あまくてにがい処方薬 ※20万打企画 調子に乗ってジャージじゃなくてハーフパンツで体育を受けていたせいか、 熱を出した。 昨日の夜から喉痛かったんだよな。せめて薬飲んでおけば良かった。起き上がる気力もない。ぶっちゃけ熱で何もやる気がない。 でもみんなに休みだって連絡しないと…はあ…だる…。あ、その前に一応体温計ろうかな。 「げええ7度5分とか俺もう直ぐ死ぬんじゃないかなこれ」 「そう言えるならイザ兄もまだまだ元気だよね!!」 「…強…(頑丈なの)」 「!?」 小さな画面に表示されたデジタル数字を見ていると、突然背後から声をかけられ肩が震えた。 具合が悪かったせいか分からないが、妹たちが部屋に入ってきていたことに気付かなかったようだ。 「なんでっお前ら…えっ!?」 にこにこと笑顔で駆けてくるマイルと無表情ながらもじりじりと寄ってくるクルリ。身長的に腰に抱きついてきた2人を見て溜め息を漏らす。 「だってイザ兄が具合わるいんでしょ?」 「…私…助(それなら私たちも手伝う)」 いやあなんていうかさ、これってまだまだ幼い妹たちの兄ちゃんへと思いやりに感動するところなんだろうけどさ…。 こんなに目を輝かせる妹たちを目の前に、俺は不安で不安で仕方ないよ。 「送信完了っと」 俺の予感は的中した。まず飯を無理やり食わせられた。 元より食が細く、ましてや具合の悪い時なんか食欲なんて皆無に等しいというのに、妹たちがごっこ遊び気取って作ったおかゆ(インスタント)を無理やり食べさせられて、薬を飲んだ。胃の中がたぷたぷしている。揺れたら吐いてしまいそうなくらいだ。 しかし10時にもなってクルリもマイルも学校に行ってないってことは、学校休んでるってことだよな。これ連絡した方が良いよね?俺が?うわあ面倒。 「2人とも、連絡網の紙とってきて。それに小学校の電話番号書いてあったよね」 「……?」 「どうして電話するの?」 「はあ?だってお前ら学校休んでるじゃん」 「……違…(違うよ)」 「あっれー?学級閉鎖だって言ってなかったっけ!私たちのクラスインフルエンザが流行っててね!」 まじでか。 兄ちゃん初聞きだわー。 「あ………インフルエンザ…」 「?」 「どうしたの?」 もしかしたら俺もインフルエンザかもしれないな。予防接種はしたんだけどね。 一応、この子たちにうつる前に病院行って確かめた方が良いかな。 『何か買いに来てほしいのある?』 結局、インフルエンザではなく、ただの風邪だった。普通に風邪薬の錠剤を貰い、帰宅しようと熱で重い足どりの中携帯を開くと、シズちゃんからメールが入っていることに初めて気が付いた。そういえば朝に風邪を引いたから学校休むみたいな内容のメールを送ったんだった。 買ってきてくれるって…もしかしてお見舞いフラグ?シズちゃんが俺を看病してくれるっていうの? 嬉しいな。シズちゃんに迷惑をかけてしまいそうだが。あっいつも迷惑かけてるじゃんという突っ込みは勿論無しで。 「ポカリがいいなあ…」 世話をやきたそうにしているシズちゃんが頭の中に浮び、甘えたくなった。 その気になればポカリなんて買いにいける距離なんだけどね。 シズちゃんを想っただけで不思議と体が軽くなったような気がした。その勢いでさっさと家へ戻り俺の部屋まで行きベッドに飛び込む。留守番をしていたクルリとマイルも心配そうに部屋にやってきて、何故か俺のベッドに潜ってきて川の字状態なうである。 その時丁度玄関付近から聞き慣れた声が響く。 「いざやー!生命力はゴキブリ並の君だけど一応聞くよ、死んでない?万が一に備えて勝手に入るよ!」 「新羅、あまりデカい声出さない方が…つか不法侵入するなよ」 「おい臨也!無事か」 「ほら静雄も」 「いや、大丈夫だよ。起きてる。いいよ勝手に入って」 シズちゃんだけかと思い少し心臓が跳ねたのも一瞬、新羅もドタチンもお見舞いにきてくれたようだ。あっと言う間に家の中が賑やかになり、退屈そうだったクルリとマイルも嬉しそうだ。いい加減布団から出てって欲しいんだけどな。 体を起こして扉前にいる3人を見つめる。自分とクルリとマイルで寝ているこの状況はちょっとだけ気恥ずかしい。 「何見てんだよ。入れよ。つかお前らも早く出ろ」 「えー何恥ずかしがってんのイザ兄ー」 「恥ずかしがってないから」 「はは、何を照れてるんだか」 「しね新羅。眼鏡割るぞ」 「それくらい言えるなら全然大丈夫だね」 「ふんっ来なければ良かったのに」 「あのな臨也。新羅も…まあ俺もそれなりに心配してたんだ。」 「う…」 「いや門田、僕はそんな心配してないから」 「お前ら最近ツンツンしすぎだろ」 新羅とドタチンが話している間、シズちゃんは眉を下げて黙って俺を見ていたが、俺が悪態つくほど元気だと知るといつものようにしかめっ面に戻ってしまった。ああこれなら嘘でも重症のふりしておけば良かったかなあ。いやまあそんなことしませんけど。 本当は来てくれただけで、嬉しいからね。 「おらよ、買ってきたぞ」 「おおーポカリだ!」 「手前のリクエストだろうが」 「静雄ったらさあ放課になった途端ダッシュでコンビニまで走ってったから最初何事かと思ったんだよね」 「ばっ何で言うんだよ!!」 頬を赤くして新羅をど突く(突き飛ばす)シズちゃんに俺とドタチンは笑った。 なんだかいいねこういうの。熱出ている筈なのにさっきまで感じていたダルさが吹き飛んだかのようだ。喉はイガイガするけど、気が紛れているのか先ほどよりぜんぜん楽だ。 起こしていた半身をずるずると布団に戻し、ドタチンの服の裾を緩く引っ張る。 「?」 「ドタチン!ポカリ飲ませて!」 「お前元気だから自分で飲めるだろ…」 ため息を吐かれ呆れられてしまった…!しかしイザヤめげない…!シズちゃんを横目で見ると、ちょっとだけ不機嫌そうな顔をしていた。 「………門田ぁそいつの顔面にポカリぶっかけてやってくれ」 「やだあシズちゃんエロいー」 「手前が変な風に変換するのが悪い」 「静雄、臨也は静雄の気を引こうとしてるんだよ」 新羅、内緒話のつもりなんだろうけどがっつり聞こえてます。 「嫉妬か静雄」 「はっ!?門田まで何言いやが、る、んだよ!!」 頬を赤く染めたシズちゃんが俺から顔を逸らすから、かわいくって笑ってしまった。 「だいたい最初に手前が!」 「しー…静かに」 「?」 「いつの間にか寝ちゃったみたい」 「へ?」 どうりで大人しすぎると思ったら。 溜め息をついて布団を巻くると、俺の両隣ですやすやと小さな寝息を立てる妹2人。 「全く、どっちが病人なんだか」 気持ち良さそうな寝顔に笑みが零れた。 あまくてにがい処方薬 じゃあまた明日な、と帰り際に優しい笑顔を浮かべて頭を撫でてくれたシズちゃんに、もうちょっと一緒にいたいなんてワガママは言えなかったんだ。 (本当はもう少し、あいつの傍にいたかったけど、今は我慢) -------- ゆうさまより 「風邪をひいてダウンしてしまった臨也をシズちゃんが看病する」話でした! シズちゃん看病…おやっ← リクエストに添えてない感が…。 しかもかなりのタイトル詐欺ですね。もうしわけないです。 風邪ネタは一度でいいから書いて見たかったので満足です! リクエストありがとうございました! |