2 「うわあああんっシズちゃっ、シズちゃーん!!」 「臨也静かにしろ」 いよいよ修学旅行当日。朝6時に学校集合だからって冬の朝ってこんなにも暗かっただろうか。 クラス毎に分けられた空港までのバス。B組はこちらです、と朝から元気なバスガイドに誘導され、俺はバスに一歩足を踏み入れた。 すると、後ろから臨也の声が聞こえた訳だ。 俺もB組ですが何か?な顔でバスガイドに爽やかに挨拶をして一緒乗り込んでくる臨也を、奴と同じクラスの門田が静止させた。 「やだやだシズちゃんの隣の席がいい!」 「席決まってんのにややこしくなるだろ!」 門田は言わば臨也のリミッター役だ。俺が奴にキレそうになった時も門田は臨也を引っ張って逃げてしまう事もあった。俺がその2人を見てさらにイラっとして、新羅に八つ当たりするのは別の話だ。 俺が臨也を無視してバスに乗り込むと、新羅が座席からひょこっと顔を出し、俺に手招きした。丁度真ん中あたりに位置する席、新羅は窓側で俺は通路側。 「…ふふ」 「?新羅?」 ふと窓の外を見ながら笑っている新羅に声をかける。隣のバスを指しながら口元を抑えていたので、何事かと思って俺もその指の先を追った。 見なければ良かった。 「いざ、っ…ほんっとに君のコト、ひっ…大好き、なんだね…!良かったね…ふふ、静雄…!!」 「嬉しくねえ!」 「わあごめんなさいごめんなさい!!」 爆笑する新羅の髪をわし掴む。別に毟る気はないがこれ以上口を開けば新羅が禿になるかもしれない。 指の先にあったのは、 「……………!!」 隣のA組のバスの窓側の席から(多分)ヒステリックに叫びながら窓をドンドンと叩いている臨也の姿だった。 「なにやってんだアイツ…何言ってるかわからねえけど」 「“シズちゃーん、うわあああんシズちゃーん”だと思う」 「声真似すんなきめぇ」 「すみません」 涙目の臨也に決して同情することは無く、俺は視線を逸らしバスの前にある時計を見た。そろそろ出発する時間だ。このままバスで空港まで行く。 エンジン音が響き、いよいよバスが動き出す。ふと空を見上げれば、日が昇り始めていた。朝焼けって久々に見たな。そう思って、二度寝をするべく俺は再び目を閉じた。バスガイドが高い声で挨拶をし、テンションの上がったクラスメイトが騒ぎ立てる。 「………」 「………」 「………静かだね、静雄」 当たり前だ。俺は元は名前の通り静かなんだよ。いつも奴が付きまとっているだけで。そう思ったが口にはせず寝たふりを決め込むことにした。 「…臨也がいないから、寂しい?」 「は?」 俺は新羅の髪を毟る事を決意した。 「ドタチン、俺このバスがシズちゃんとこの隣の車線にきたら、窓開けて飛び移るから」 「向こうも窓開いてないと無理だろ。それ以前に色々と無理だろ」 A組専用バスでそんな会話をしてることも知らずに。 |