bun | ナノ




慎ましく純情であれ


そういえば今日はポッキーの日だっけ、と昼休みに隣で臨也がポッキーを嬉しそうに食べていたのを見てふと思いだす。
なんで11月11日がポッキーの日なんだよ。棒が4本立ってるだけじゃねえか。実際今日は煙突と箸の日でもあるらしいぞ。
なんて豆知識を披露するわけもなくじっとポッキーを食べる臨也を見ていた。結局はあれだ、菓子会社に踊らされてるに過ぎないんだよ俺たちは。

「臨也それ一本頂戴」

俺の前の席にメロンパンを食べながらもポッキーを食べようとする新羅。
臨也の前であり新羅の隣の門田は焼きそばパンをかじっていた。

「勝手にとっていいよー。あ、ドタチンは?」

「あー俺はいいや」

「ん、じゃあシズちゃんにも一本あげるよ!」

「……っ」


二本のポッキーをリスみたいに食ってる臨也が三本目を袋から取り出して、俺の閉じている唇に強引に差し込んきた。仮にも付き合ってる人にこの無理やりさはないだろう。仕方ないので食べることにする。
久しぶりに食べると美味いなこれ。

「静雄がポッキーを持つとポッキーがすごく小さく見えるね」

新羅もポッキーを食べながら笑う。

「デカくて悪かったな」

「いやいやそういんじゃなくって」

あ、と門田が焼きそばパンから口を離す。

「…そういえば今日ポッキーの日だな…」

ようやく気付いたか。俺は数分前に気付いたけど。なんてちょっと優越感にひたたったりしてみる。してみるだけだけどな。
臨也は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせ、空のポッキーの箱に手を突っ込んでパペットのようにパクパクさせていた。

「そうだよ。だから買ってきたの。なんと138円!まるで俺のためにあるかのような値段!」

パクパクを俺に向けるなうざい。

「臨也それポッキーの会社に踊らされてるだけだよ」

「いいじゃん踊らされてたって。楽しければ良いんだよ」

「楽しいってポッキーの日の何が楽しいんだよ」

「あ、そういえば臨也、ポッキーゲームしないの?」

「ポッ…っ!」

事の発端になるのはだいたい新羅の発言である。
なんだよなんで急にポッキーゲームでてくるんだよ。しかもちょっと門田もなんか促した感が否めないだが。
ちらりと臨也を見ると、一瞬目が合うが即逸らされる。くそムカつく。

「お前が一番最初にはしゃぎそうな気がするけどな、ポッキーゲームなんて」

「なあっ…ドタチン…あのねぇ…」

門田が臨也の頭に手を置いて頭を撫でていた。
その光景が少し悔しくて、ポッキー二本目をさり気なく袋から引き抜く。臨也は気付いているだろうが別に怒りはしなかった。それどころか、少し頬を赤らめて、俺の食べてるポッキーをチラチラ見ている。
視界の隅で新羅がにやりと笑っていた気がした。

臨也は俺とは目を合わさずに続ける。

「ポッキーゲームとか(笑)それこそプリッツだがプレンツェルでも出来るものを…結局はちゅーしたいがためのゲームでしょ!こんな下心しかないものなんて誰が…!」

臨也が早口でまくし立てて言うものだから、たまには可愛いところもあるんじゃないかって、ちょっとからかってみたくなって、

「臨也ー」

ポッキーをくわえたまま呼んでみた。

「誰が…」

あ、なんか臨也震えてる。

「?」

「ええやりたいですとも!そういう人間ですがなーにーかああああ!?」

「うおっ!?」

なんか抱きついてきた!?

「んむ!」

「……っ」

しかも俺のくわえてるポッキーに5センチぐらい噛み付いてきたんだけど!

椅子と俺の膝に座って抱きついてる臨也に挟まれ強制ポッキーゲームだ。響きがなんとなくエロいとか、そんな事なにも思ってないからな。
俺は何もすることは出来なかったが、

臨也も何もしてこなかった。

「…しねえのかよ」

「う、だって……」

これ以上進むのが恥ずかしいのか、硬直したまま動かない臨也。
だって…とか子供か。途中までのあの勢いはどこ行ったんだ。
そして俺の口に含んでるポッキーはそろそろふやけて気持ち悪くなってくるんですけど。

「………ちっ…面倒くせぇな」

「っ」

びくりと震えた臨也の肩を押さえて、臨也を繋いでいたポッキーを折って、

そのまま一瞬だけ口付けた。

ポッキーを加えたままていう不格好な体勢だが。
うわーなんかやばい。顔熱い。シチュエーション的に恥ずかしすぎた。

「…シズちゃんからの…ちゅう…!」

「………い、いざ、」

恥ずかしいのか嬉しいのか臨也が俺にしがみつくように抱きしめてきたので、そのまま椅子ごと倒れる。
バッターンと教室中に響く俺と臨也を乗せた椅子の音。

「おまえばっかっなにしやがんだよ!!」

「んむ…?」

そんな事お構いなしと、なんかすっごいべたべたしてくる臨也の頭を腕を回して自分の肩口に押しつけ、俺はようやく臨也から焦点を離れた。

…男子も女子も隣のクラスから遊びに来てる奴も…みんな俺らのこと見てる。

「ははははは!」

そんな中新羅だけが爆笑。実にシュール。

「なんか…コントを見てるようだったよ…!もう君たち夫婦だね夫婦」

「はあ…お前ら場所をわきまえろよ…」

俺の顔に更に熱が集まる。非常に恥ずかしい。とにかく恥ずかしい。俺の黒歴史に教室でポッキーゲームしてキスして椅子ごと倒れこんだのをクラスの人に見られたということが追加された瞬間だった。

「しっシズちゃんがポッキー折ったからシズちゃんの負けー!」

さすがに臨也もいたたまれないのか起き上がり誤魔化すような軽い口調で喋る。

「まだそれかよ!んなことより、手前のせいで門田に怒られたじゃねぇか!」

「違うよシズちゃんのせいだもーん!ふふふシズちゃんとちゅうしちゃった…ひゃああ大胆なんだからもうっ」

「ああくそ黙れ黙れ!もう二度とするか!つか人の事言う前に元はといえば臨也が…!」

怒鳴りちらしてる最中にちらっと新羅と門田が視界に入ってが、今度は新羅だけでなく門田まで面白そうに笑ってたから、なんかもう全部どうでも良くなってきた。






いつまでも子供のように純粋なままで














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書き始めたのは11日だったんです…。なんでいつの間に13日に…。
ポッキーはいつの間にかログアウトしてました。