9 「静雄はさ、臨也のこと面倒だとかうっとおしいとか思ったことないの」 「なんだよいきなり」 「…臨也は静雄に依存しすぎだと思ってたけど、君もとんだ臨也依存症だよね」 「うっせ、つーかなにこれ」 「解熱剤。今風邪薬は市販のしかないんだ。臨也は市販のは飲まないだろ?あまりに熱でてうなされてたら飲ませてあげて」 「……わかった」 うっとうしいとか面倒だとか、そんな事は考えたことはなかっ。ただ、まるで俺のことしか知らない赤子のように縋ってくる臨也が愛しくて、可哀想だった。それだけ。 臨也が熱を出してしまったので、幼なじみというか腐れ縁というか医者を営んでいる(非合法だが)友人の元に来た。臨也は薬を飲むのが苦手なので風邪を引いても殆ど飲むことはないが、こいつが勧めたものは飲む。あまりの信用ぶりに、恋人という立場だとしては複雑だがな。 解熱剤を飲ませても薬が切れた時が一番辛いしなあとかなんとか考えていると、ぽつり頬にひんやりとした水滴が落ちてきた。雨だ。天気予報なんて気にしている場合ではなかったので傘なんか持ってきている筈もなく。数秒もしない内に雨は激しい水音を立て始め、慌てて近くにあるコンビニの屋根の下へと非難をする。 「しまったな…」 このままびしょ濡れ覚悟で帰ろうか。しかしポケットに入っている携帯と煙草は完全に使いものにならなくなるだろう。厚い洋服を着ていれば良かったが、今の服装はシャツにスラックス。携帯も煙草も防いでくれそうになかった。 雨宿りなんかしていても、いつ雨が止むかも分からないし、なにより臨也が待っている。眠っているところを置いてきてしまったから、目が覚めない内に帰ってやらねば。 「傘、買うしかねえよな…」 結局、500円のビニール傘を買うはめになるのか。 ぱしゃりと道路脇の水たまりに足音をたてた時、友人に言われたことをふと思い出す。 「依存、か」 臨也が俺に依存しているのはわかる。が、俺も臨也に依存しているのだろうか。 ただ臨也が自分に縋ってくるから、自分もそれに応えようとする。勿論俺が臨也のことを好きだから、こうして甘やかしたくもなる。離れたくないし、いなくなったら寂しい。それが依存なのか、はたまた愛と呼ばれるものなのかは分からない。 でも俺は臨也を愛している。じゃあ臨也は俺のことをどう思っているのか。お前が俺に何を思って依存するのか。そんなこと、付き合っているのに考える俺は間違っているのだろうか。 臨也が、俺のことを“見て”いない気がして。 心に穴が空いたように物足りなさとよく分からない苦しさで泣き出したくなった。 結局この気持ちも、自分が何をしてやれば良いのか、臨也が何を考えているのかも、無い頭捻ったって分からないんだ。 |