12 「おはよーうドタチーン!」 「あ、臨也……に静、雄」 「……」 海岸沿い。 今日で修学旅行は終了だ。 午前中は海岸で自由時間があって、午後に飛行機とバスを使って帰るらしい。なんやかんやであっという間だったな。大半が目の前で他人に抱き付いてる奴に振り回されっぱなしだったが。 「ドタチンは抱き心地いいなあ…」 「ちょ、おい離れろっ!」 「………臨也、」 「はぅ?」 無駄にイラついてきたので、奴の襟を掴んで門田から引き剥がす。なんだはぅって可愛くねーんだよそれ。 「じゃあ代わりにシズちゃんにくっ付くもーん」 「………ん」 「…はぁ、お前らって本当に…」 「みんなーおはよー。って君たち朝からラブラブって何かあったの?昨夜の内に何があったの?」 新羅が挨拶をしにきた時に、俺の足元に波が押し寄せてきた。新羅がうおっと言いながら避けるが、俺と臨也と門田は裸足なので平気だ。少し冷たい気はするが。 臨也は俺から離れ、新羅の後ろに回り込む。 「いやあ昨日は熱帯夜だったね、シズちゃ…」 「違ぇよ!朝から盛りやがって!!」 そのまま足を蹴り上げ、奴に海水を振りまく。臨也の前にいた新羅も巻き添えだがこの際気にはしない。 「ぎゃあ!!」 「うぎゃ!臨也僕を盾にしたね!?」 「やったな…!」 「!」 臨也は新羅から離れ、膝まで制服を折り上げる。そして海に入って行き、そして掬った海水を俺に向かって思い切り掛けられる。量が尋常じゃない。一発で制服がびしょ濡れだ。何しやがるんだ。 俺も負けじと力に任せ海水を掛け返す。はははざまーみろ。 「ひぁっ冷たっ!って制服びちゃびちゃじゃん!どうするのっ」 「そのまま風邪ひいて寝込め」 「ぎゃっ追い討ちはっ、やっやめ、しょっぱいてば!」 「そのまま塩分とりすぎて死ね」 「シズちゃんのバカァアアッ」 「…2人とも大丈夫?」 「大丈夫に見えるか」 「シズちゃんのせいだっつの」 「お前が勢い良く掛けてくるのが悪い」 多分、30分ぐらいだろうか。俺達は何故か無我夢中に海水の掛け合いをしていた。微笑ましいなんてあったもんじゃない。上から下まで潮の香りを漂わせる俺と臨也に新羅は少しニヤニヤしていた。門田は呆れた様子で俺と臨也を見る。 「お前らどうするんだ?もう10分もしない内に出発だぞ」 「仕方ないからこのまま行くしかないよねー。さっきから先生がこっち超睨んでるんだけど」 「そりゃあ先生だってこんなビショビショの2人を連れてバスに乗るなんて言語道断だろうね」 「じゃあ俺ら残っちゃう?あと1泊しちゃう?」 「ふざけんな。手前が言うと洒落になんねーから」 「本気だもーん」 そう言って腕に絡んでくる臨也を振り払う。既に空港行きのバスが到着したらしく、海岸で遊んでいた生徒が徐々に移動を始めていた。 「俺は帰るからな。残るなら手前一人で残れ」 「えー…じゃあ俺も帰る」 「先生泣かせだよね…本当に」 「ただ迷惑かけてるだけじゃねーのか」 こうして、俺の沖縄修学旅行は幕を閉じたのだった。 「シズちゃんったらさあ、こんな俺を目の前にして何もしてこなかったんだよ!」 「ふーん、まあ普通は何もしないと思うけど。ていうか臨也から手出すわけじゃないの」 「シズちゃんからしてくれるのを待つ」 「はは…健気というか、馬鹿というか…」 「………」 バスも飛行機も隣の席には臨也がいた。勿論クラス別行動なのだが、教師も生徒も総無視をすることにしたらしい。注意もされなかった。我が物顔で俺と新羅の間の席を陣取り、疲れ知らずとでも言うようにペラペラと喋り続ける。 「馬鹿なのは俺じゃなくてシズちゃんのほうだよ」 「それ静雄が起きてたら殺されるよ」 臨也がごちゃごちゃ言っているが、段々と眠気が勝ってきてそいつらにいちいち気にする事も無くなった。どうしてバスとか飛行機ってこんな眠くなるんだろうな…。授業中とかもそうだけど。 「あれ、寝てるの?」 瞼を下ろすと、俺の方に向かって臨也の声がした。反応するのも面倒臭くなって、黙って寝た振りをしていると、臨也は手を重ねて、俺に寄りかかってきた。潮の香りが仄かにする。眠かったせいで振り払う気力もなく、そのまま奴の好きにさせてやった。 「うわ、手繋いで寝てる…。さっきまで喧嘩してたのに…。つかず離れず、不即不離ってこのことを言うのかな」 新羅の声が聞こえたときには、俺の意識は夢へと繋がっていた。左手と首元の温かさが心地よくて、ずっとこのままでいたいと思った。不思議だよな。臨也が隣にいるのに、こんな関係も悪くないと思う自分がいて。可笑しい、のかな。 「おやすみ、2人とも」 カシャリとシャッターを切る音がした。 青春アイテナラリー 数ある旅行記のなかの、青春という1ページ? To be continued...? |