bun | ナノ




やきもち桜味


「お花見しよう、お花見。学校の桜の木でやろう。登校した時に気付いたかもしれないけど、今桜がすっごく満開なんだ!」

始業式が終わり、帰ろうと席を立つと、一目散に俺にノミ虫が駆け寄り飛び付いてきた。

「手前なんでもかんでもやりたいこと俺らに押し付けんなよ面倒くせえ…」

「まあまあいいじゃない。俺は楽しいと思うよ?」

後ろから新羅の声。こいつとはなんやかんやで3年間同じクラスだったな。
視線を新羅から外し教室全体へ滑らせると、門田が隠れるように教室から出ようとしていた。それに気付いた臨也は、一端俺から離れ、門田の制服の裾を掴みこちらに戻ってきた。

「ドタチンも参加したいって」

「!?」

いや言ってねーだろ。門田の顔見てみろ。絶望に満ちた表情してるぞ。

「どうして俺までいるんだ…この間のケーキバイキングしかり」

「ドタチンはもう俺らの仲間入りさ。幸いにも俺ら4人、同じクラスになれたからね。仲間さ仲間。折原臨也を大いに尊敬する団、OOS団だよ」

「手前を尊敬するとか意味わかんねーよ。つかんなの入った覚えねーよ」

「あ、シズちゃんもうちょっと高い声で喋ってみてよ。あと敬語で。もしかしたら奴と似てるかもしれない。まっが」

「うるせぇ殺すぞ」

「高3になってすっかりこの2人も夫婦のようだね」

「ああ、早く結婚すればいいのにな、こいつら」

「!?」

門田まで何言って…すっかり毒されてやがる…!?いやまて、この表情は諦めの色…!

「さあさあ行こうっ早くしないと散っちゃうよー!」

「なぁっ離せ!!」

俺の腕に自分の腕を絡め、引っ張るように教室を出た。楽しそうにニヤニヤしてた新羅は後で桜の木の下で血祭りにあげてやる。









校庭の一角に、別次元なんじゃないかと思うくらい綺麗な桜が咲いていた。俺はあまり花に興味は無いが、たまにはこうして花を鑑賞するのも悪くないと思ってしまう。それほどまでに綺麗だった。

「お花見ってことはなんかやんのか。飯とか」

「お菓子とジュースならあるよ!」

「多っなにこの袋!流石臨也!用意周到だね」

どこから持ってきたのかスーパーの袋からビニールシートと大量のお菓子を次々と取り出し始めた臨也。職員室の窓から教師が苦そうな表情をしてやがるが、面倒なので無視しよう。

「シズちゃーんポッキーゲームしようよー。ほらイチゴ味もあるよ可愛いでしょ。俺にピンク、可愛い?」

「うん可愛い、ポッキーが」

「ははは」

「ドタチン笑わないで!」

そう言いながらポッキーをもさもさと食べ始める臨也を無視し、ビニールシートが敷かれた上に胡座をかいて、幹に寄りかかった。風に乗ってはらりと桜の花びらが数枚散る姿に、なんだか穏やかな気分になった。このまったりさが俺の望んでた平和で静かな暮らしなんじゃないかと思う。
但し、隣で奴がぎゃいぎゃい騒いでいるのを除いて。

「この桜が此処で見れるのも今年で最後なんだね」

「あーそうか!俺ら3年生だもんね」

「ただし、卒業出来たら、の話だな」

「なっドタチン酷い!最近のドタチン優しくないー…ふん」

「ははは…悪かった、悪かったって。そんな拗ねるな」

3人の絶えぬ声を聞きながら、ペットボトルの紅茶(レモン)を口に含む。

「門田って本当臨也に甘いよねー」

「あー…甘い、か?」

「俺はそんなドタチンが好きっ」


そして吹き出した。

「静雄!?どうしたのかい?」

「げほっ…い、いや…別に、気管支に入りかけただけだから」

こいつ、今なんつった?
好き?門田が?
好きって言うの…俺だけじゃ、ないんだな…って何考えてんだ俺!!いやノミ虫に変な期待とかっ別にしてねえし!!死ね!
…良く良く考えたら、ノミ虫は門田と一緒にいる場合が多いよな。しょっちゅう抱きついてるのも見るし、当たり前だが俺といる時より門田といる時の方が臨也、笑ってるし。いやいや、特に気にしてるとかそんなん違ぇから。

「シズちゃん、それ一口頂戴!」

「あぁ?うるせぇ黙れ」

くそ…苛ついてきた。意味わかんねえけどすげぇ腹立つ。こいつが死ぬまで存分にぶん殴りたい。

「えーシズちゃんと間接ちゅーできるチャンスだったのに…。じゃあシズちゃんの唇でいいから直接…」

「………門田がいるだろ」

「…え?」

「俺じゃなくても、門田がいるだろ」

「お、おい静雄…?」

なんだろう、言ってて気持ち悪くなってきた。

「ちょっと待ってくれ、臨也はー」

「なにそれ、俺がそういうのドタチンにしたいと思ってんの」

「ああ」

売り言葉に買い言葉。
ちらりと見たノミ虫の瞳が、潤んでた気がした。

「…あ…、」




「……シズちゃんのバカァ…!」


「な…っ!」

なっなんでこいつ泣き始めたんだ!?

「俺っおれ、シズちゃんが一番なのに…っなんで、ちゅーだって、シズちゃんとじゃなきゃヤなのに…!!」

服の裾を掴まれ、臨也は零れる涙を必死に袖口で拭いていた。

「な、なに言ってんだよ…つかそんなに拭くと傷付くから」

「だって…」

どう対象していいか分からず、ひとまず臨也の片手を掴んだ。濡れた瞳が俺を見つめる。
あークソ、無駄に可愛い………とか思ってねえからな!断じてない!

「…臨也を泣かせた静雄が悪い、かな?」

「そうだな、」

しかも俺のせい!?

「ひっく…シズちゃん…すきだよ、誰よりも…世界で一番、すき」

「!!」

あああああもう!わけわかんねえよ!!なんで俺、こんなに、くそ、なんで、
ノミ虫野郎に、すきかもしれないとか、思ってん の !!!

落ち着け俺、落ち着こう静雄。正気を取り戻せ平和島!
そうだこの意味の分からない気持ちを力に代えて発散させよう。ああここに丁度良い桜の木が。俺のサンドバックになってくれ一生のお願い!!

「くそっ死ねえええーっ!!」

「!?」

ばきょ
変な音がした。
あ、やべ、木の幹、折れちゃったかも。

本当に、一生のお願いに…。

桜の木が音をたてて地面に倒れていくのが、やたらとスローモーションで見えた。冷静にも俺は倒れる時に一気に舞った桜の花びらがただただ綺麗だと思っていた。

「はあ…素直になれよ静雄…」

「こればかりは、一生無理だろうねぇ…困った困った」

「新羅…お前が一番楽な立ち位置じゃないか…羨ましい。早くこいつらくっつかねーかな…」

新羅と門田がそんな事を呟いていたので殴ろうかと思ったが、泣き止んだ臨也に抱きつかれ、それどころではなくなった。












倒れた桜の弁償は臨也が代わりに払ってくれた。どこからそんな大金出てくるのか。「シズちゃん!これが俺の愛!」と言いながらニヤリと笑うノミ虫野郎はいつも俺をムカつかせる普通のノミ虫野郎だった。












新羅は最近臨也はよく泣くなあとか思って面白がっている。
昔は泣かなかったそうです(なにその裏設定)