bun | ナノ




本音を奏でる


※20000HIT企画
※青アイ設定シズイザ







「あ、お帰りシズちゃん!」

なんだこれは。









状況を整理する。
学校から帰ってきたら俺の家に臨也がいた、以上。

つか手前今日学校来てないと思ったらここにいたんかよ!
と突っ込みをいれて玄関に立ち尽くした。
足元を見ると、臨也のらしき靴しか無く、つまり家には何故かこいつを除いて俺しかいなかった。幽は修学旅行だから数日帰ってこないのは分かるが、両親は。つか母さんは。

「お母様とお父様は夫婦水入らずで旅行中だよ」

ニヤリと笑う姿に、若干の恐怖を感じた。
またか、なんてちょっと慣れてるのが悔しい。なんつうか金でひょいひょいと人間を動かすの、どうにかして欲しい本当に。
しかしこいつどんだけ金持ちなんだ…。

「だから、しばらく2人きりだよ!」

「は、なんで」

「俺今日からシズちゃんのお嫁さんだもの!」

「はああ!?」

なんでそういうことになるんだよ!

「ほらほら玄関で突っ立ってないで早く上がって…あ、もしかして王道のあれ言って欲しいの?」

「あ?」

「ご飯にする?お風呂にする?それとも…ってああ待ってよ!」

臨也の言葉をとりあえず無視して、俺は靴を脱ぎ捨て急いで家の中に入る。一応知り合いとは言え不法侵入だろこれ。何かされてたらー…

「…待ってよー!」

「うるせえ!いったい何を企んでやがる!」

「別に何も企んでないからぁ…ただシズちゃんと新婚ごっこがしたかったんだもんー」

臨也は俺の腕に抱きついてきて、ずいぶんと甘えた声で俺にすり寄る。気持ち悪い。
ていうか新婚ごっこって何?

「あーはいはい、じゃあ早く帰れ」

「ええ!夜ご飯作ったのに!」

「夜ご飯!?」

なんだと!?
不法侵入の挙げ句勝手に人んちの台所使って夕飯作りだと!?
ノミ蟲は本当に予想斜め上の事をしやがる。

そんな事を考え、驚いている俺を臨也はスルーして、リビング兼台所に姿を消した。
我に帰った俺がリビングに顔を出すと、臨也がテーブルに2人分のカレーを並べていて、しかもなんか美味そうに見えて、
頭の中がごちゃごちゃして、俺はため息をしか出なかった。

「因みにお風呂も準備終わってるからね?」

「はあ…」

なんでこんなに用意周到なんだろう。
怒り通り越して呆れてしまう。

「あ、俺の準備もばっちりだからいつでも」

「それはいらない」

こうして、強制的に臨也との新婚ごっこ(?)が始まったのだった。




「シズちゃん、おいし?」

「まあ、旨い」

さらば違和感。

何故か臨也が俺の家にナチュラルに存在していても、数分立ってから落ち着くと、俺の脳内はすんなりとこの状況を受け入れ始めていた。学校でも一緒にいるからだろうか。何度かこいつと寝食を共にしてきたからか(といっても2回か)それとも意外にも許容範囲が広いのか?うん分からん。これだから俺はいつまでたってもバカなのだ。
まあ、本当に帰ってほしいって訳でも無かったし、やり方はどうであれ夕飯作ってくれるのとか嬉しいし、そもそも俺臨也のこと、

「おいし!?本当?やった…!何度か挫けそうになったけどね、シズちゃんの部屋を転がりまくったりベッドにダイブしたりクローゼット開け閉めしたから最後までやり遂げたんだよ…!」

気持ち悪っ。
…やっぱり嫌いだ。
突っ込み所多いがひとついいか。何故クローゼットを開け閉めする必要がある?

しかしリビングで向かい合わせになって2人きりでカレーを頬張る男子高校生っていう図はめったにないだろう。

「うーん、こんなに美味しく出来たなら新羅とドタチンも呼べば良かったなあ」

「それ、新婚ごっこじゃねえだろ」

「あ、新婚ごっこ認めた?」

「…っ」

両手で頬を抑えて机に肘をつきながらこちらを見てニヤニヤする臨也。カッと顔が熱くなるのを感じて、俺は絶対に目線を合わせないように下を向いてカレーを頬張った。







「ごちそーさま」

「おそまつさまっ」

同じくらいのタイミングで食べ終わると、臨也は直ぐに立ち上がり食器を片付け始めた。

「いや、これくらい自分でやるから」

「いいのいいの!シズちゃんは旦那さんらしくのんびりしててよ!ていうかお風呂準備出来てるからいってらっしゃいな」

「はぁ…?」

「熱くないといいんだけど…まあシズちゃんなら大丈夫か」

なんか…不覚にも臨也らしくないと思ってしまった。
てっきり皿なんか放って「お風呂一緒に入る!」とか言い出してくるかと。い、いや期待とかしていたわけではない。断じてない。なんで俺があんな変態みたいな事を考えなきゃなんねーんだよクソ!ムカつく!



部屋のドアを苛立ちながら押したせいで、またドアノブが歪んだ。大股でクローゼットから風呂に入る用意をするべく引き出しを開けたら、

「………あれ」

なんか可笑しい。
パンツが…少しばかりか、ない。ていうか減ってる代わりに見知らぬ新品のものまで入ってる気がする。

「…んのやろ……」

クローゼット開け閉めってこういうことかあああ!!



「いざやあああ!」

「!シズちゃん!どうしたの!?」

「俺のパンツ盗むな!」

「盗んでない!新しいのと交換したの!」

「意味わからん!」

じゃあ俺が従来履いてたやつはどこに!?

「まあまあ、とりあえずお風呂入ってよ!背中流してあげようか?はっなんなら俺が体洗ってあげても良いよ…!!」

「ああああうっぜえ!」

ああもう話になんねえ!

パンツはもう諦めよう。返ってきたところで履きたくもねえ。
皿洗っている臨也を置いて風呂場へ向かう。臨也の言う通り浴槽には程よい温度の湯が張ってあったので、服を脱いで浸かった。一人きり。なんだか、静かすぎる気がした。

「…ありえねー……」

俺は平穏が好きな筈なのに。






「シズちゃんおかえりー…おお」

「まだいたのか」

「だって新婚ごっこだもーん。明日シズちゃんが登校するまでいるよ。じゃあ俺もお風呂入ってこよー」

「はぁ……」

用意周到としか言いようがない。
完全に俺んちに居座っている臨也を横目で流して、俺はリビングに戻った。台所も机の上も綺麗に片付いていて、思わず感心してしまった。
料理も美味かったし、家庭的なんだな…。
って何気持ち悪いこと考えてんの俺!
もう駄目だ。これ以上奴に構ってると俺が可笑しくなる。濡れた髪をがしがしと掻いて、気晴らしにとテレビを付けた。バラエティー番組など興味は無いのだが、何か違う事をしていないとほんっとうに、可笑しくなりそうで。

「…っ」

頭の中はぐるぐると臨也の事ばかり。
もう俺死ぬんじゃないか。







「たっだいまー」

「…………」

ほくほくと茹でたような臨也が風呂から上がってきたのはあれから30分ぐらいした時ぐらいだろうか。
俺は突如として襲ってきた眠気をリビングで必死に堪えているところだった。テーブルに頬杖を立ててテレビを見るのも限界が近付いていた。
でも自分が先に寝たらこいつ何仕出かすか分からねぇし。早く帰ってくんねーかな。

「うつらうつらって感じだね?」

「………るせ」

「じゃあもう寝ようか?」

「…?」

は?と言ったつもりが口だけ動いたらしい、俺の声が眠気に負けて発する事はなかった。
目の前の茹でノミ蟲は自分のであろう黒いパジャマを着て、にこにこ…いやにやにやと笑いながら俺に近付いてくる。あ、これヤバいんじゃね、と眠いながらも俺の第六感は警報をあげる。何がヤバいって、

「さあっ!シズちゃんのお部屋へゴー!!」

こいつ俺の部屋で寝るつもりだ。しかも俺の部屋には当たり前に自分が寝るためのベッドは一つしかない。

「ちょ、ちょ、まて」

「?」

「マジでいつまでいんの手前」

「だから言ったじゃん」

明日シズちゃんが学校に行くまでだよ?


俺の服の袖を引っ張り部屋に向かう臨也のたいそう無邪気な笑顔が、俺にはとてつもない毒を帯びているかのように…いや帯びていた。

「……朝に全裸とかマジでもうやめろよ」

「ふふ、シズちゃん俺の全部見ちゃったもんね!」

「…っ」

がちゃりと俺の部屋の扉を開けて、半ば引っ張られるようにベッドにダイブ。急いで臨也を壁際に押しやって、俺は臨也に背を向けて寝転がった。

「別にやらしい事なんてしないのにそこまで拒否しなくたっていいじゃない…!」

嘘つけ嘘を!

「まあ…いいけどさあ…」

ふてくされたような口調。俺は返事を返さず寝た振りを決めこんだ。さっきまでの眠気はどこにいった。畜生このまま何も考えず早く眠りにつきたいのに。
高校生と言えどもう小さいとは言えない体2人分がシングルのベッドに入るのはとてもきつかった。下手すりゃ俺このままベッドから落ちるんじゃないか。
でもそれをいちいち怒るのも面倒になってきて。
俺はだいぶ臨也に毒されてるんじゃねぇかな、と思った。超不本意だが。

「シズちゃん寝た?」

うん寝た寝た。

「………」

「…………」

「…………」

「…シズちゃーん」

「……………」

「…シズ…ちゃん」

俺の背中の向こうで若干声を潜めて俺の名を呟く臨也。
甘えるような声は、少しずつ、少しずつ、すすり泣くような声色に変化していく。

「…………好きだよシズちゃん」

知ってる。

「好き、すき……だいすき、ね、気付いてよ」

「………」

「……しず、ちゃん……」

「………」


「…ねえ、……さみしい…よ」

「!」

夜とは、恐ろしいものである。
今すぐ振り向いて、震えているであろう臨也の体を抱きしめてやりたかった。その言葉が俺の気をひくための嘘であっても、本当であっても、柄になく『イトオシサ』と言うものを感じてしまった。胸の奥を締め付けるような。しかもこいつなんかに。人ん家勝手に入り料理作ってパンツ盗んでしまうこいつなんかに。
そう思ってしまうのは、それほど俺は臨也が……

























「………ん…」

陽光が眩しくて俺は目を覚ました。あれいつの間に寝ていたんだろう。意識が覚めぬままぼんやりと考える。そして一気に覚醒した。
そういえば昨日、臨也が!

ばっと後ろ、もとい昨日臨也が寝ていた壁際を振り返る。

「………?」

いない。
臨也が、いない。


さみしい、


昨日臨也が呟いた言葉が頭の中に響き渡る。臨也は、どこに。

飛び起きベッドから降りて急いで部屋から飛び出す。何故かよく分からない焦燥感が俺を縛り付けて離そうとはしてくれなかった。
どこにいる臨也!




「あ、おはよーシズちゃん」

「!?」

「良かった。丁度朝ご飯出来たところなんだ。今から起こしに行こうと思ったのに…」

学ランを脱いだ制服の上にエプロンを羽織り、テーブルの上に朝飯を乗せ、ちょっとつまんないなぁ、そう言って笑った臨也に、

無意味に俺もなんだか笑えてきた。








好き
好きだよ
大好きだよ
気付いているから

本当はさみしくなんか、させたくないんだよ








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胡桃さまリクエストより青アイ設定で新婚さんパロでしたー!し、新婚だと…じゅるじゅる…涎垂れ流しで書いた結果がこれです(汚) 新婚らしくない…だと…。そもそもこいつら普通に寝るとかありえないですよね…!すみませんでした。書いている本人は凄く楽しかったです。リクエストありがとうございました!
うおおメールの字数制限ぎりぎり!

あっタイトルから下をぐっと反転するとシズちゃんの本音が見えるよ!でれっでれだ^^