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銀色ノエルを夢みて




なんだか、臨也が少しだけ可笑しいように見える。

それは俺の思い違いかもしれない。本人はいつもと同じように振る舞っているから、俺だけが意識しすぎなのかもしれない。先日まではそう思っていたけど、今日改めてやはり可笑しいと思った。まあ臨也はいつも可笑しいけど、それよりも可笑しいんだ。どうか分かってくれ。

「臨也、授業終わった」

「………ん」

夕焼けが教室を照らす放課後。俺の下校の準備が終わっても尚、隣の席で居眠りをする臨也。

「おいノミ蟲、起きねーと置いていくかんな。そこで凍え死ね」

「ぎゃっ!待って!置いてかないで!」

そこで臨也はガバッと机から額を離した。本当に眠っていたらしく目がとろんとしていた。
ほら、やっぱり今のも可笑しいだろ。臨也が阿呆みたいに机に突っ伏して爆睡など、この3年間俺は見たことがなかった。
つーか俺も俺でわざわざ臨也を起こすなんて可笑しいよな。マジで置いていけば良かった。いや嘘だけど。
そんなことしたら、その、臨也が、悲しむからな。

「えへへ…シズちゃんは俺を起こしてまで一緒に帰りたかったんだ?」

「調子にのんなよ寝坊助」

俺はこいつに悲しい思いをさせないって決めてんだから。


校舎を出ると冬の空気が押し寄せ、思わず身震いした。マフラー巻いていても寒い。そういえば臨也はマフラーさえもしていないが寒くないんだろうか。

「俺今日珍しくマフラー忘れちゃったんだよね」

「ふーん、貸さねーよ」

「なっ!バレてる!?じゃあシズちゃんの手を握るくらいは…ふへへへ」

「ばっやめろ!変態!」

「変態呼ばわり!!?」

話してる限りはいつもの臨也なんだけどな。
やはり気にしすぎなんだろうか…。
そんな俺の考えなど気付いていない臨也はコートを翻しながら俺の目前でくるんと回る。

「あっそうだ!俺ちょっとシャー芯買いたいからデパートの文具店寄っていい?」

「はあ?シャー芯ぐらいコンビニで買えよ…」

「いいからいいから」

はぐらかされている?
有無を言わさずに臨也に腕を引かれ、電飾やツリーが目を惹くデパートへと入っていく。カラフルな装飾がこれでもかと散りばめられている店内は、俺が言うのもアレだが宝石箱のようで、段々とクリスマスが近付いてきてるのが思い起こされる。

クリスマス?
あ、分かったかも。
そうかクリスマスか。


「もう直ぐクリスマスだな」

「う、うん、そうだね、あ…シャー芯買わなきゃ…文房具売ってるとこ二階だったっけ?」

ほら!なんか怪しい!最大級に怪しい!
ちょっと歩く速度を速めたのも怪しい!絶対なにかあるぞ!

そして臨也は文房具屋に着いてシャー芯を買いつつ、ちらちらと隣の雑貨屋に目を移らせていた。色違いの大きなウサギの縫いぐるみが二匹、新商品として売られていた。…なんなんだ本当。あれが欲しいのか?女々しいとは思っていたがそんなファンシーな趣味あったか?

「……おら早く買って帰るぞ」

「うん…」

会計を済ませた臨也が俺の後を追いかけてくる。覇気がない臨也にどう声をかけて良いかも分からず、俺はそのままデパートを出て、帰路につく。
日も暮れて空はもう暗かったが、辺りには電飾を施してある店や家もあって煌びやかだった。
帰り道も、普通にいつも通り臨也が一方的に話しかけてきた。だけど、もうすぐ臨也と別れるという時になって、臨也はきゅっと俺の制服の裾を掴んだ。

「ん?」

「クリスマスの…いや24日の夜にさ…」

視線を向けると、若干薄暗くても理解出来るほど頬を真っ赤に染めた臨也がいた。
元気がないというよりも、緊張しているのか、声が小さくて。

「…なんだよ?」

頭を撫でてやればさらに俯いてしまった。こんな状況で臨也のことを可愛いなと思うのは、少しだけ的外れだろうか。

臨也は間をたっぷり置いて、そしてゆっくり喋り始めた。

「その日………俺んち、来て欲しい…の」

今日は22日、明日はまだクリスマスではないと言うのに、

臨也は意味有りげな爆弾を落として帰っていったのだ。









「静雄もついに脱童貞!?やったね!おめでとう!!」

「いいか!?絶対絶対臨也を傷つけるな!!泣かすなよ!」

「だああああっなんでお前らはそうなるんだよ!!!」

「だって恋人同士がクリスマスイヴの夜中に部屋ですることなんて一つしかないでしょ。しかも相手から誘ってくるなんてそれしか考えてない。むしろ臨也はそれしか考えてない」

「悔しいが事実お前が付き合ってる以上免れられないイベントだ、楽しんでこいよ。あーあ爆発すれば良いのに」

「落ち着け特に門田!真顔で言われるとかなり怖い」

祝日を過ぎていよいよ24日。終業式を終えHR前の休み時間の時だった。
再び臨也が爆睡している時に新羅と門田に昨日の臨也の発言の事を伺ってみた。
結果とんでもねー方向に話が進んでしまったが。
なんなの、それで決まりなの?
隣で臨也が爆睡していると言うのに、全くお構いなしというように新羅は続ける。

「分かった!最近臨也が学校で眠ってる理由…」

「あ?」

「夜遅くまで静雄を受け入れるべく自分で…」

「わっわー!!馬鹿死ね新羅!」

「ぎゃあああすみませんでした静雄さんっ頭もげる!」

「………っ」

「門田が魂の抜けた状態になった!?」

もし新羅たちの言っていることが本当なら、俺は臨也に…って何馬鹿な事考えてんだよ気持ち悪いな。

でも、嫌な気は、しないかも。はあ…これじゃ俺が変態みたいに思われるじゃないか。

ちらりと机に突っ伏して眠っている臨也に目を向ける。起きる気配は全くない。

「まあとにかく頑張ってね」

「は、はあ…」

………これで良いのか?本当に良いのか?