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鳴らせ睦月の錫音


『臨也、ずっとずっと一緒にいろ、大好き、だから』

「………あ…っ」

幸せな初夢を見たんだ。あれ初夢って2日目からの夢を言うんだっけ?まあ初夢でも初夢じゃなくても夢なのは変わりはない。
俺は愛しい人に会いたくなって携帯を取った。








あけましておめでとう!折原臨也です。
みんなはもう起きたかな?
俺は起床後直ぐにシズちゃんを最寄りの神社へ初詣に誘ったよ!勿論俺がシズちゃん家に迎えに行ってね。無理やり連れてきたようなもんなんだけど、まあそこは置いといて。
彼もなんかいつに無くノリノリみたいで、俺の手をちゃっかり握っているのだ。今日はやたらデレなんだよね。12時ピッタリに送った愛情満載のあけおメールが効いたのだろうか、それとも下ネタと純情が混じった年賀状を送ったのが効いたのだろうか。そんなのはこの際どちらでも良い。頬が真っ赤に染まっててなんとも可愛らしいシズちゃんを見ると新年早々嬉しくなる。あの夢のようにふわふわとした幸せに包まれるみたいだ。
まあ顔が赤いのはシズちゃんだけじゃないんだろうけど。

「うはー…混んでるー人多いー」

「…離れるんじゃねーぞ。手前すぐどっか行くからな」

「行かないよー!俺をなんだと思ってんの!」

手を繋いでいるというのにこの台詞!ああもう本当に嬉しいなあ!このシズちゃんにテイクアウトされたい。ベッドの上でぐずぐずに甘やかしてどろどろに甘やかされたい。なんという幸せ…おっと涎が。新年から何を妄想してるんだ俺は。

それもこれも、シズちゃんがデレすぎなのがいけない。そういうことにしておこう。
シズデレが見られれば、多少の人混みくらい余裕で耐えられるし。むしろ人混みGJと言いたいくらいだ。狭い、キツい、密着はあはあ。

「鼻息荒い、抑えろ」

「おっと失礼…………げ」

シズちゃんから少し体を逸らしたせいで、見たくないものを見つけてしまった。目合った?そんなこと無いよな?

「あのさ、シズちゃん、最初にお神籤引こ…」

「あ!臨也に静雄じゃないか!」

バレた。しかもこっち走ってくる!やめて!シズちゃんと二人きりでいさせて!この幸せをまだ噛み締めていたいの!
そんな俺の心の叫びは虚しく、新羅は平然とした表情でこちらに来た。

「新羅も来てたのか」

「まあ連れと一緒にねー。今ちょっと待たせてるけど」

「待たせてるならこっち来なければ良かったのに…」

「ん?臨也のその表情が見たいからに決まってるじゃない」

「サドだ!?こいつサディストだ!」

「嘘だよ嘘。たまたま見たから会いにきただけ」

ははは笑うと新羅の楽天ぶりを見せつけられてもちっとも嬉しくない。せっかく袴姿なんだからもうちょっと厳かに行こうとか思わないのかな。
若干イライラしてきた時、新羅はそうだと言って屋台の方を見やる。

「そういえば門田も見たよ」

「えっドタチンも来てるの?」

「ていうより、売店でバイトしてた」

「!?」

屋台でバイトするドタチンとか似合いすぎるだろう。なんという男前。なんだろう、たこ焼き?やきそば?お好み焼きかな?

「ねえっ行ってみようよ!」

「はあ…っ!?待てっつの!」

「うぉ!?」

俺が屋台の方へ向かおうとすれば、シズちゃんに繋いでた手をそのまま引っ張られる。肩が外れそうになる勢いだった。ちょっと危ない。

「新羅は良いけど、門田んとこは、ダメだ」

「っ!」

ふああああ今日のシズデレまじやばいいい!と、思わず叫ぶところだった…。
シズちゃんて、ストイックな感じがしたけど独占欲強かったりするのだろうか。それはそれでかなり嬉しい。

「やきもち?」

「ちっが…!手前が行くと門田に迷惑かけるだろっつー話だよ!」

「それって僕には迷惑をかけても良いって意味になるよね?酷くね!?」

「新羅はほら、自分から来たから…その」

「はは、やっぱり静雄やきもち?」

「シズちゃんやきもちもち?」

「だああっうっぜえ!わかったよ!行けば良いんだろ!?」

シズちゃんがあまりにも可愛すぎるから、ちょっとからかってみちゃったよ。ごめんね。

「あっ…じゃあ僕はそろそろ戻るね、バイバイ」

「さっさと帰れ」

「そんなイライラしないでよ!悪かったからさ」

新羅はそう言って人混みの中へ消えていった。


「ドッタッチーン!」

「おっ臨也に静雄、来てたのか」

むきになったシズちゃんは屋台の並ぶ方へどんどん進んで行ってしまうので、仕方ないからドタチンを探しにまわる。
すると直ぐに俺はドタチンが綿飴を売ってるのを見つけ飛んできたのだ。

「ドタチンこそなんでここにいるの?バイト?元旦から大変だね」

「知り合いの手伝いだよ。今は店番頼まれてて」

「ふーん」

そういえばここの屋台は俺たちが夏祭りに来た時と同じ場所だ。暗くて忘れていたが、確かに神社も隣にあった。
綿飴も、思いだせばシズちゃんが泣いてる俺をあやすために買ってくれて、そこで俺たちは…。
ちらりとシズちゃんを見れば、不満げにむすーっとした表情だった。ドタチンも気付いているのか苦笑いを浮かべてる。

「ドタチン、綿飴1個ちょーだい。何円?」

「300円」

「うげーぼったくりー…まあいいけどさあー」

「はは、なんかデジャヴを感じるな?…はい、」

「?…ありがと、じゃあまたね」

「ああ、またな。静雄もまたな」

「…………おう」

そうして俺たちは片手に綿飴を持って屋台を後にした。


「ね、シズちゃん、お詣りしよう」

さて、そろそろシズちゃんのご機嫌をとらなければ。
不機嫌にさせちゃってごめんね。俺がいけないんだよね。むくれてるシズちゃんも可愛いけどね。

参拝のための人が列を成していて、俺たちはその最後尾に並んだ。結構並んではいるが10分もかかりはしないだろう。
俺はシズちゃんの口元に綿飴を持っていく。

「……?」

「シズちゃんに、あげる」

「はあ…でもこれ手前が買ったやつだろ」

「シズちゃんにあげるために買ったの!」

「………」

綿飴を差してある割り箸にシズちゃんの指がおずおずと触れ、受けとってくれた。僅かに掠ったシズちゃんの手はもう冷たくなっていた。そういえばいつの間に手を離されていたんだろう…気付かなかったとはいえちょっとショックだ。
離れるなって言ったのは、シズちゃんの方からじゃないか。

「シズちゃん…寒い」

そう言って無理やり手を繋いでやった。シズちゃんはそれを振り解くことはなく、はっと気付いたようにこちらを見て、また頬を赤く染める。

「わ…悪かった…な」

「ううん」

もそもそと綿飴を口に含むシズちゃんを見て、少し安心した。なんかシズちゃんの髪と綿飴ってふわふわしてるところが似てるな。食べたいな。…嘘だよ引かないで。

「シズちゃんは何を祈る?」

「願い事は人に言ったら効果は無くなるんだぞ」

「えーそんな事はないよー案ずるより生むが安しだよー?」

「……意味わかんねーよ、つうか、臨也には絶対言わない」

「じゃあっじゃあ、俺が言うから、シズちゃんは俺の次に言ってよ!」

「だーかーらー言わないって言ってるだろ!?つか手前が俺に言ったら効果無くなるけど良いんだな!?」

「いいよいいよ、俺神様信じてないし」

「なんで初詣来たし!?」

なんでってシズちゃんと一緒にお正月デートしたかっただけ。それが出来れば、俺はもうこれ以上の願い事は無いよ。望みなんてない。
だけどね、もしも神様がいると仮定するならば、

どうか、お願い。

「      」

耳元でそう囁くと、シズちゃんは瞬時に顔を真っ赤にして口を開閉させた。なにその少女漫画みたいな驚き方。

「…………手前、俺の願い事分かった上でそれ言ったのか?」

「?…わかんないけど、どうして?」

「……いや、別に」

そうこうしてる内に、いつの間にか順番が回ってきた。お賽銭をお賽銭箱に入れて二礼二拍一礼、一通りの動作を終えて横目でシズちゃんを見ると、必死に何かを祈っていた。

ああ神様、

大好きなシズちゃんの願い事が、どうか叶いますように。





鳴らせ睦月の錫音


ずっとずっと臨也と一緒にいられますよーに!!






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年賀企画に送ったメールの続きだったりします。
その時に臨也の送った年賀状には……あんなことが書いてあったのでシズちゃんはそれを願った。要はお互いがお互いの願い事を叶えようとしたというオチ。