金色キャロルの贈り物 恋人らしいことがしたかった?それもあるかもしれない。 ただ俺は、シズちゃんの傍にいたかっただけ。 男がクリスマスパーティーで騒ぐなんて恥ずかしいし、シズちゃんはそういうの興味なさそうだったけど、俺はどうしてもシズちゃんとクリスマスを一緒に過ごしたかった。過ごしてみたかった。 妹たちに無理を言って今年はシズちゃんを折原家クリスマスパーティーに呼んで、楽しめればなと思った。 妹たちはその変わりに大きな大きなぬいぐるみが欲しいと言ってたから、わざわざ時間を割いて慣れない裁縫を駆使して作った。店に売ってるのを2つ買うのはどうしても恥ずかしかったのだ。悪いか。 こういう時に限ってチキンな勇気を振り絞ってシズちゃんに誘いの言葉を掛けて、準備はばっちりの予定…だった。 でも24日夜、シズちゃんはなかなか来なかった。もしかしたら来てくれないのかもしれないとも思った。不安で、少し怖くて、しかも妹たちと話したりしてる内に俺にはだんだん睡魔が襲ってきて。やはり夜寝ないでひたすらぬいぐるみ作りをしていたのは結構痛手だったようだ。最近直ぐに眠くなるのも、その所為でもある。 ああヤバい、意識が遠くなる、寝ちゃダメだと思っても逆らうことは出来ず、俺はゆっくりと瞼を下ろしてしまったのだ。 ふわふわとした心地よい感覚に身を預けていると、俺は夢を見た。 久しぶりに見た夢の中では、シズちゃんがパーティーに来てくれた。新羅も、ドタチンもいた。 馬鹿にされそうだけど、それだけでもう、泣きそうなくらいすごく嬉しかった。 「…………や」 「ん……」 「いざ…」 「………?」 思考がぼんやりする。名前を呼ばれているような気もする。あれ、そういえば俺は眠っていたんだっけ。 すこし瞼を開ければ光が眩しくて、きらきらした金色が見えた。それはまるで大好きな大好きなシズちゃんの髪色のようで。 あれ?可笑しいな…まだ、俺は夢の中にいるのだろうか? 「サンタさんが…シズちゃんを運んできたなんて…」 そう呟いてまだ視界がはっきりしない夢の中で目の前のシズちゃんをぎゅっと抱きしめれば、強く強く抱きしめ返された。背中に伝わる熱は夢ではないくらい温かくて、涙が零れた。 「…!いざ…臨也!!」 「……あ……?」 途端に激しく揺れたような気がして、視界がようやく鮮明になる。 シズちゃんが俺の肩を掴んで心配そうに俺を見ている。 「…ん……おはよ?」 「……っ寝ぼけてたんかよ……」 「……!」 近距離で俺の目頭に溜まってる涙を、シズちゃんは当然かのようにナチュラルに掬う。 そこでようやく俺は意識がはっきりとしてきた。 「なっなっ、シズ…っ」 「なんだよ?」 心臓がばくばくと高鳴って、静まってくれない。 「ガチでサンタさんのプレゼント…!?今年良い子にしてたから!?」 嘘、シズちゃんが本当にいる。俺の家に、いる。 「馬鹿かよ手前。お前が呼んだんだろ!?」 「だからって今、朝で…25日なわけで……」 「あ……っ…悪いけど、気付いたら俺もここで寝てたっつーか…夜には来たんだけど、臨也がもう寝てて」 「えっ!」 なんで気付かないでマジ寝してんの俺の馬鹿。めちゃくちゃ勿体無い事したんじゃん!!ああ悔しい! 「まあ起こすわけにもいかなかったから、起きるまで待ってたんだがな…気付いたら俺も寝てたってわけだ。しかもお前色々寝ぼけてたからそれで起きた」 「………うっ…ごめ……迷惑かけて…」 「別にそんな事思ってねーよ」 そう言ってふにゃりと笑ったシズちゃんが可愛くて、心臓がまた高鳴る。 あああヤバい、死にそう。シズちゃんが好きすぎて死んじゃいそう。 だって、すごく、嬉しい。 「シズちゃん…いちゃいちゃしよう」 「はぁ?……っ!」 思いっきり抱きつけば、不服そうなシズちゃんだけどしっかりと受けとめてくれた。なんて暖かいんだろう、ずっと、ずっとこのままでいたい。 顔を上げれば頬を真っ赤に染めたシズちゃんとばっちり目が合って、まるでお互いに吸い寄せられるかのように唇が…… ピンポーン 「!?」 「…………」 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン う る せ えええええ!! チャイム連打するな!せっかく貴重ないちゃいちゃタイムを台無しにしやがってマジ空気読めよ! 「でっ…出てやれよ…」 「あああっなんなのもう!」 一気にイライラメーターがマックスをきる。これで新聞勧誘だったら蹴り飛ばしてマウントポジションからの顔面殴打だ。覚悟しやがれ。 そう思ってわざと強く扉をあけると、 「メリークリスマッ」 「臨也!無事か!?」 「ちょっと門田っ言ってる途中で前に出てこないでよ!」 「……あれっドタチンに新羅!!」 扉の向こうにいたのは、ドタチンとサンタの格好をした新羅だった。 なんでこんな朝早くから…。 「あ!手前らまた来て…っ」 様子を見にきたらしいシズちゃんも、俺の後ろで驚いていた。 「わあ!静雄まだいたの!?えっなんで、まさか本当に…静雄グッジョブ」 「なっまだだっつの!つーか手前その話しかしねーな!」 「2人とも朝からそんな話しないでくれ…」 楽しそうな新羅に若干怒ってるシズちゃん、そして呆れてるドタチン。 これはいったい… 「…え…何の話してるの?」 シズちゃんの方に振り返って見れば、まだ頬が赤いシズちゃんにさっと目を逸らされる。本当になんだろう。 「ねーシズちゃーん」 「べっ別に手前には関係ねえよ!」 「なぁ…っドタチンー!シズちゃんが意地悪するー!」 「はあ!?」 「うおお臨也っあんまりくっつくな!」 「まあまあとりあえずさ、中入れて?」 パシン、と新羅が手を叩く。 「てめっ誰が中に…」 「ね、臨也、クリスマスパーティーしようよ!!」 色々と状況がカオスだけれど、もう何も考えないことにしよう。 「ふあああおはよーつーかうるさいよお」 「誰…(誰か来てるの?)」 「あっおはようクルリとマイル!ちょっと自分の皿取りにきて!」 「?なんでそんな慌ててるの?」 「お客さんが来てるんだよ!」 昨日の放置したケーキと新羅が新しく持ってきてくれたケーキ。2つならべてたくさんのろうそくに火をつけて。ドタチンの持ってきたシャンメリーの蓋をシズちゃんが素手であけるのを横目で見つつ、急いで台所に走る。ケーキを切るナイフはどこにあったかな。 「臨也、何か手伝うことねーか?」 「えー平気だよー?」 「きゃー!夫婦!夫婦だっ」 「…婚(新婚みたい)」 「ばっ…うっせぇ!」 「ひゃー!!」 リビングでは楽しそうな声が聞こえてくる。本当に朝から元気だな。クリスマス効果だろうか。 「マイルちゃん!クルリちゃん!メリークリスマス!ほらプレゼントだよー」 「あっ新羅さんだー!ありがとうー!」 「姿…(サンタさんの姿になってる)」 「なっバレた!?」 「ははっさすがに小さくても分かるだろ…」 「うわああん静雄ー!門田がいじめるー!」 「あーはいはい」 「えええひっどお!」 本当になんだよこのテンション。他人事のように少しだけ笑ってしまった。シズちゃんと2人きりが良かったって思ってたけど、まあこれでもいっか。 なんか幸せだなあ、なんてちょっと年寄り臭いね。 「それにシズちゃんもいるしね」 「臨也」 「おっほっふぅ!シズちゃんっ」 いつの間に台所にシズちゃんが!?手伝いはいいって言ったのに! 「…?なに変な声出してんだよ、まあいいや」 「ん?」 手首を掴まれ、シズちゃんに引き寄せられる。 え、顔が、近、 「っ」 「……よし」 「よよよよしってなっ…んで」 「さっき出来なかったからイライラしてんじゃないかって…」 2人きり、万歳。 ちょっとみなさん今俺なんでかキスされちゃったんだけど! 嬉しいんだけど!心臓止まるかと思ったわ! 前にもうしないって言ったのになんて不意打ちなんだ、ちくしょう好きだ。 「ああもう…シズちゃんったらどうして…」 「まあただ単に俺が…」 シズちゃんが何かを言いかけた途端、 「ぎゃー!僕の持ってきたケーキが!」 「おっ落ち着け!まずはティッシュを…」 リビングの方で何かやらかしたらしい。 「?…向こうが騒がしいな…」 「ふふっシズちゃん早く戻ろ!」 「えっ待っつかナイフ危な!」 これ以上一緒にいたら心臓が爆発してしまう。でも、頭の片隅では心地よくてもっと欲しくなってしまう。そんなわがままな感情を振り払い、俺はシズちゃんの手を取ってリビングへ向かった。 「あー!新羅なんでケーキ倒してんのっ!ばかー!」 「違っこれは門田が動いたからであって僕では!」 「いや違うな、新羅がクラッカーを持ってきた時に」 「どっちでも良いから早く拭けよ!」 サンタさんなんて、信じてなかったけどさ、どうやら今年は素敵なプレゼントを送ってくれたみたい。 こうして、朝っぱらから全力でクリスマスパーティーを開いて、騒ぐだけ騒いで夕方頃に新羅とドタチンは帰っていった。シズちゃんは後片付けも手伝うとまるで飼い犬のような目で俺を見てきたが、断った。今のテンションだと俺がシズちゃんに何をやらかすかわかったものじゃない。それくらいバカなテンションで騒いだのだ。 妹たちもたくさん構ってもらって今は疲れてソファーの上で寝てしまってる。昨日の俺もこんな感じに見えたのだろうか。 「さあてまずは皿洗いから……あれ?」 新羅がクルリとマイルに持ってきたプレゼントの箱の上に一つだけ小さな袋が置いてあるのを見つけた。 気になって開けてみると、この間見た二種類の色違いがあるウサギの片割れの小さな人形だった。一つしか入ってないということはマイルとクルリ宛てではない? 「じゃあ…もしかして…」 ああもう、シズちゃん大好き。 金色キャロルの贈り物 →Version Izaya Side ありがと |