bun | ナノ




青春フラーリッシュ


※青アイシズイザ





「おおおうシズちゃんの浴衣姿…マジビューティフル…ぶわっ」

「臨也が鼻血拭き出した!?ティッシュ!あ、無いっ門田ティッシュ持ってる!?」

「ティッシュティッシュ…って俺も持ってないわ!ハ、ハンカチなら!」

「…………」

男4人で来た近所の夏祭り。みんなで浴衣着て、ちょっとカッコなんかつけちゃって。それでもむさ苦しく男しかいないけど、俺はシズちゃんがいれば嬉しいので、別に空しいとか全く思わない。まあそれは4人とも思っているだろう、少し思考が普通の人と異なってるメンバーだからね俺たちは。

「シズちゃん綿飴食べたいー」

「300円とかぼったくりすぎだろ…自分で買えよ…」

「俺が買ってやろうか?」

「門田君はほんっと臨也に甘くなっちゃってるよねぇ」

屋台を4人で見回って楽しくワイワイとはしゃいでいられればれ以上は何も望んでいなかったんだ。



なのに、これは!!




「おい、臨也ぁ」

「?どうしたの?」

「……門田と新羅は?」

「あ、あれ…いない…え」

「まさかはぐれたとか…くそ…」

「え、」



新羅あああドタチンんんんんGJ超GJ!!

なんとシズちゃんと夏祭りで2人きりになってしまったのだ!
嬉しいハプニングである。決して新羅とドタチンが邪魔だと思ってはいなかったが、正直シズちゃんと2人になれるのは嬉しい。それが自然的か意図的かは分からないが、とにかく2人には感謝。

「…………」

「シズちゃんどったの」

ちょっと嬉しそうな俺に、シズちゃんは眉間に皺を寄せ不思議そうに俺を見る。当たり前の反応だ。

「手前の仕業なんじゃないのかと思ってな、」

「そんなことあるわけないじゃん!今回のは事故だよ事故。俺は全く関係ないよ?信じてよ?」

「胡散臭ぇ……」

どうしてか、シズちゃんは苦笑いしていた。あれ、いつもは嫌悪に満ち溢れた表情をして俺を見てくるのに。

「?」

「あー、まあ……とりあえずこれからどうすっかだな」

「んー…あ、この後花火大会だし、見たいだからそれ見よっか」

「おい、新羅と門田は…」

「2人も分かってくれるよ!!」

はあ?どういう意味だよ、と今度はちょっぴり怒り始めたシズちゃんの手首を掴んで屋台の通りの外れまで駆け足で走って行く。

賑やかだった屋台の周りとは一転、暗く静かな場所へと来てしまっていた。ここは俺が去年の今頃発見した花火大会の特等席だ。来る時のために覚えていて良かった。

「ここから見えんのか?」

「勿論、安心して」


そして、タイミング良く、花火が打ち上げられる。大会が始まった。

うん、本当にナイスポジション。素敵に無敵、俺最高。


「………おー…すげーキレー」

「でしょでしょ!!」

シズちゃんと、特等席と。
相乗効果により打ち上がる花火がより一層綺麗に見えたんだ。

しかし



しばらく…10分くらいで俺はすっかり花火に興味を無くしてしまった。やだね、飽きっぽい性格とか。
綺麗だけど、こんなにたくさんはいらないと思う。例えるなら豪勢な料理がたくさん並んでいるような。美味しいけど、お腹いっぱいになっちゃうともういらないって思うでしょ。

「ねえシズちゃん、何か食べ物買ってきてまた見ようよー」

「………」

「シズちゃん?」

だけど、シズちゃんはどうやら俺とは違うようだ。

「…………」

「…ねえ……シズ、」


気付いて、ない。
俺の声は次々に上げられる花火の音に掻き消されていた。
途端、もやもやと立ち込める霧のような物が俺の心を一面に広がり始める。悪い癖が出た。まずい、かも。

シズちゃんが俺以外の何かに意識を向けていることに弱い俺は、憂鬱的な気分に陥ってしまうのだ。
嫉妬深いのは分かっているが、前まではこうではなかった筈なのに。最近になってから自分の気分の浮き沈みさが強く表れるらしい。新羅曰わく「臨也はよく泣くようになった」とか。



どくんどくんと、心臓の音が全身を木霊する。シズちゃん、ねえ、こっち見て、シズちゃん。



そんな思いに気づかないシズちゃんと僅かに肩同士が触れた。
途端、ぶわっと愛おしさが溢れてきた。
好きだ。好きだよシズちゃん。ねえ、聞けよ。

届いてよ。


ね、どうして、こんなに、

「シズちゃん」

「………」

やはり俺の声は花火の音に掻き消され、直ぐ近くにいるのにシズちゃんは全く気付かない。

「シズちゃんシズちゃんシズちゃん!」

「………」

こんなに言ってるのに。
ねえ、シズちゃん!



君が好きすぎて、辛いんだ!
ねえ!助けてよ!!






「――?」




シズちゃんはようやく俺が声をかけていることに気付いたようで、こちらを振り向いた。

そして多分、俺の名を呼んだ。


「!…おま、なんで、泣いて…?」

「っ…泣いてないよ」

「俺が悪い…のか?」

「…………」

花火の明かりで割とはっきりシズちゃんの表情が分かる。相変わらず花火の音がうるさいけど、シズちゃんが俺の方に耳を傾けているのでしっかり会話が出来る。それに嬉しくも距離が近い。

でも…なんで君まで泣きそうな顔してるのさ。



「………ちょっと、待ってろ」

「…?」

頭をぽんぽんと撫でられ、シズちゃんはそのまま屋台の方へ走っていってしまった。
どこへ行ったのだろうと戸惑っていると、暫くしてシズちゃんは戻ってきた。


「………おらよ」

「?」

シズちゃんの手に持っていたものが俺の手に傾けた。口元がもふもふして、甘い………あ。

「…綿飴?」

「……これで泣き止め、バカ臨也」

俺そんな子供に見える?

と、一応綿飴を受けとり一言言ってやろうかと口を開いた途端、


「っ!」


「………」



どん、と花火が打ち上げられた音と同時に、


シズちゃんに抱きしめられた。




「…は、ふ、…ええ!?」



え、何。
何が起きた。
これ、俺の夢ではないよね!?妄想でもないよね!?
心臓がはちきれそうに高鳴っていてとても痛いから夢じゃありませんかそうですか。

一人でパニック状態になっていると、シズちゃんが更に力強く抱きしめてきた。加減はしてるみたいで、全然痛くはないけど。

そして、言い聞かせるようにシズちゃんは呟いた。

「俺は手前の泣いてる姿が嫌いなんだよ…」

「……??」

「でも、今まで、それ全部、俺のせいなんだろ?俺のせいで、お前いつも泣きそうになって…」


ちょ、耳元で喋るのは、反則だろう。しかし空気を含みながらに聞こえたシズちゃんの声色は心なしか、泣いているようだった。


「……シズちゃんのせいじゃないんだよ、つーかなんでシズちゃんの所為になるわけ?」


「……俺はっ、」





一呼吸、
そして刹那、






「……臨也が、好き、だ…から」





「……!」

どーん、と一段と大きな花火が打ち上がる。少女漫画でもこんなロマンチック気取った告白シーンは無いだろう。シズちゃんの腕の中で、俺の体温が一気に上がった気がした。高揚する気持ちと共に、再び目頭が熱くなってくる。


「だから!泣いてほしくなんてねぇ…て、思って…ああもうなんて言えば伝わるかわかんねーけど!兎に角好きなんだよ手前が!」

「ふぇ…シズちゃん…っ」

「はああっ!?なっ…おま…、だからなんで、」

「これはっ嬉し泣きだバカあああ!!」

「うおっ!?」

飛び付くようにシズちゃんを強く強く抱きしめ返す。
片方には綿飴を持っているから、不格好な抱きしめ方になっちゃったけど。

「ああう、シズ…ふぇっ…ひっくシズちゃんんっ!」

「お、落ち付け、俺が悪かったから、さっきのは、」

「俺もっ好きっ大好き!!シズちゃんラブ!うわああん」

「あああっ知ってるから、分かってるから!」

小さな嫉妬や不安や寂しさなどの俺の心の中のわだかまりが全て無くなった気がして、情けなくも涙が止まらなかった。
それでも、シズちゃんは悪態を吐くことなく俺をぎゅっと抱きしめていて、頭も撫でてくれた。もう俺にデレッデレじゃないのシズちゃん。いつ俺の事こんなに大好きになっちゃったの。

シズちゃんを初めて見て、そして想うようになってからずっとずっとこの日を夢見てきた。シズちゃんは俺の事大嫌いだったから、この気持ちは叶わないと分かっていても何故か止められなかった。どれだけシズちゃんという存在に惚れ込んでいるんだと新羅に叱られたこともあったけど、こうなっちゃったらもう結果オーライだよね。終わり良ければ全て良しだよね。

「こんだけ言ったのに、どうすれば手前は泣き止むんだよ…」

「あ、う、ごめんね…。違うの、シズちゃんが格好良すぎてつい」

「ついって……あ、そういえば…綿飴は?」

「ん、ここに持ってるよ」

腕を緩めたシズちゃんは俺の肩を掴み、向かい合う形になる。

「…ば…」

「?」


想いを伝えられてから始めてシズちゃんの顔を見た。…すごく顔真っ赤です…。


「……ふふ…大丈夫?」

「っ…笑うんじゃ、ねぇよ…つか、やっぱりさっきの、」

「さっきのナシは駄目だよ!両想いなんだからシズちゃんは今日から俺と付き合う!」

「…なっ」

「じゃないと泣くよ」

「………脅さなくてもそのつもりだバーカ」

シズちゃんは俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回して、嬉しそうに笑っていた。

その笑顔、凄い好きだ。かっこ良くて、安心してしまう。

「…あれ…?」

「なんだ?」

「…いつの間にか花火終わってたね」

「あ、本当だ…」

「…新羅とドタチン、探そっか?で、俺たち付き合いましたってカミングアウトする?」

「カミングアウトって…。まあ俺はどっちでも良いが、2人が聞いたら、多分驚く、よな」

「…そうかな?…あ、ドタチンが倒れちゃったらどうしよう…」

「あ…ありえなくはねーよ…」

「ははは、」


俺たちはくるりと方向転換をし、屋台の通りへ戻って行く。
手繋いで良い?って言ったらキレられたから、シズちゃん純情だねぇと笑って言えば本当に怒って、先に早歩きで行ってしまった。

「ちょっやだっ待ってー!置いていかないでー!」

「うるっせー!んな大声出すな!」

でもね、シズちゃんがいつも側にいてくれるなら俺、もう泣かないよ。








「本当に見つからない…どこに行ったのあの2人は…」

「とりあえず携帯で新羅と門田に連絡いれておくか」

「じゃあ俺ドタチンに電話するから、シズちゃんは新羅ね………あれ、シズちゃんいつの間に携帯新しくしてたの?」

「春に替えたんだけど知らなかったっけ?」

「見る機会なかったからなあ……あ」

シズちゃんの携帯電話には、俺が修学旅行であげたストラップがキラキラと光りながら揺れていた。




Happy End!

Thanks reading!!













一応青アイの区切りを書かせていただきました。シズちゃんと臨也が付き合うまでの流れとしてはここで終止符を打たせていただきます。