bun | ナノ




いつの間にか君依存症


※20万打企画







いつの間にか好きになっていて、
いつの間にかかけがえの無い存在になっていて、

いつの間にか、こんなに、














昨日の冬のような寒さが嘘のように、今日は全力で春の陽気だった。
3時限目の休み時間、そんな春の陽気に微睡みながら机に顔を伏せて横を向き、ずっと空を見ていた。真っ青というよりも、僅かに薄い雲ひとつとない空から、風に乗って花びらが一枚俺の目の前に降ってくる。この時期は、なんの花が咲いているんだろうか。

「静雄、梅の花乗っかってるよ」

「あーさんきゅー…!っておまっ…いつから!!」

「いつからって…3時限終わって直ぐ?」

「なんで話かけてこないんだよ……俺ずっと外見ててバカみたいじゃねーか」

「……いや実際バ」

「それ以上言ったら殺す」

俺の髪から笑いながら花びらを取る新羅に、実際言う程殺意は湧いていない。それもその筈、俺はここ最近何かに対し怒りを募らせたことはないのだ。

どうやらいつの間にか、


「静雄元気ないね」

「あ?眠いだけだっつの」

「臨也がいないからかな?」

「…………」

「図星みたいだね。昔は孤立無援だった君が、」

「黙れっつの」

「いいよ?」

「………」

「………」

「ニヤニヤすんな!」

「じゃあどういう表情をすれば良いのさ。真面目な顔で黙って君を見つめれば良いのかい?」

「ああもう面倒くせーよお前。臨也がいないからって俺を標的にするな」

「だって暇なんだもーん」


俺の机に肘を付き、両頬を支える新羅。頬を膨らませてもお前じゃぜんっぜんかわいくねーんだよ。

「やめてやめて頬ひっぱらないで!僕だって寂しいんだよ。静雄も、臨也がいないと寂しいでしょ?」

「!」

「全く、どこほっつき歩いてんだか…」

俺は、臨也がいなくて寂しいって思ってるのか。

言われてみれば…まあ、確かに。つまらないし、なんか物足りない気がするし。こう…早く触れたいっつーか、会いたいっていうか。

「……気持ち悪い」

「えっ急にどうしたの?風邪?静雄風邪引いたの?」

「ちげーよばーか」

「………僕じゃなくて君がバ」

「だから殺すっつったろ」

そうは言うけど何もする気にはなれず、腕を枕にし顔を横向に伏せ再び空を見上げた。雲が、空を覆い始めてきた。
なんでこんなに変なことばっかり考えてるんだろ俺。臨也の性格だとうとう俺にも伝染したのか。会いたいとか、ましてや触れたいとか…

「………なあ新羅」

「なーに」

「もしかしたら本当に病気かもしれねーな」

「!ならばうちで検査しよう!」

勿論快く断っておいた。
検査して、原因が分かるものじゃない気がするんだ。

「…あー…ダメだ」

「えっ本当に大丈夫?保健室行く?」

「いいよ一人で平気」

「………わかった」

新羅の善意を振り払うようで申し訳ないが、俺は屋上へ駆けた。
丁度4時限目開始のチャイムが鳴る頃だった。





誰もいない屋上に寝っ転がり、本日三度目の空を見た。雲行きが、少し怪しくなってきた。でも気温は暖かくて、やはり春らしかった。
屋上の下の音楽室からだろうか、卒業式に歌う仰げば尊しの伴奏がこちら側まで響いてきた。
あと少しで卒業式か。早いな、あっという間だったなこの3年間。臨也に、振り回されたり振り回したりしかしてないけど。
鼻がつんとした気がした。
なんか、辛い。
どこが辛いのか分からないけど、辛い。
意味が分からない。なんなんだろうなこれ。


「なんで…」


いつの間に、












「………あ…」

ぽたりと頬に水が落ちてきたので、目を覚ます。そこで初めて寝ていたことに気付き、少し驚く。そして隙も与えずにぽたぽたぽたと次から次へと水が上から落ちてきて、そこでようやく雨が降ってきていたことを理解した。

「…………戻らなきゃ」

そうは言うも、体が動いてくれない。なんだか、もうなにもかもが面倒だ。このままびしょ濡れになって新羅たちに笑われるのも良いかもしれない。
臨也は、心配してくれるだろうか。シズちゃんどうしたのっ何があったのって、本気になって困ってくれそうだ。タオルやハンカチを貸してくれるかもしれない。
そんな姿も多分きっと可愛らしくて。

「…なんで…俺、こんなことばっかり…気持ち悪い…本当、」

妄想に期待を膨らませて、わざと雨に打たれるとか馬鹿みてぇ。
そんな事を考えながら、鼻のあたりがまたツンとした。ついでにいよいよ目頭が熱くなってきた。風邪、引いたのかな。







「シズちゃん?どうしたの?」





「……え」

突然、雨雲と雨しか写さなかった視界に、ビニールの傘と臨也が写る。

「風邪…引いちゃうよ……戻ろ?」

「……臨也、」

「ひょっ」

腕を引っ張り、臨也を引き寄せ抱きしめた。俺は仰向けの姿勢のままだから、臨也は俺に俯せていることになる。
俺が頭おかしくなって幻覚を見ているわけではない。まごうことなき本物の臨也だった。
少しして臨也が起き上がり、赤色の瞳とかちりと目が合う。

「……シズちゃん、あのねー俺来良大学受かったんだ」

「なんだそれ色々と初聞きなんだけど」

「今日その合否発表だからね。見に行ったり手続きしてたら遅くなっちゃったの」

ごめんね。
眉を下げて臨也は笑った。

「えっと、とりあえずおめでとう…」

「お祝いのちゅーは?」

「あー…後でな」

「えー」

ぼたぼたと、雨の勢いは増していく。本気で熱を出してしまう前に、臨也を抱えたまま起き上がり、肩を支えてそのまま唇にキスを落とす。傘の柄を両手で掴んで頬を真っ赤にして笑った臨也が可愛くて可愛くて、仕方がなかった。

「シズちゃんいつの間に俺のことこんなに大好きになっちゃったの?」

「うっせーよ」

「新羅から聞いたよー?俺がいなくて寂しくて泣きそうだったんでしょ?」

「ち、が、う!」

「うぎゃっ」

思わずデコピンをかまし、臨也が怯んでいる内に屋上を抜け出した。今度こそ新羅のバカをしばきまわす。

「まっ待ってシズちゃんっ濡れてるから!濡れた姿もえろくてなかなか良いけど風邪引いちゃうから!」

「………」

「シズちゃああああん!!」





いつの間にか、

いつの間にか、

俺はこんなに臨也のことを愛していたんだ。












お前がいないと、俺は、





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蜜柑さまへ
「青春アイテナラリーの二人で切甘」でした!

シズデレ回が頻繁ですね…いつも臨也だけが切ない思いをしているので、シズちゃんにもさせてみたらかなりデレてしまいましたおうふ…。シズイザっていうよりは、イザシズ寄りな…ま、まあこの二人に受けも攻めもないんですがっ←

リクエストありがとうございました!楽しかったです!