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木兎とヤるのはもう8回目くらいなのに、相変わらず全然良くない。気持ち良くもないしどちらかと言うと痛いのがメインで、苦しいし疲れるし汗かいてベトベトだし、とにかく良くない。良くないけれど、気持ちいいふりをする必要がないからどうにか耐えられる。甘ったるいパンケーキみたいなふわふわとした声を出す必要もない。エッチな言葉も言わなくていい。ただ木兎に組み敷かれて彼が吐き出すのを待つだけだ。だいたい30分くらいで終わるからまぁいいかって、そんな感じ。

「っく、っ…!」

前戯だって相当雑。適当にキスして適当に膨らみをぐにゅぐにゅ触って、そしたらもう指を突っ込んでくる。頼むからセックス特集組んだ雑誌読んで勉強してくれよ、と思うほどだ。痛い、と言ってやったのも2回目まで。それ以降はこちらもこいつに痛みを与えることにした。無難に背中を引っかいたり、キスするフリをして唇を噛んでやったり、肩の辺りを殴ったりした。最中に、だ。ただこの男はそちらの方がわかりやすいらしく、「わりい、痛かった?」ってシュンとするから、わかればいいのよってそんな感じで微笑んでやる。もちろんそれもその場だけで、次ヤる時には元どおりだけれど。

「なぁ、だめ?」

きょろり、というかぎょろりとした瞳が私の心を揺さぶる。こんな関係になったのは彼が熱心に取り組んでいるバレーボールのせいだ。その合宿から戻って来た彼は私に懇願した。セックスしてくれって。頼むからって。付き合ってもいない、ただのクラスメイトな私に、だ。

「意味わかんない」
「こんなこと頼めるのみょうじだけなんだって」
「私に頼まれても困る」
「だって先輩たちが言ってたんだもん、試合の2日前にヤると調子いいって」

どこのどいつがそんなこと言ったのか知らないが、相当にバカなんだと思った。むしむしとした体育館で練習するからそうなるのではないだろうか。私の前で泣きそうになりながら頭を下げる彼を見ていると色々狂ってくる。5歳児に頭を下げられているみたいで、なんか、すごく変な気持ちで。

「1人でヌけばいいじゃん」
「それじゃ効果ないらしいんだよ…頼む、昼飯奢るから!ミルクティーもつける!」

私の身体の価値はランチとドリンクセットらしい。確かにグラビアアイドルみたいにむちむちと色っぽくもないし、特別顔が可愛いわけでもないけど若干失礼じゃないだろうか。でもいつも金がないとぼやいている彼だからなぁ。お昼ご飯とミルクティーはそこそこ頑張っている方かも、と思っている私は結局、本気で嫌なわけではないんだ。他のバレー部の連中に同様のことを持ちかけられたら速攻で断るしその後に女友達にその内容を言うだろう。「部活ダシに使ってまでヤりたいとか最低」って多分言いふらす。だからきっと私は、木兎とならまぁいいかって、心の片隅でそう思ってしまっているんだ。まだセックスなんてしたこともないのに。

「いつするの、」
「…次の試合の、前の前の日」
「それっていつ?」
「えっ、と…来週の日曜日が試合だから、木曜…」
「金曜日ね」
「…いいの?」

いいのかどうかは私にはわからない。どちらかと言えばだめなんだろうけど、なんかもういいよ、って思ってしまっているから。学校じゃ絶対しないからねってそうクギを刺して木兎の前から去った。心臓がドキドキしていた私に言ってやりたい。そいつ、めちゃくちゃ雑だから全然気持ちよくないし脳で描いていたようなロマンチックな空気なんて1つもないよ、って。その金曜日はお互いに初めてで、私もわかってないしもちろんあいつもわかってないし、とにかく痛くて、もうずっと痛くて、ひたすら痛くて。木兎のものがねじ込まれたそこも、腰も足も下半身全部が気だるくて仕方なかった。だけど彼が無理させてごめんなってシュンとするのが可笑しくて、明後日負けたら許さないからねって睨んでやったのだった。
そして木兎は、私とセックスした翌々日は、必ず試合で勝利を収めるのだ。だからなんかもう、笑ってしまう。

「明日?」
「無理?」
「…生理、」

9回目の時、彼の誘いを断らなくちゃになった。誰も悪くないのに、ものすごい罪悪感で、お馴染みの彼のシュンとした表情。なんか悪いことしたな、と無駄に責任感の強い私は、彼に思ってもないことを言った。

「…他の女の子誘えば?」

木兎はそれなりにモテないこともない。特に後輩の女の子とか、たまーに「バレー部の木兎先輩かっこいいよね」なんて可愛い声で言っているのを聞いたことがあるような気がするし、悪くないんだと思う。私である必要はこれといってない。セックスができれば、それで。

「え?なんで?」
「なんでって、」
「俺、誰だっていいわけじゃないよ」

みょうじじゃなきゃ意味ないからなって言われて、はいって握らされたミルクティー。いいの?って言ったらいいよってニコニコ笑っていた。

「私じゃなくてもいいでしょ」
「あれ?言わなかったっけ?あれな、好きな女の子とじゃないと意味ないんだって」
「え?」
「みょうじ、試合頑張ってって言って、」
「なに、なにが?」
「試合頑張ってって」
「…頑張って、試合」
「おぉ、サンキュー」

じゃあね、と言って自分の教室へと戻っていく彼。いや、待って待って、じゃあもうちょっと上達してくれないと困るよ。握ったミルクティーはたっぷり汗をかいていた。

2017/08/13 title by 草臥れた愛で良ければ