bun | ナノ




それだけは理解不能


※20000HIT企画
※青アイ設定




「シズちゃんが…スカウト!?」

「…んなでけぇ声で喋んじゃねー」

「静雄がああええええええ!」

「新羅手前…!」

「…ははは」






昨日、弟の幽と池袋をうろついていたら、スカウトされた。

そこそこ有名なプロダクションらしいが、芸能界とかそういうの、俺は心底全く興味が無かったから軽く流そうと思っていたのに。
べらべらと妙に俺を褒めやがるそいつに徐々に苛立ってきて、ダメだよ兄さん、と隣にいた幽に見透かされたように抑止をされたお陰で、なんとか俺の理性を繋ぎ止めることが出来た。本当こういう時に幽がいて良かったと思う。小さくため息をついた途端、今度はそいつ、隣にいた幽に目をつけやがって。
で、なんやかんやで幽が芸能界デビューをしそうっていうそれだけの話。まあ幽が嫌がってないなら、俺はとやかく言う筋合いなどねーんだがな。


珍しく食堂で飯を食ってる時、なんとなく会話に詰まったから思い出しながら3人の前で話していたんだが、正直ここまで驚かれるとは思わなかった。
ほら、周りの奴らもびっくりしてこっちチラチラ見てんじゃねえか。

新羅は味噌汁を啜りながら眉を困ったように下げて、笑っていた。どうでも良いがこいついつも味噌汁飲んでねえか。

「これだからイケメン兄弟は…」

「?新羅って静雄の弟を見たことあるのか?」

「んー、まあ小学生の時だけだけどね…今思えば綺麗な子だよ」

門田の隣で新羅が昔を思い出しているのか、腕を組んでうんうんと頷いていた。

「…………そ…んな」

そして半分忘れかかっていたが、ここに一人…いや一匹だけ、時間の流れが止まっている奴がいた。

俺の隣に座ってプリン食ってる、ノミ蟲だ。


「臨也?」

「〜〜っ」

「臨也ー?おーい?」

「だっダメだシズちゃん!!!!」

「……あ?」

ばん、と机を叩いて椅子から立ち上がるなんてどこのヒステリック女だよ。
小さな身体を震わせて若干涙目になってる臨也をまあまあと新羅と門田はなだめていた。

「落ち着け臨也、周りが驚いてる」

「だっ、だってシズちゃんがアイドルになるにせよ俳優になるにせよ芸能人になっちゃったら絶対狙う奴増えるって!」

なにを言ってるんだろうこいつは。

「静雄を?まあ大衆に晒されるなら当然の事だよね。ただでさえ静雄かっこいいんだし…」

「シズちゃんがドラマでラブシーンやられたら死ぬ。例え演技だとしても見れない…っその女殺してやるっ!」

「だから断ったっつったじゃねーか。つーかなんで芸能界入る前提なんだよ…」

きーきーと猿かと突っ込みたくなるほどうるさいノミ蟲。
こいつのせいで周りの生徒も注目し始めていて、恥ずかしくなってきた。

「あんまうるせえと殴るぞ」

「うっ……だって…」

何が不満なのかさっぱり分からない。萎れたように俯いた臨也は本当に何を考えているか検討もつかない。つきたくもないが。

「シズちゃんがスカウトされたってことは、その」

「断ったっつったろ」

「でもシズちゃんにはそーいう外見的な素質があったから声をかけられたわけで……だから、」

「あああうぜえ!!何が嫌なんだっつーの!」

持っていた皿が粉砕したが気にしない。臨也が涙目で俺をじっと見ていた。
あ、やべ、しまった。

「……あ…」

「………もういいっ」

「わ、わり」

「あー静雄ーいけないんだー」

「違っ」

「ふんっ」


臨也はそっぽを向いてしまった。
しかもなんか周りの奴らがざわついてる。え、え、ナニコレ。
つかなんでこのノミ蟲急に態度変わったの?なんなの?死ぬの?

俺が臨也の急変振りに内心慌てていると、新羅と門田は目配せをして急に立ち上がる。

「って、ちょ、ま、お前ら帰るんじゃねえ。俺を置いていくな」

「だって…ねえ?」

「なあ?」

ああくそ…っ!
何がどうなったっていうんだ…。

「まああれだ静雄」

「あ?」

席に座り直した門田は咳払いをした右手の人差し指を立てた。

「…臨也は静雄の顔がいいのが気にくわないんだろうよ」

「はぁ…」

続いて新羅が口を開く。

「まあ僕だってセルティがスカウトされたとしたら、例え断ったと聞いてもちょっとムカっとしちゃうかなあ」

「?」

だからどういう意味だ、と言えば、門田とそっぽを向く臨也は盛大に溜め息をついた。
くそ臨也をすげー殴りたくなってきた。

「ったく、お前ってやつは本当に…」

「ははは、女の敵だよ静雄〜」

「ばかシズ…」

「!?」

えええ分かってないの俺だけ!?

「とにかく謝れば?」

「ああごめ…ってなんで俺が謝る必要があるんだ!?」

「イケメンでごめんなさいと謝れば許す」

「だぁかーらあ!!」

馬鹿な俺にもわかるくらい、ちゃんと説明しやがれえええ!!








「微妙な乙女心ってやつな…」

「乙女心っていうか、臨也心?複雑だねぇ」

「…シズちゃんなんて狙撃されちゃえばいいんだっ」

「乙女心って…手前は男だろうが!」





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蜜稀さまへ、『青アイシズイザでシズちゃんが芸能界にスカウトされて臨也がふて腐れちゃう』話でした!
おそらくというか絶対、きっと2人はこの後仲直りします。臨也の方が折れそうです(ぇ)

誰にも渡したくない好きな人が他人に認められるとちょっと独占欲が発動しちゃう臨也の話でした。

リクエストありがとうございました!!