bun | ナノ




叶わない恋を、しています


※来神時代静←臨
※ほの暗いです





叶わない恋を、しています。
俺の好きな人は、俺の事が大嫌いな人でした。


「……く……っ…」


今、屋上の扉を開けようとしたら、
好きな人の泣いている声が聞こえた。
誰にも気付かれないように、唇を噛みながら堪えているようだ。

彼は、強くなければならない。
幼少の頃から強く強く育ってきた彼は、こんな弱々しい姿を、誰にも見せてはいけない、と彼は思いこんでいる。
でも、彼も俺と同じ人間で、
怒ったり、笑ったり、泣いたり、全ての感情の表現は許される筈なんだ。
俺は、君の弱いところも、全て見てみたい。それは、決して興味からではない。

好きだから。

この言葉が全て。

君の全部が好きだから。
君の全部が見たいの。

なのに、
どうして、そんなに隠したがるの。
弱いところだって、ちゃんと好きなのに。
愛せる自信は、尽きないほどにあるのに。

やはり俺に見せたくないからだろうか。
俺は嫌われているからだろうか。

俺は、この扉を開けて、君を抱きしめて、慰めにいきたいよ。
泣かないでって、笑って、て言いたいよ。
だけど、俺が拒絶されるのは、目に見えている。きっと彼のためではない。

だって君は俺の事が大嫌いだから。

本当の『彼のため』なのは、これを見なかったふりをすること。
このまま階段を下りて、明日からまた同じように喧嘩をして、密かに彼の全てを愛せば良い。

これ以上足を踏み出してはいけないの。


きっと俺は彼の隣に並ぶ事は、許されないんだね。


何故か、胸が締めつけられるように痛くなった。
目頭が熱を帯び、涙が零れた。


「ど、して…」

君を見ているだけであんなにも満たされていたココロが、今じゃ何も無くなって、カラッポになったようだ。

つらい

かなしい

くるしい

こわい

涙がココロの中に溜まる頃には、俺はどうなるの。
ねえ、助けてよ。
そんな願いごと、今までしたこともなかったのに。
分からない。俺はどうなってしまうの。
つらくて、心臓が痛くて、しんじゃいそうだよ。

好き。
大好き。
泣かないでよ。
痛くて痛くて堪らないんだ。
振り向いて欲しい。
大嫌いは、嫌なの。
好きが、良いの。

俺も、愛して、欲しい。



「好きだから、泣かないで」

そんな声が、聞こえてきた気がした。


俺が一番欲しい言葉だった。





叶わない恋を、しています。
俺の好きな人は、俺の事が大嫌いな人でした。