連載 | ナノ






「シズちゃん、おはよ、起きて」


俺の恋人は、大人しくて素直で可愛い。


「ん、もうこんな時間かよ…って8時…!?」

「ようやく起きた!ほら、遅刻しちゃうって」

パタパタとスリッパの音を忙しなく響かせ、おろしたバーテン服を持ってきてくれる。
未だぼんやりする思考の中、昨日無理をさせてしまったのに良くあんな動けるな、と考えていた。

「朝ご飯は?」

「もう作っちまった?なら食うよ」

「遅くなると思っておにぎりだけ作ったから移動中に食べて」

「あ、ああ…さんきゅっ」

慌てて着替えた俺に朝ご飯と昼ご飯をいれた鞄を手渡される。そのまま洗面所に向かい5分程で一通りの支度を済ませ、玄関まで早歩きで進む。

「ふふ、まだ寝癖ついてるよ?後ろの方」

「っ…会社で直す!いってきます!」

「……いってらっしゃい」

「あ………ほら、」

「ん…」

俺を見送る寂しげな視線に、慌てている事そっちの気で、頭を撫でてキスをしてあげる。そうすると僅かに笑顔になり、俺はほっと胸を撫で下ろした。まるで永遠の別れかのような表情をされてしまうと、こちらも外へと踏み込むのを躊躇してしまう。
ごめんな、なるべく早く帰ってくるな。今日の帰宅は19時過ぎになるだろうけど、ダッシュで帰ってくるから。

「……シズちゃん」

俺の恋人、臨也は、俺がいないとすぐ寂しがるからな。






こいつと恋人という関係になってから、早2年。
昔に比べ、臨也は俺にやたらくっついてくるようになった。新婚も2年経てば冷めるだかなんだか言うけれど、こいつはそうはいかなかったようだ。それはもう言葉の通りにべったりと。今は一緒に生活をしているが、まだお互いの家に行き来してた時代は、デート後に、帰りたくないまだシズちゃんといたいと泣きついてきた時もあった。普通好きな人にそう言われれば、たまらなく愛おしくも感じるだろう。だけど、俺はその時何故だか可哀想だと思った。傍にいてやらないと、本当に臨也がどうにかなってしまいそうだと思った。

臨也は、俺がいないと生きていけないと言う。
比喩なんかじゃない。物理的にも精神的にも俺が近くにいないと生きていけないらしい。シズちゃんが俺と別れたなら俺は自殺すると宣言された程だ。ある種の俺への脅迫のようにもとれるが、臨也は恐らく無自覚で言っているんだろう。俺と離れると臨也は生活の頼りを失うから、ならばいっそ死んだ方がマシということのようだ。
まあ、勿論これっぽっちも別れる気などもない。正直言うと臨也が可愛くて仕方ない。ベタベタくっついてくることに安心してしまっていたりもする。そんな臨也を病的だと言う人もいるかもしれない。でも、俺はこれくらい愛された方が嬉しいし、何より安心する。

裏を返せば、臨也は絶対何があっても俺から離れることはない。