6 朝眠りから目が覚めると、倦怠さが身体全体を包む。その事実が強制的に昨日の情事を思い出させ、思わず頬が熱くなった。同時に今この手には何も掴んでいないという現状に、虚しくなる。 起き上がり、辺りを見回してもシズちゃんはこの部屋にいなかった。ベッドから降り、血の気が引くような感覚に目眩を覚えつつ扉の前へと向かうが、下半身の痛みにより上手く動けず床に座り込んでしまった。 そういえば、あの時も、 「臨也、おい…大丈夫か?」 「あ…、」 部屋内の様子に気付いたのかシズちゃんが扉を開けて心配して来てくれた。しゃがみこんで俺の顔を覗く彼に思い切り抱きつく。 「わ、」 「おはよ、シズちゃん」 「…おはよう」 今日もまた、何も変わらない1日でありますように。 「つかマジで大丈夫か?立てないのか」 「う、ううんへーき」 「嘘つくな。ならなんで此処でへばってんだよ」 「いー!いひゃいよ!ひうちゃん!」 両頬を摘まれ、痛さに視界が滲む。俺の舌っ足らずの口調と表情のせいかシズちゃんは盛大に吹き出し、けらけらと笑っていた。酷い、俺は真面目にやってるのに。 「シズちゃんのバカ!」 「悪い悪かったって!つーか叩くな」 シズちゃんの肩やら胸やらを叩いていると、丸め込まれるように抱きしめられた。 かと思いきや、ふわりと宙に浮かぶ感覚。 「ひゃあ」 「動けないと思って、今日は俺が朝飯作ったからな」 「?…ほんと?」 「嘘ついてどうすんだよ。まー昨日も結構無理させたしな…お詫びだと思ってくれ」 「無理なんかしてないし!」 「でも動けないだろ?悪かった」 どうして申し訳なさそうに謝ってくるんだろう。 シズちゃんは何も悪くないのに。むしろ俺がシズちゃんに無理をさせてしまったというのに。 ああその困った笑顔。きっと俺のことを面倒臭い人間だとか、考えてるんだろうな。俺はそんなシズちゃんでもすがりついてまで愛してほしくて、その割に俺が手に入れられるものは何もなくて。大好きなシズちゃんの温もりも優しさも全部受け止めている筈なのに、まるで煙のように俺をすり抜けて消えていってしまう。 シズちゃんは悪くない。俺が、俺がわがままだから。 「何しけた面してんだよ」 「いたっデコピン!?シズちゃん今日は暴力的だ!!」 「悪い悪い。はいここ座ってて。今持ってくるから」 軽くあしらわれながら椅子の上へと下ろされ、シズちゃんが台所へと消えていった。 しばらくしてふんわりとトーストの匂いがこちらまで届く。 なんだかそれが無性にむず痒くて、 「………嬉しい」 「今……笑った」 「え?何か言った?」 「べっ別になんでもない…おらよ」 「美味しそう!ありがとう」 「……あ、むしろ朝飯ぐらいなら毎日俺が作ってやってもいいぜ!」 「えーそこまでは悪いよー。だいたい平日にシズちゃん起きられるの?今日は休日だけど、もう9時でしょ?」 たまたま今日は俺の方が遅く起きただけで、普段はシズちゃんの方が寝坊助さんな癖に。 そう言って笑うと、シズちゃんも嬉しそうに笑っていた。 休日、 大好きな人を1日ずうっと独り占め出来る日。 |