連載 | ナノ






「シッズちゃーん!今宵は俺とラブラブランデぶふっ」

「んなとこまで来んなノミ虫!!」

扉を開けた途端、枕を投げ込まれた。




修学旅行って夜御飯食べて自由時間になってからが本番だよね。友達の部屋に遊びに行ったり、お風呂に入ったり、好きな子に告白タイムとか…修学旅行中(夜)の人間のテンション程面白いものはない。まあそう思ってる時点で俺のテンションも普段より若干高めなんだぜ。



「いったあ…枕投げなら負けないよ!」

「違ぇよ自分の部屋に帰れ」

「俺の部屋ここだもん」

「嘘つくな」

「ほら、修学旅行のしおり見てごらんよ」

ぺらりと青の表紙を捲り、部屋割りのページを見せる。

「…………はぁ?」

「あは」

「………なにこれ」

「折原臨也様をなめんなよ。教師は既に我が手中。部屋割りを替える事などちょちょいのちょいってワケ。因みにシズちゃん以外のこの部屋の子は俺が買った部屋に入ってもらいました。彼らに報酬として1万ずつあげたらホイホイ釣られてくれたよ。という事で、今夜ここにいるのは俺とシズちゃんの、2人きっ…ぎゃあああっ」

「ふっっざけんなあああ!!」

シズちゃんは俺が返した枕を引き千切った。あーあ弁償。

「なんで!俺が!こいつと!!」

「まあまあ落ち着いて落ち着いて。枕から飛び出だ羽が舞ってるから、頭に乗って可愛いから、落ち着いて」

「うっせえ!!」

「んっ!?」

千切ってボロボロになった羽毛枕を投げられた。

「はははははははっよくもやったな!!」

「んむっ」

俺は部屋の中に入って違う枕を掴んで、シズちゃんに投げる。見事に顔に的中した。更に怒った彼は左手にもう1つ枕を掴んで両手で2つ投げてきた。この部屋にある枕は4つ(1つはシズちゃんが引き裂いて使い物にならず)如何に枕の主導権が握れるかが鍵だ。

「いいいざあああやあああ!!」

「当たんない当たんないよ!」

「くっそうぜえ!!」

シズちゃんが枕を投げると、まるで金属をぶつけたかのような衝撃音がする。これはもろ当たると死ぬかもしれない。シズちゃんと命がけバトル?はっ最高。
だって、シズちゃんの全神経が俺に向いてくれてる訳じゃない。嬉しい事この上無しだよ。

「死ねえええ!」

狭くも広いとも言えぬとある沖縄のホテルで、俺たちは一晩中枕投げをした。目が覚めた時は俺はベッドにうつ伏せになっていた。いつの間に寝たんだろう、と起き上がって辺りを見回すと、シズちゃんはベッドを背もたれにして寝ていた。その格好絶対腰痛めるって。

「シーズちゃん」

床に座って顔を覗き込んでも目覚める気配は無い。

「起きないとちゅーしちゃうよ?」

そう脅しても寝息が響き渡るばかり。
痛んだ金髪で寝顔は僅かに隠れているが、初めてシズちゃんが寝てるとこ見たかも。
…ちょっと今、ムラっときた。

「シズちゃーん…ほんとに、ちゅーしちゃうよー?」

脚に跨って、顔を覗き込んでも爆睡中の彼は反応を全く示さない。俺の口元はつり上がった。今がチャンスだ!

「っ…いざ…」

「わっ!」

唇が触れる直前で、うっすらと瞼を開けたシズちゃんと目が合った。思わずへたれた声が出る。

「いざや…」

寝ぼけているのか大して抵抗もせず掠れた声で俺の名前を呼んで、小さく笑った。なんだこのイケメン。すごく、すごくすごくかっこ良い。初めて見たよその微笑み!そんな表情出来るのかよ!

「シズちゃ…っ」

心臓が有り得ない位にバクバクと鳴っている。早く、退かなきゃ…。

「あああ俺!お風呂入ってない!」

「…?」

そう言いながら笑ってシズちゃんから退き、逃げるように入り忘れた大浴場へと走った。
ヤバいヤバいヤバい顔が死ぬ程熱い。今までこんな事無かったのに。
有り得ないよ、俺がこんなに弱いなんて!!

頬を叩いて、これは寝起きのせいだと思い込んだ。