シンラララ!! | ナノ








校門には“来神高校”と書かれている。

僕は岸谷新羅。今日この時期、家の事情で転校してきた3年生だ。
初日も既に昼休みで、もうすぐ午後の授業が始まるところである。
敷地の広さは一般的な高校とあまり変わりはない、至って普通の学校。ただ階段を上り下りして、廊下を突き進めば大抵の教室に辿り着くはずなのだが――。
「どこ、ここ」
方向音痴という訳でもない。
きっとまだ慣れない所で、周りに、人に、酔ったのかもしれない。
そんな不安から、肌には冷たい汗が滲み始めた。
「戻ろう……」
迷ったら来た道を戻れ。
誰の教えとも分からないそれに従って踵を返した。
その時。
「迷子はっけーん!」
廊下中に響き渡るくらいの大声に驚きビクリと肩が震えた。
丁度自分の前方にいる人物。
声と共に差し出された人差し指は、明らかにこちらを指している。
何より否めないのが、迷子。
「僕?」確認すると、相手は笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
整った顔立ち、所謂眉目秀麗。表現はおかしいが、成績優秀そうな顔をしている。
だが、首から下はとても高校生には見えない。
この高校は、制服が自由らしい。
脇腹あたりにまで短くした丈の学ランを着用していて、全身を見ればアンバランスだ。
「君、同じクラスの。転校生、だよね」
ガシッと肩に腕を回され、威圧感たっぷりに訊ねられる。
転校初日、不良にでも絡まれた気分だ。
「へえ、同じクラスなんだ。さっきいた?」
「居たよ、失礼だな。俺は折原臨也。因みに生徒会長、よろしく」
「君みたいな生徒会長見たことないよ」
――オリハライザヤ。
珍しい名前だという感想は心中に留め、素直な意見をぶつけた。
「つくづく失礼な奴だな。人は見た目で判断するなって、教わらなかった?」
「いや、そんなことどうでもいいから、教室教えてくれないかな……。授業遅刻したくないんだ」
「どうでもいい、か……。で、次の授業は何?」聞きながら、持っている教科書を確かめ、納得した後、肩組みをしたまま前方に進み出した。
「俺と同じだ。一緒に行こう」
「本当、助かる、」
固定された歩き方に多少の不満を抱えながら教室に向かう。

――刹那、頭上を何かが飛び越えていった気がした。
気がした、というより、事実だ。
声を遮るほどの大きな物が、頭上を掠ったのだ。
まるで自分たちの行く先を阻むかのように、足元に落ちた。
「……教卓?」
虚しく転がる、無残な形に潰れた大きめの机。
それを見た折原臨也は、口角を歪ませ、颯爽と逃げ去りながらこう言い残して行った。
「ゴメン、案内は彼にしてもらって!」
「は!?」
混乱しながら慌てて背後を振り返る。
鮮やかな金髪、真の不良のごとくとした出で立ちに、開いた口が塞がらない。
――彼が、アレを投げたのか……?
運ぶ程度には1人でも持てそうな机だが、それを投げるとなればもっと力が要るだろう。
だがこの距離を飛ばして尚、彼は呼吸はおろか疲労の乱れもない。
鬼面に睨まれ、動こうにも足が竦む。
そうしてもたついている間にジリジリと歩み寄って来る。
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
まるで獣に狙われた餌だ。じわじわと込み上げる恐怖に思わず謝罪の言葉が零れた。
汗か涙かも分からない水滴が目に溜まる。
もうどうにでもなれ。
きつく目を閉じてこの場をやり過ごそうと思った。
ふわりと匂った香りで、腕が振り上げられたのが分かった。
――殴られる。
自分は何もしていないが、目下の状況で思い付く彼の行動はそれ以外に浮かばない。

しん、と静まる気配。
喧騒は止んでいない。
止んだのは、彼が放っていた暴力的なオーラ。
恐る恐る目蓋を上げていく。
痛みはない。殴られた感覚もない。
今ある感覚、感触は、つむじに乗っかっている、手の平の存在。
「ん? え、何? どういう……」
「怪我は?」
「え、ああ……大丈夫だけど」
「あいつに近付くなよ、特に俺の前ではな。クッソあの野郎ぶっ殺す!」
「わあああ! ちょっと待って、」
話の展開についていけない。辛うじて折原臨也と彼の仲が悪いことだけが分かった。
おまけに物騒なことまで言い出し、正直彼なら遣りかねないような気がする。
ここで漸く我に返り、行動を止めるついでに教室の案内を頼んだ。
「教室、教えてほしいんだけど」


教室に入ったと同時に授業開始のチャイムが鳴った。
選択授業で、彼も同じのようだ。
「俺も同じだ」と行っていた折原臨也の姿は当然ない。彼と顔を合わさないように何処かでサボっているのかもしれない。
特に席順の決まっていない席に座りながら苦笑を漏らした。
「あ、案内ありがとう。名前、教えてもらってもいいかい?」
隣に座った金髪の彼。
何も喋らなければ、見た目はともかく普通に物静かな雰囲気だ。きっと根は優しいに違いない。
そう考えるとさっきまでの恐怖は全く無くなり、積極的に話し掛けることさえ出来た。
「案内って程じゃ……。俺は平和島静雄。お前は」
「僕は岸谷新羅。今日まさに転校して来たんだ。折原君と同じクラスなんだ」
「俺の前でノミ蟲の名前なんか出すなよ、殴るぞ」
「え……」
「静雄落ち着け」
険悪な状況寸前で後ろから低く落ち着いた声が止めに入ってきた。
声のした方を見るが、相手はこちらに目もくれず、授業とは関係のない書籍を開いてひたすらに文字の羅列を追いながら、口だけを動かしていた。
「岸谷と言ったか。お前も静雄の前で臨也の話は極力しないように気をつけた方がいいぞ。俺には関係無いけどな」
「一応肝に銘じておくよ」
「そうしてくれ。じゃ、俺は寝る」
幸い大事にはならず、ほんの数秒で寝息を立て始めたのを見て胸を撫で下ろした。
教科担当の挨拶と適当な出欠チェックが終わって尚、彼は僕に話題を振ってきた。
「ところで、また妙な時期に転校してきたんだな。直ぐ卒業じゃねえか」
「うん、ちょっと家の事情で」
「へえ……」
不意に目と目があった。
何を考えているのか分からない、ほぼ無表情の色。
「眼鏡」
「眼鏡?」
「ずれてる」
微笑みとも捉えられる笑み。不意打ちと言っても過言ではない。
照れ隠しのように、ずれた眼鏡を軽く押し上げ、いい加減授業に集中しようと机上の教科書に視線を這わせた。
「俺は門田京平だ。友達になれとは言わねえが、困った時は頼れよ、主に静雄と臨也に関して」
「是非、そうさせてもらうよ」


休み時間ごとに折原君と静雄君の喧嘩騒動に巻き込まれたりして、午後の授業が全て終わった頃には体が酷く困憊していた。
でも精神的には寧ろ喜びを感じている。
前の高校では友達という友達はおらず、疲れるほど騒ぐことは皆無に等しかった。
「じゃあね、また明日」
帰路につきながら1日の出来事を思い返してみた。
今日からこれが僕の日常になるのだと思うと、楽しみすら覚えた。
――もっと知りたいな、彼らの事。特に……、


▼ 折原臨也

折原君のこと。

▼ 平和島静雄

静雄君のこと。

▼ 門田京平

門田君のこと。



\続きは製品にて/




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鴇姉ありがとうございました!
続き?いやありませんけど彼女に言えばもしかしたら…←
でもゲーム画面絵は描きたい。