ二人で行こうよという流れで今日をむかえた。

「赤葦、大学の入学書類の準備終わったって言ってたっけ?」

ただの友だち(男女)は特に用もないのに二人で会ったりしねえよ、と言われそうな状況である。いやでも、映画を見るという用はあるわけだから、これまた何とも言い難い。そこそこ賑わった店内。自分たちの様な年頃の男女の組み合わせは少なくなかったが、どう見たってどれも交際中の看板が掲げられていた。楽しそうにキャハキャハはしゃいでいる。羨ましいと同時に「何をどうやったらそちら側へいけるんですか?」「告白の言葉は?どちらから?シチュエーションは?」とか、そんな類のことを端から順番に問いただしたくもなった。当然、そんな奇行に走ったりはしないけど。

「だいたいね。あとは入学手続き書類?が届いてからのがあるけど」
「大変だねえ」
「他人事みたいに言うね。まあ他人事だけどさ」
「他人事だけどさ、って言うと思った」

アクリルの安っぽいコップに注がれた(ドリンクバーなので注いだのはみょうじだが)メロンソーダを飲み、フッと笑って、一瞬俺の方を見て、またメロンソーダを口にして。俺とみょうじはこのくらいの距離感だ。そこそこの時間を共有してきたから、相手がこの言葉に対してこう反応してくるだろうなと。そんなことを想像できるくらいの仲だ。付き合わないの?と指摘されることもある。そんなことは俺も以前から(多分夏休みくらいから)思っていたが、なんか、そういうのじゃない気がして。比較的仲の良い友人、というポジションで現状維持。「つまんねえの」と愚痴られる意味はイマイチわからなかった。文句を言いたいのは俺だから。いや、自分に向けた文句ですけれども。

「みょうじはどうせ何もしてないんでしょ」
「正解、よくわかるね」
「そりゃあね」
「一週間あればどうにかなるかなって」

いざとなったら赤葦に聞くし、と意地悪く。それ、何で俺なの?みょうじ、それなりに友だちいるじゃん。俺以外でもいいじゃん。じゅうはっさいなんだから、そんなことくらい考えなしに、パッと口にしてしまえばいいのに。自分でもそう思う。だから苛つく。クソが付くほど真面目な自分に。

「早いねえ、春休み。まだ寒いのに」

店内はセーターを着ているとやや暑いくらいだったが、まだ気温は低く、とてもじゃないが春とは呼べなかった。意味もなくストローで安っちいコップの底をぐるぐると掻き回す彼女は、学校で見る彼女とは別物のようで、良かった。髪はくるりと巻かれており、俯くとまぶたがきらきら。淡い色のセーターの袖が第二関節まで覆っている。可愛い、と思う。いや、普段もじゅうぶんに可愛いんですけど。可愛いから好きって、勿論それもあるんですけど。

「あ、ねえねえ、あと10分だよ」

そろそろ行こうか、と。そんな空気を醸し出して伝票を持った彼女に言う。これくらい俺が払うからいいよって。そうしたらぱちくり、不思議そうな顔をして。

「え、いいよ。誘ったの私だし」
「いやいいよ、違うじゃん、なんか」
「何も違わないでしょ」
「とりあえずいいから」
「とりあえずの意味がわかんないんだけど」
「わかんなくていいから」
「わかんなくていいってなに」
「そのまんまの意味」
「変じゃん、付き合ってもいないのに。いや、付き合ってたって…変、なんだけど、」

「あ、やってしまった」が表情に、それも全面的に表れていて、俺はちょっと、調子に乗った。いや、かなり乗った。もうこれ以上ないってくらいに、乗った。溜め込んでいた言葉達がいざ行かん!と出陣していくような気分だ。

「……なんでニヤニヤしてんの」
「え、そう?ごめん」
「なんでニヤニヤしてんのって聞いてんの」
「可愛いなぁと思って」

ムスッとしていたくせに、一瞬驚いて、じわじわ照れ臭そうで。俺、こんな表情間近で見てたら、どうにかなってしまうんじゃないかと思うわけで。

「ねぇ、なんで今日、誘ってくれたの」
「なんで、って…だって、」
「俺じゃなくても良くない?今日の付き添いも、…さっき話した、大学の入学書類のこと聞くのも」

噛まれた唇。そんなこと言わなくてもわかるでしょ察してよ、が詰め込まれた視線。好きな子に意地悪をしたくなる男は小学五年生のようでダサい。それくらいはじゅうはっさいの俺でもわかる。この辺りでそれに気付き、言いたかったことを特に装飾せず、そのまま伝える。

「俺はみょうじのこと好きだから付いてくるし、書類も教えるけど……あ、いや、映画は普通に見たかったやつだからアレなんだけど…」
「え?」

途中から訳のわからないことを言ってしまったような気がしないでもないが、いやでもまぁ、よくやったよ俺。パッと顔を上げた彼女と目が合う。何言ってるの?とでも言いたげだ。それがわかってしまう自分は彼女にどれだけ惚れ込んでいるのだろうか。案の定「何言ってるの?」が飛んできて「何言ってるんでしょうね」と返して。

「もう一回言って」
「なんで」
「聞こえなかったから」
「いや、聞いてたでしょどう見ても」
「嬉しかったから、もう一回言って」

あぁ、その言葉は想定外。彼女の指先に触れ、伝票を奪い取る。ちょっと、と彼女が怒る。俺の背中をぽかぽか叩く。早く肌寒い店外に出たかった。顔も耳も触れ合った指先も全部、全部熱くて仕方がないから。

2020/05/03