連載 | ナノ






「修学旅行かぁ」

「修学旅行だねぇ」


昼休みの屋上、俺と新羅は沖縄の旅行雑誌を見ていた。別に2人で旅行に行くとかそんな気持ち悪い理由ではなく、間近に控えている修学旅行の下調べをしているだけだ。
雑誌には池袋じゃ見られない植物や青い海が写真に収められ、如何にも南国って感じだった。なんだか見てるこっちが暑くなってきそうだ。
俺らが行くのは残念ながら12月なので、沖縄はそれほど暑くはないんだろうけど。

「楽しみだねぇ、新羅」

「それは俺が中学の時の修学旅行を覚えていて言う台詞なのかな?」

「ははは、まああの時はあの時、今回は今回。修学旅行は様々な人間模様が学校以上に間近で見れるし…なにより…」

俺は拳を握りしめ、高らかに叫んだ。

「シズちゃんと!寝泊まりが出来…げふぁ!!!」

屋上の扉が俺の頬を掠めて飛んできた。抉られる勢いだった。超痛い。
頬を押さえ見上げると、そこにはシズちゃんこと来神最強と謳われる平和島静雄がそこにいた。太陽の光のように明るい金髪が、青空に映えている。

「あ、静雄」

「おう新羅…とこんなところにノミ虫が…気付かなかったぜ」

「いや気付なかったら俺に扉投げてこないでしょ…」

今から昼ご飯を食べるのであろうシズちゃんはスーパーの袋をぶら下げて、俺たちの後ろのフェンスに寄りかかる。俺はそんなシズちゃんの隣に座り込むと、腰を浮かせ数センチ距離をとられた。負けじとその分近寄る。微妙な表情をされたが、もう動こうとはしなかった。特に何も詮索してこないらしい。

「あと少しで修学旅行だけど、静雄は行くの?」

新羅がシズちゃんの方をくるりと向いて、向かい合わせになる。そしてちらりと俺の方を見た。

「あ、まずそういう問題なの」

「…一応行くけど…なにか悪い事でもあんのか」

「いや無い無い無いむしろ歓迎、的な?」

「は?」

「まあ…臨也の言う通りだよ」

新羅は俺のこの儚い恋を応援してくれているらしい。ウインクすんなキモイ死ね。そんな邪念を込めて俺も爽やかな笑顔を新羅に送ると悲しみを表現したような複雑な表情をされた。ムカつく。
そんなやり取りに気付いてないシズちゃんは焼きそばパンにかじりつきながら新羅の手にある沖縄の旅行雑誌をまじまじと見ている。俺は新羅から旅行雑誌を分捕り、シズちゃんの肩に身を寄せて彼に見えるように旅行雑誌を開いた。なんか俺たち、新婚旅行の相談してるみたい☆なんてヤダ俺ったら何考えてるんだろう!…うんごめんちょっと調子に乗った。

「うっわ臨也キモ。その表情写真に収めて配布したいくらい気持ち悪い」

「うるさい黙れ新羅」

「…修学旅行ってのはよ、」

俺らの言葉を遮ったシズちゃんは、やきそばパンの残りを全部口に含み、咀嚼をしながら雑誌から視線を反らさずに口を開いた。

「…クラス別、行動だよな」

その痛烈な一言に、俺の中で雷が落ちた。

そうだ、俺には彼らがいつも一緒だという事に安心しきってしまっていた。しかしここで重大な事実に気付かされる。

俺は、2人と違うクラスだという事に…。