8 高校3年の春の頃だった。俺とシズちゃんはまだ恋人関係なんて程遠い関係で、むしろ俺がシズちゃんへ片想いしている日々が長々と続いていた時だ。 人並以上の力を持つ特別な存在のシズちゃんにどうにかして構って欲しくて、自分の本心に嘘をついて嫌がらせばっかりしてきた。いや、本心に背く、というより当時の俺はこの方法でしか振り向かせ方を知らなかった。なんて子供で単純で下らなかったんだろう。 でもまだ幼い俺にとって、人を使うのは流石に限界があった。他校の喧嘩の強い不良に、彼にとって不利益なシズちゃんについての嘘情報を流すと、いとも簡単にシズちゃんに対して怒りを表してきた。 というのは実は嘘らしく、あいつは俺と一緒にシズちゃんを呼び出した体育館裏に来るや否や、突然地面に押し倒されて、犯された。流石に力差もあり抵抗も出来ず、恐怖と地面に頭を打った痛みだけがじわじわと俺を蝕む。いたいいたいこわいこわいたすけてたすけてたすけてたすけて、シズ…、 あ、れ? ―臨也を体育館裏に呼んだのも、無理やりしたのも、俺だ。全部、俺が手前に酷いことをした ―…シズちゃんが…? ―…手前のこと、好きだから、…ごめんな 「臨也!おいっ臨也!」 「!!え…」 「大丈夫か?うなされてたけど…眠いならソファよりベッドの方が…」 「あれ、いつの間に寝て…」 どうやら俺は数年前の夢を見ていたのか。途中からあんまり記憶に残ってないけど、多分、シズちゃんと俺が付き合うきっかけになった時の。 きっかけが途中から思い出せないだなんて、俺酷いかな。ごめんね。でも、シズちゃんの優しさだけはずうっと忘れてないよ。怖さも痛さも辛さも全部吹き飛んだんだよ。不思議だよね、シズちゃんが優しくしてくれただけで、こんなに気持ちが軽くなる。 あの日の出来事以来、俺は人生の全てがシズちゃんで染まった。嬉しいと思う感情も悲しいと思う感情も、全部シズちゃんがくれる。 「んー…おはよ」 「なにがおはよ、だ。……?お前…なんか熱っぽくないか…って熱っ」 「えっ」 「肌寒いのに何も掛けずにソファで居眠りこいてるからだろ…ほら次は布団入ろう。動けないならおぶってやるから」 「うん……」 「…………」 一体これが幸せ…なのかはよくわからない。幸せすぎて自分の感覚が麻痺しちゃったのかな。 でも、シズちゃんさえいれば、なにもいらないってそう思えた。 |