bun | ナノ




優しい彼に休戦合図


※20000HIT企画
※虚弱体質な臨也






「臨也ぁああ!!」

「わあシズちゃん、今日も活きがいいねぇ!!」

「魚か俺は!!」

教卓が空を切り、床をえぐるように滑る。
今日もシズちゃんは俺をこの世から抹殺すべく学校中のありとあらゆるものを俺にぶん投げてくる。殺意に満ちた表情は、まるで平和島静雄は鬼だと言われても納得してしまいそうなくらいだ。

再び2つ目の武器。掃除用具が入ったロッカーが持ち上げられる。投げたのを見計らい、俺は急いで角を曲がり階段を三段飛ばしで下りた。
後方でロッカーとロッカーの中身が散布する音が聞こえる。モップやバケツや雑巾、もしそれが自分に当たってたら痛いどころじゃ済まなかっただろうな。

「シズちゃんが魚だったら鮫とかシャチの類なんだろうね!」

「うっぜえ…!まだその話続いてたんかよ…!」

3階から1階まで滑るように全力で降りる。因みに今は授業中だから他の生徒の姿は無い。だからと言ってこのようにサボっている俺たちが珍しいわけではない。
俺とシズちゃんが授業を抜け出してこうして毎日喧嘩して鬼ごっこして。これは俺たちが入学してから2年とちょっと、来神高校に新たに刻まれた日常である。

「はあっ…も、…っシズちゃんってば早…っ!」

君は一体何段飛ばしで降りているの?と確認する暇も無く、どんどん距離を詰められてしまう。それに比例するかのように俺の息も荒々しくなってくる。こんなに全速力で階段降りたの久しぶりだし、そんな事考えるより…

「ぜえ、…はぁ…」

ヤバい。
思ったより、肺が苦しい。心臓がバクバクと高鳴り、視界が黒く影掛かって前が 見え辛い。

「はぁ、はっ…」

立っているのも辛くなり、スロープに捕まりその場でしゃがみこんだ。シズちゃんの階段を降りてくる足音が止まったのは、きっと俺を見つけたから。

「…臨也、わり、」

忘れてた。
なんてしらばっくれてんじゃねえよ馬鹿。
いやシズちゃんの事だから本当に忘れてたのかもしれないけど。

あのねぇ、俺ね、
人より疲れやすいのよ。
自分で言うのもあれだけど、虚弱体質なのよ分かるシズちゃん?

「…今日はいつもより早いな」

「…はあ、俺が疲れるまでのタイム計らないでくれるかな?…っ」

呼吸を整えてる最中に喋りかけないで欲しい。
俺と目線を合わせて、ていうか顔を覗くようにしゃがんだシズちゃん。俺たちの関係を知らない人間からしたら、シズちゃんが俺を追い込んでカツアゲしてるように見えなくもない。…そっちの方が幾分かマシにも見えるか。

「え、と、保健室行くか?」

「…全く…君はせっかちだよね…ちょっと休ませ…」

「おらよっ、背中」

「っ!!ばっ…」

何考えてんだコイツ!
おんぶとか出来るわけないじゃないか!

「ばっかじゃ…ないの…」

「なんで」

「いいよいいよ、俺ん事放っておいて、さっさと教室にお帰りハウスハウス」

「なんで」

なんでなんでうるさいなもう!!知りたがりのお子様ですか!

「俺がそうさせたようなもんだろ……責任とったるから」


これも、日常なのだ。


俺のこの体質のせいで喧嘩などものの数分。俺がこんな風に倒れそうになると、シズちゃんは無駄に優しく俺に接してくる。じゃあ喧嘩なんか、追いかけっこなんか、しなければいいのにね。いや、今更なことだけど。

息も整えながらチラリとシズちゃんを見ると、困ったような表情をしていた。しゅん、て言うか、獣耳付いてたら絶対垂れてる感じ。犬か。

「だからほら、遠慮すんな。保健室行くぞ…」

「………保健室は、ヤ」

「…?」

「先生…いるじゃん」

無駄に心配されたくないんだよ。
大丈夫?はもう聞き飽きた。

「…立てるか?」

「………無理」

「ほら見ろ、じゃあ背中」

「おんぶもイヤ。誰かに見られたらヤダ」

「くっそ生意気……じゃあどうするんだよ」

「このままが、いい」

階段って、日差しが掛かってなくて妙な涼しさがある。このひんやりとした空気も良かったけど、保健室より静かで、心地よかった。

「……んな不清潔な場所、」

「まあ汚い……けどね、」

床に寝そべろうとすると、シズちゃんに学ランの襟首を掴まれてしまった。
そして、その手をどうするかと思いきや、

「……わふ」

シズちゃんの胸にダイブするような形になってしまった。
俺よりも大きな、だけど細いその身体の奥で、心臓の鼓動が響いている。そんな音までもが聞こえるくらいぎゅっと抱きしめられ、思わず蕩けそうになる。ああくそ、カッコいいとか、馬鹿シズちゃん。

「…?」

「…いや、こんな埃まみれの場所、余計に悪化するだろ」

「だからって、なんでシズちゃんに寄りかからなきゃ…?」

「うっせえ…つかお前熱あるよな?熱い」

「はあ…それはシズちゃんが男前すぎるからだよ…」

「嘘つくんじゃねえ」

半分本気なのに、ちょっぴり切ないね。
やはり熱が出ていたらしく、寒気がしてきた俺の弱々しい身体は、シズちゃんに抱きしめられることによって、少しだけ温かくなった。








授業が終わるまで、ずっとこうしていてね。
休み時間になったら、再戦開始だよ!







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匿名さまへ!
虚弱体質な臨也に甘やかしシズちゃんで甘々のお話でした。
公認でみんなから心配される虚弱臨也と、シズちゃんだけが知ってる虚弱臨也…どっちにしようか悩んだ挙句、やはり秘密にしてる感じにしよう!と思い書かせていただきました。おおお、ひ、秘密っぽく見えない…orz

素敵なリクエストありがとうございました!!